設計コンセプトConcept

障害者

Ⅱ 障害者のすまい 特性への対応とすみやすさを求めて
                     砂山憲一

「すまいと特性」への提案事例 

        ゆう設計のグループホーム計画事例より

  事業者がグループホームを計画される動機は様々です。

 既存のアパート一棟を使い、グループホームで利用していたが、高齢化に伴い階段を使えなくなる、トイレや風呂が使い にくくなり、高齢対応のグループホームを作りたいということは多くあります。

 また、入所施設を新設できなくなり、重度対応のグループホームを作りたいという要望も増えてきました。

 ゆう設計が担当したグループホームを紹介します。 これまで述べてきた、特性に合わせた建築、住まいとしての建築、を事業者の意図に沿って、提案検討し実現したものです。

1:高齢の方が暮らすホーム
社会福祉法人 こころみ学園
もちぶね荘(支援区分 5 ~ 6) たじま荘 (支援区分 6) 担当:岩﨑 直子

年をとっても人に役立つことがよろこびとなる

 社会福祉法人こころみる会 こころみ学園は 1969 年(昭和 44 年)30 名の知的障害者入所施設としてスタートし、今年で 5 2年目を迎えます。当時若者であった園生が年齢を重ねて、高齢者となった今でも、変化に富んだ地形の中で大きな「家族」として働き、暮らしています。
 「年をとっても、人の役に立つことが、園生にとってよろこびとなる。各々のできること・役割を持つことで、「家族」としての一員となり、衣食住をともにしていくことが大切である。」
 利用者の高齢化・重度化を迎え、どのように支援していくのか。こころみ学園の答えは、「これまで通りみんなが共に暮らすこと」で した。
 このグループホームは最期までグループホームで住み続けたいという願いを実現するために計画されました。ここに住まう高齢の方たちも、毎日何かしらの作業につくために出かけます。このグループホームは帰ってくる家なのです。それまで民家をグループホームに使っていましたが、利用者の高齢化で使いにくくなり、建て替えたものです。高齢化対応が主要なテーマでした。

「これまでどおり」と
        「これまでよりも」

 そのような生活を支えるために建築でできることは何か、この時に私達が考えたのは、「これまでどおり」と「これまでよりも」という言葉でした。
 「これまでどおり」の生活を続けるために、高齢化による心身の衰えをカバーする建築からの支援を考えました。
 4名定員のグループホーム2つが、1つの屋根の下に納まるこの建物は、中央の「通り庭(屋内空間)」の左右にグループホームの玄関があります。グループホーム「たじま荘」は、車いすを利用したり、介助が必要となった高齢利用者のための住まいです。「もちぶね荘」は高齢ではありますが、自力で過ごせる方の住まいです。この2つのグループホームは、食堂やトイレ・浴室の大きさを変えています。まず、「たじま荘」の食堂は広く取られています。キッチンもオープンなつくりとしています。また、時には「もちぶね荘」の利用者との交流を図ることも可能です。
「もちぶね荘」のキッチンは、室として閉じられるタイプのものとしています。浴室も「もちぶね荘」は介助しやすい 1620サイズとし、「たじま荘」はシャワーキャリーも入りやすい 2024 サイズの介護用ユニットバスとしています。
 それぞれの住み手が自分でできる範囲で毎日働き、体が不自由になってきても、その生活を継続するための場としての住まいです。
時空読本「障害者のすまいを考える」2020年3月号

2:個人の特性に合わせて建設したホーム
今川学園グループホーム (支援区分 5 ~ 6)       担当:竹之内 啓孝

 既存のグループホームで暮らしていた、心身の状況が不自由な方お二人の生活をより暮らしやすくするために、お二人専用の居室を含んだグループホームの新築計画です。

お二人の心身の状況です。

A さん
・てんかんを持つ重症⼼⾝の⼊居者。
・⽇中ベッドで横になっているか、ベッド横の⾞椅⼦に座っている。
・座位保持不可。
・全介助が必要。
B さん
・ほとんど⾞椅⼦の⽣活。
・つかまり⽴ちが出来るが⼊浴や排泄介助が必要。
・胴回りが⼤きい。

