設計コンセプトConcept

障害者

フランスでは障害者がどのように働いているか、建築の役割は何か

西村 寿々美 小林 宥見佳

1.視察の目的

 今回フランスを視察先に選定した理由は、障害者雇用の促進制度や就労支援の仕組みが整備されていることに加え、多様な文化的背景やルーツを持つ人々が共に暮らし、働く社会を形成していることにあります。
フランスでは、障害の有無だけでなく、国籍や文化、宗教など様々な背景を持つ人々が社会の一員として 活躍しており、多様性を尊重しながら共に働く環境づくりが進められています。そのような社会の中で、障害のある方がどのように就労し、社会参加を実現しているのかを学ぶことは、今後の支援や地域づくりを考える上で大変重要であると考えました。

また、フランスでは企業に対する障害者雇用制度や就労支援施設(ESAT)などの仕組みが整備されており、一人ひとりの能力や希望に応じた働き方を支える取り組みが行われています。今回の視察を通じて、障害のある方が地域社会の中で活躍できる環境づくりについて、建築的対応や運用の仕方にどのような工夫があるのかを視察し、今後の設計に生かすことを目的としました。

2.視察先紹介
(1)Notre Café

Notre Café 外観

 マレ地区のヴォージュ広場近くに位置する、自閉症や知的障害のある方々が働く「Notre Café(ノートル カフェ)」を訪問しました。
このカフェでは、道路を挟んだ向かいにある「IME Cour de Venise」に通う18歳から25歳までの障害のある方々が、常時6名勤務し、5~6名の支援員や教育者がともに働きながら運営を支えています。 メニューは、前菜2種類、メイン料理1種類、デザート2種類を基本としており、そのほかにクッキーやババロアなども提供されています。 メイン料理は大きく変更されることはなく、ボリュームのある料理が特徴的です。 カフェでは、働く方一人ひとりの能力や特性に応じて役割が分担されており、調理、配膳、ホール業務などを担当しています。 また、支援者はレジ業務や調理・ホール業務の補助を行いながら、利用者の状況に応じた支援をしており、 利用者と支援者がそれぞれの役割を担いながら協力して店舗運営を行っている様子を見ることができました。

絵で見分ける注文の仕方

カフェの入口には、その日のメニューが記載されたボードが設置されていました。
メニューには前菜・メイン・デザートを表す小さなアイコンが添えられており、利用者はそれらを自由に組み合わせて注文できる仕組みとなっています。

レジ対応や注文受付は支援者の方が担当しており、注文を受けると、料理を表すアイコンをマジックテープ付きの台紙に貼り付けていました。
各トレーには、コップやカトラリーとともに、注文内容を示すアイコンが貼られた台紙が置かれています。
スタッフの方々は文字や言葉だけでなく、絵やアイコンを通して注文内容を理解し、それぞれの準備を進めていました。
注文が終わるとアルファベットで書かれた札をもらい席について料理が運ばれてくるのを待ちます。

料理のアイコンがついたメニューボード

注文を受けた料理のアイコンをセットする様子

アルファベットで書かれた目印の札

新たな挑戦と目標

 「Notre Café(ノートル カフェ)」では、新たな取り組みとして、期間限定プロジェクト「MIJE」を展開していました。 このプロジェクトは、Notre Caféから15分ほど離れたMIJEのホテル前に仮設テントを設置し、期間限定のバーとして営業しています。Notre Caféで製造されたクッキーなどの焼き菓子やドリンクを販売しており、販売スタッフは障害のある方2名と支援員1名で構成されていました。スタッフには、実際にNotre Caféで勤務している方々が配置されています。

この取り組みの目的は、Notre Caféで培った経験や業務スキルが、異なる環境でも発揮できるかを検証することにあるとのことでした。新たな場所や状況においても、障害のあるスタッフが活躍できる可能性を広げるための実践的な取り組みとして位置付けられています。

また、ここではレジ対応や商品の受け渡しなども障害のあるスタッフが担当しており、Notre Caféとは異なる役割や業務に挑戦していて、同じ職場で働き続けるだけでなく、さまざまな環境や状況においても活躍できるよう支援する姿勢をみることができます。ここでは、障害のある方の働く場や役割について、将来を見据えた挑戦を実践していました。

(2)café Joyeux

世界に展開するcafe joyeux

世界各地で展開されている人気カフェ「café Joyeux(カフェ ジョワイユ)」を視察しました。パリ市内中心部にも4~5店舗を構えており、多くの人々に親しまれているカフェです。 「Joyeux」とはフランス語で「楽しい」「嬉しい」を意味します。このカフェは、ダウン症のある方や精神障害、自閉症のある方が、健常者と同じ条件で働く機会を創出することを目的とした非営利の事業として運営されています。

店内では、障害のあるスタッフが中心となって接客や調理、配膳などの業務を担っており、支援者は数名という少人数体制で運営されていました。障害のある方々がそれぞれの役割を理解し、いきいきと働く姿が非常に印象的でした。

