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健診

坪250万の提示を、根拠のある坪150万に組み替える
-病院改修計画の初期段階で、設計者が担う二つの役割-

田淵 幸嗣

ゆう建築設計への問合せ

 改修計画の初期段階で議論が進みにくくなる理由は、設計の難易度そのものよりも、病院が判断できる資料がまだ整っていないことにあります。工事費や工程を、改修範囲・概算・運用への影響の三点で整理し、比較できる形で提示できないと、意思決定が進みにくくなります。
 改修は、解体して初めて確認できる条件も多く、施工者が安全側に見込んだ概算を提示するのは自然です。その結果として、初期段階では坪単価が高めに出ることがあります。問題は数字の大小ではなく、意思決定が行える条件をそろえて提示されているかどうかです。

 ひとつの事例を紹介します。

 この案件の問合せは、
 「基本計画を終えて予算決定まで進んだ後、基本設計終了時に提示された工事費が当初より増え、坪単価で250万円程度という水準になりました。あわせて提示された変更案は改修範囲を大幅に縮小する内容で、目指した機能改善に届きにくくなる可能性がある」というもので、ゆう建築設計に相談が寄せられました。

 そこで設計者として、概算と工程を整理し直し、病院が選べる選択肢として提示することにしました。
 ここで設計者が行うことは、金額の大小を論じることではありません。工事費と工程を「比較できる形」に整理し直し、病院が納得して選べる選択肢へ組み立てることです。

 改修では、コストと工程を切り離すと判断がずれやすくなります。ここでいう判断のずれとは、同じ条件で比較できない数値(概算や工程)を根拠に結論だけが先行し、調整すべき前提条件が置き去りにされてしまう状態です。
 例えば坪単価だけが独り歩きすると「高いから縮小しましょう」となりやすく、解体範囲・仮設計画・夜間対応など、工事費を左右する条件の整理が後回しになります。工期も総工期(月数)だけで選ぶと、診療や運用に調整が必要となる期間が点在し、病院側の運用調整が長期化するなど、実態とのズレが生じることがあります。
 改修計画では、工事費と工程が相互に影響するため、概算と工期を別々に判断せず、同じ前提で同時に読み解くことが重要です。

概算の整え方:「坪250万円」に対する説明できる資料作り

 病院から私たちへの最初の問いは「改修の場合、坪単価はいくらくらいが目安か」というものでした。
 そこで、手術室の有無など前提条件を整理した上で、直近に竣工した同種病院の契約見積を参照し、工種の大項目一覧表を作成しました。改修工事として比較しやすいよう躯体工事費を除外し、近年のコスト上昇率も加味して求めた工事費として、坪単価の目安は150万円程度と提示しました。さらに、改修では必須となる解体撤去費を坪単価20万円程度として別枠で見込む考え方を示しました。

 ここでの狙いは、提示額を下げることではありません。次の三点をそろえることで、病院が次の議論に入れる状況をつくります。
• 根拠概算を工種で分け、どこに費用がかかっているかを見える化する
• 改修に合う比較基準にそろえ、説明できる体裁に整理する
• 増減しやすい要素(解体撤去など)を別枠で示し、論点を明確にする

 これにより、議論が「高い/安い」から「どの条件が工事費を左右しているか」へ移ります。

※改修工事費概算 大項目一覧表からの抜粋
計画病院の金額は、同種病院の金額から、計画面積の按分で求めた数値(大きさ比率45.31%)に、同種病院の契約時期(2022年)からのコスト上昇率を掛けた数値。その時の条件を赤字で記し、前提条件を組み立てている。


改修の初期段階で、設計者が整えるべき判断の形

 改修計画の初期段階では、図面と同時に、意思決定ができる形式を整えることが重要です。

• 概算は工種の大項目で分解し、増減要因を別枠で示す(例:坪150万円+解体撤去20万円)
• 工程は、月数だけでなく、運用制限のやり方で比較できる選択肢を整える

 改修計画において設計者が果たす役割は、設計図を描くことだけではありません。病院の運用と工事を両立させるために、概算と工程を読み解き、病院が納得して選べる形に組み立てること。こうした初期段階の整理が、その後の計画全体の安定性につながります。

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