 A さん B さんとも⽣活介護に通っている。

 お二人の状況に合わせて検討した項目です。

① A さんを見守りしやすいプラン
・ 居室の開放できる間仕切り建具
 てんかん発作の予兆を早期に発⾒するため、⽇中キッチンや⾷堂から居室の中を⾒守る。
・居室の隣に宿直室を隣接
 夜間もてんかん発作の予兆を早期に発⾒できる。

② B さんの体の状況に合わせたリフトやトイレプランの検討
・床⾛⾏リフトの検証
 取り回しに必要なスペースも検証しながらトイレの⼤きさを決定。
・胴回りの⼤きな⽅でも利⽤できる床⾛⾏リフトをメーカーと検証。

③ Aさん、Bさんそれぞれに合わせた浴室計画
 Aさんに合わせた浴室計画
• 脱⾐室に収納式多⽬的ベッドを設置。

 B さんに合わせた浴室計画
• 残っている⾝体機能を使ってもらうためトイレ⽤の跳ね上げ⼿摺りを脱⾐室に設置。
• 怖がらずにリフトが利⽤できるかを実際に検証。

 この様に入居者を特定し、その方の心身の状況に合わせて建築をつくるのはまれな例です。私どもでもこの例があるだけです。
 またこのグループホームはお二人個人の家ではなく、上階に軽度で生活介護や就労支援に通う方が5名暮らしています。
   A さん、B さんに合わせて専用の居室、トイレ、浴室を作りました。
 上階に住む軽度の方には、同じ形態の居室、共通で使用するトイレ、浴室を作っています。
 食堂は軽度の方と、A さん B さんが共同で使えるようにしています。
 この例のように個人の特性に合わせて建築を作ると、別の方が住む場合、逆に使いにくいことも出てきます。事業者はあえてそのような将来の問題は含んでいますが、現在の住み手の最上の住む場所を提供したいと決断されました。
 この記事で繰り返し述べているように、建築設計はそのユニットを使う人達の特性を標準化して行います。
 標準化と個性に合わせた住処についてそのバランスを考えた設計例です。

作品紹介:今川学園グループホーム 新築工事

3:ほっとするホーム                    担当:河井 美希

ほっとする生活空間

 知的障害者のすまいにおいては、機能⾯の⼯夫だけではなく、ほっと穏やかに暮らすための仕掛けも必要です。⼼地よさの感じ⽅はみんな違います。そこで私達は暮らす⽅がどうしたら⼼地よいと感じるかということを想像します。住まい手が、建物に愛着がもつことができて初めて、その人らしい誇りある生活を送ることができると思っています。
 ここで紹介する3つのホームはプランに共通するところがあります。居室が廊下に面し、食堂は独立してあるということです。その理由は自分の気持ちに合わせて過ごすことが出来るように、一人の場所(個室)と共有スペース(リビング)をはっきりと分けるためで、それらをつなぐ廊下の存在も大切な要素となります。

地域とのつながり

 ホームで暮らす人々が地域の一員であるように暮らしの箱(建物)もまた、町の風景の一つになります。新しい生活を始めるうえで建物はまるで昔からそこにあったようであることが理想的です。さらにそれがちょっと素敵に見えればどうでしょう。まわりの人々が、どうも感じのよい建物が建ったけれどどんな人が暮らすんだろうね、と好意的な興味を持ってもらえればグループホームの設計は8割成功したようなものと考えています。まず周囲に知ってもらうこと、そのことが安心して暮らすということに繋がりますので、建物のたたずまいというのは実はとても重要なのです。

菜の花ホーム(支援区分 3 ~ 6)

 京都府丹後半島のちりめん織で栄えた古くからある集落。瓦屋根に板塀といった伝統的な意匠が数多く残る街並。カフェショップ花鈴(手前)との間に通り抜け可能な“なかみち“を設けた。高齢の方、自閉症の方が暮らす。個室は”なかみち”に面しながらも植栽や木塀で柔らかく遮られ落ち着いた場所となった。
 建物の構成は4人・5人の2つのユニットと2人の短期入所スペースに分かれる。ユニット毎に食堂・水回りが配置され浴室の仕様が介護重視、自立重視のものと2種類用意された。介護重視の浴室は天井走行リフトがあり、リクライニング車いす使用される方もホームでの入浴を可能とした。


