設計コンセプトConcept

障害者

建築からの多様な支援 砂山憲一

「重度の方への建築」 からの支援の役割

 知的障害者の住まいや日中活動の場の計画では「重度」という言葉が多く使われます。ところが、支援者によって「重度」の意味が違うことが多くあります。設計を進めるためには各事業所の利用者の特性を見極めて「重度」について建築の認識を共有し、対応を考えることが必要です。
 

砂山憲一

 障害者の特性を表す指標は国際疾病分類、療育手帳、障害支援区分(障害者総合支援法)などがあります。障害の程度や支援の量によって指標が決まりますが、その指標に対応する建築の記述はありません。
 ゆう建築設計障害者施設担当の一人である山本晋輔は、「支援」を福祉と建築の両面からみた場合、下記のように整理しています。

 福祉から見る支援
1.福祉の支援は人が中心である。
2.人の支援がついたとしても、突発的で完全には対応しきれない行為(大声を出す、壁を破壊する)がある。支援すべき項目に含まれるが、人的支援だけではその後始末や対応が後手に回ってしまうことがある。
3.空間が狭い、老朽化などで人の支援では対応できないものも多くある。

 建築から見る支援
福祉から見る支援に対して、建築的支援をすることにより、
1.ハード面が整備され、人的な支援は小さくなり軽度化されるものもある。
2.本人の日常生活に負担がかかりづらくできる。(防音性を高める=周囲との関係性、堅牢性を高める=経済的負担)
3.住環境の向上(間仕切り撤去・増築によって部屋を大きくする、設備の更新など)は障害の程度に関係なく必要な項目である。

 このように、福祉から見る支援と建築から見る支援が相まって、過ごしやすい環境が作られます。
 私たちが「建築は支援の一つである」と考えるのは、このように建築側からの工夫が人の支援を手助けすることが多くあると思っているからです。

福祉の支援と 建築の支援の違い

 福祉の支援は個人への支援です。それぞれの特性に合わせて支援することができますが、建築からの支援は、住み手の特性をいくつかに分類し、その特性に合わせた建物を工夫することが前提となります。個人個人に合わせて作ることは、個人の住まいを除いては難しいものです。
 そこで、住み手の特性をどのような判断基準で分けるかが大きく関わってきます。福祉の観点からの特性分けは、必ずしも建築からの視点と一致しているわけではなく、その都度計画内容に合わせて工夫することが求められます。

「重度の方の建築」との 私たちの向き合い方

多様な特性と標準化
 建築を設計するにはそこに住む人の特性を「標準化」する作業が必要です。「重度」の方はそれぞれの特性の違いが大きく、この「標準化」をどのような考え方で行うかが建築を決めていきます。

「重度」の方に適したプランや材料の検討
 建築のプラン、使用する材料・機器など「重度」の方に合ったものを使わなければなりません。適する材料や機器は開発されていないものも多くあり、設計者が自ら開発したり、適するものを探し出さなければいけません。

私たち設計者の気持ち
 様々な工夫が必要な「重度」の方の住まいですが、設計者の気持ちとしては、障害があってもなくてもその方に合った建物を作ることは全く同じです。
 常に自分たちの持っている能力と知識を最大限に発揮し、限りない情熱で立ち向かいます。