メニューはサンドイッチやコーヒー、ケーキなどが充実しており、多くのお客様で賑わっていました。店内に入ると、ブランドカラーであるイエローを基調とした明るい空間が広がり、手書き風のロゴマークとともに、カフェで働くスタッフの写真が飾られていました。スタッフ一人ひとりが大切な存在として紹介されていることが伝わる温かみのある空間づくりになっています。

また、コーヒー豆は自社で焙煎しており、店舗での販売に加え、フランス国内のスーパーマーケットでも販売されています。来店時だけでなく、自宅でもJoyeuxのコーヒーを楽しむことができる仕組みが整えられていました。

注文の仕方や提供

会計後にはアルファベットが記載されたブロックを受け取り、席で待ちます。このブロックは2つで1組となっており、上下に分かれる仕様になっていました。
しばらくすると、フロア担当のスタッフが注文したコーヒーを席まで運んでくれました。配膳の際には、スタッフが持つアルファベットブロックと利用者が持つブロックを照合し、注文内容と席を確認する仕組みとなっていました。
シンプルな運用方法でありながら、スタッフ同士が連携しながら正確にサービスを提供しており、障害のある方が主体的に接客や配膳業務に携わる姿が印象的でした。

実際に料理を配膳する様子

(3)le Refret

パリ人気のレストラン le Refret

3店舗目は、マレ地区にある、主にダウン症のある方やその他の障害のある方が働くレストラン「Le Reflet」を視察しました。
店内では、配膳を担当するスタッフ2名をはじめ、調理スタッフや食器洗浄を担当するスタッフなど、多くの障害のある方が活躍しており、レジ業務は支援員が担当するなど、それぞれの特性に応じた役割分担が行われていました。
内装は、コンクリートや木材、レンガなどの素材感を生かした温かみのあるデザインとなっており、天井には、スタッフの名前が記された紙が吊り下げられていました。 今回、ランチタイムに予約をして訪れましたが、開店後間もなく多くの利用客が訪れる、地域に根差した人気店であることが うかがえました。

店独自の配膳方法

店内でまず目に留まったのは、各テーブルに設けられた溝でした。配膳スタッフが運んできたのは、メニュー表3枚、スタンプ、そして料理とドリンクそれぞれの注文内容を示すカードです。これらをテーブルの溝に配置することで、注文の準備が整う仕組みとなっていました。 メニューは、前菜2種類、メイン3種類(肉・魚・野菜)、デザート3種類の中から自由に組み合わせて選ぶことができます。

メニュー表と注文札

絵で見分ける注文の仕方

注文方法にも特徴があり、スタッフが注文を聞き取るのではなく、利用客自身がスタンプを使って希望する料理を選択します。利用客は楽しみながら料理を選び、スタンプを押しており、注文の過程そのものが体験の一部となっているようでした。この仕組みは、スタッフの負担軽減につながるだけでなく、利用客にとっても楽しさを生み出す工夫として大変印象的でした。
このように、店内には障害のあるスタッフが働きやすい環境を整えるためのさまざまな工夫が取り入れられていました。同時に、それらの工夫が利用客にとっても快適で楽しい体験につながっていて、働く人と利用する人の双方にとって心地よい空間が実現されていることが視察を通じて実感することができました。

スタンプを使用し注文するスタイル

3.私たちが考える今後の建築について

今回のフランス視察では、障害のある方が働くカフェやレストランを訪問し、就労支援の仕組みや店舗運営の工夫について学ぶことができました。
視察した各施設に共通していたのは、障害のある方が働きやすい環境を整えるための工夫が、利用者にとっても快適で魅力的なサービスや空間づくりにつながっていたことです。
アイコンやスタンプを活用した注文方法、役割を明確にした業務分担、配膳しやすい食器の選定など、一つひとつの工夫が障害のある方の働きやすさを支えるだけでなく、利用者にとっても分かりやすく、楽しさや安心感を生み出していました。

また、利用客とスタッフとの関わりは非常に自然であり、「障害のある方が働く店」という特別な場所ではなく、地域に根差したカフェやレストランとして多くの人に利用されている様子が印象的でした。障害の有無にかかわらず、人と人とが自然につながり、それぞれの役割を果たしながら共に社会を形成している姿を実際に見ることができました。
さらに、Notre Caféの期間限定プロジェクト「MIJE」のように、障害のある方が新たな環境や役割に挑戦できる機会をつくり、働く場や可能性の拡大を目指す取り組みも行われていました。障害のある方の能力や強みに着目し、一人ひとりの成長やキャリア形成を支援する姿勢は、大変参考になるものでした。

今回の視察を通じて、障害のある方が活躍できる環境づくりには、制度や支援体制だけでなく、建築計画や空間デザイン、運営方法などを含めた総合的な視点が重要であることを改めて実感しました。
今後は、今回得られた知見を設計に生かし、障害の有無にかかわらず誰もが役割を持ち、地域の中で自然に交流しながら働くことができる環境づくりの手助けになるような設計につなげていきたいと思います。

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