あいりす / こすもす
     (支援区分 2 ~ 6 )

 京都府JR宮津駅ほど近くの住宅街に既存のホームと市営住宅に挟まれるようにして建つ。周囲の住宅とのスケールを合わせ雁行した屋根を持つ。リビングを道路に面して配置し、街に対し暮らしの顔をみせる。
 2階建てで、就労に行かれる方、重度の方など様々な特性の方が暮らす。ご自分で洗濯物を干したい方もいらっしゃるため2階居室には物干し付きのバルコニーがある。1階のトイレは床走行式移乗用リフトに対応するための大きさ・器具配置がなされた。また、上体を起こすことが出来ない車いす利用者のリクエストにより脚先を使って開けることが出来る形状のドアが計画された。


リアン (支援区分 4~ 6)

 徳島県美馬市の田園風景のなかに建つ。吉野川と四国山地を背景に、ゆったりとした大屋根が連なる。周辺農家の方々の野良仕事の合間の休憩にとオープンな深い軒下をもつ。入所施設にいらっしゃった高齢の方が静かな環境で暮らせるようにという法人の想いから計画された。
 独立した玄関を持つ男性・女性各5名ずつのユニットで構成される。各2室ずつにはベッドサイド水洗ポータブルトイレのための設備配管が用意され、将来的なリフト設置を考慮し天井高さを他室より高くしている。中央部分を共用部とし、チェアリフト対応の介護個浴、家族室、洗濯室が設置された。


4:重度の特性に合わせたホーム
グループホーム響・奏(支援区分 6)
    担当:岩﨑 直子

 2014年に竣工した、私達が重度の障害者のグループホームを設計した最初の事例です。
 この時も重度対応とは何かを検討し、できるだけ詳しく住まう人の特性を把握しようとしました。次にあげるのが設計段階で確認した入居者の特性です。

・⼊居者は 365 ⽇・24 時間の⽀援を受けて⽣活を送る。
・重度⼼⾝障害であり、障害⽀援区分 6 の⽅移動・⾷事・排泄・⼊浴に⼀部介助、または全介助を必要とする⽅。
・できることは⾃分(達)で行い、できないことは介助してもらい機能維持を図る。
・⾏動障害(多動・他傷・粗暴・破壊・奇声・⾶出し)のない⽅。
・常時専⾨的な医療ケアを必要としない方。

 具体的には、大型車いすを含め、車いす利用者が半数近くになる前提でした。現在でも当初想定と大きく異なることにはなっていません。

 現在の状況です。
・⾞椅⼦利⽤者は14名中7名
・強度⾏動障害というまでではないが、粗暴⾏為、奇声のある利⽤者がいる。

 設計時に検討した項目です。
・行動障害のない方の入居を前提としているので、破壊等への対応は特に行わない。
 住宅と同様の通常の下地、仕上げ材を使用する。
・大型車いすの利用者の動線に配慮し、移動介助がスムーズに行えるようにする。
 食堂の広さ、入浴・脱衣の方法、玄関も複数の車いす利用者の出入りに対応できるものとする。
・ 介助の必要な方が多いので、支援員さん・世話人さんが、仕事をしながら見守りやすいプランとする。

 この様な項目を検討した結果、2棟のグループホームが中庭を中央に取り囲む平屋のホームの計画となりました。広い食堂スペースを取り囲む形で居室が配置され、入居者が食堂まで移動しやすいプランとしました。
 このグループホームの入居者は、平日は、同じ福祉法人が運営する近隣の生活介護事業所へ通います。出かける場面となる玄関は、車いすの方たちが、ゆったりと身支度できる広さとし、段差がないものとし、床材も工夫しています。建物の正面の車寄せは、雨天時でも雨にぬれずに車に乗降できる連続した軒下空間をつくりました。

まとめ                        砂山 憲一

 ここで紹介したグループホームは、マンションを転用してのグループホームより、いずれも重度の利用者といってよい でしょう。いずれも打ち合わせ時に重度対応のグループホームと呼んでいましたが、利用者の状況も建築対応も異なるこ とがわかります。今後はさらに重度の方を対象としたグループホームが必要となります。
 強度行動障害や自閉症の方の住まい、さらに様々な心身の状況に合わせた住まいへの建築からの提案を続けていきます。