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障害者

社会福祉法人こころみる会 こころみ学園施設整備計画【第2期】

1.新たんぽぽ棟建替計画の背景

こころみ学園施設建替計画の第2期では、入所棟の1つである「たんぽぽ棟」の老朽化に伴う建替工事を行いました。急勾配の斜面をもつこころみ学園の敷地には、「ぶどう学舎」、「たんぽぽ棟」、「やまのこ棟」という3 つの入所棟があります。

ぶどう学舎は外作業を行う男性園生、たんぽぽ棟は洗濯など屋内作業を行う女性園生が住んでいます。身体的にはある程度自立していますが、高齢化が進んでいる状況です。そして身体機能が衰えてしまい、安全のため屋内で過ごす時間の増えた園生が、「やまのこ棟」に住んでいます。「新たんぽぽ棟」計画は、高齢化が進んでいる園生が「これまでどおり」すごせること、そして介護・支援を必要とする園生が、「これまでよりも」活動することができる場をつくる建築を考えることでした。


 

「新たんぽぽ棟」で実現したかったこと
高齢・行動障害のある園生がともに暮らす環境をつくる。
・さまざまな暮らし方・障害特性を受け入れる包容力のある空間をつくる。
・「これまで通り」、全員で食事をとり、毎日入浴できる。
・今後増えていく高齢の園生や、介護度の高い人たちでも、「これまでよりも」仕事を見つけることができる建築。

 


 こころみ学園の設計コンセプト、第1期工事の紹介は下記リンクを参照してください。
 ・
こころみ学園施設整備計画「建築を変えることで支援の変化に対応する https://www.eusekkei.co.jp/concept/15647
 ・
こころみ学園施設整備計画【第1期】 https://www.eusekkei.co.jp/works/13764

 

2.新たんぽぽ棟の建築計画

新たんぽぽ棟は、地下1階地上2階建の計画です。独特の地形、既存の建物の間に配置された新たんぽぽ棟の工事は、大変難しいものでした。園生の生活に近接し、迫る山の斜面や近隣家屋との間を縫いながらの工事は、注意深く進められました。

 

これまで各入所棟の園生は、高低差のある相互の建物への行き来を、外部にあるスロープを利用していました。今後高齢化する園生にも対応し、隣接するやまのこ棟とフロアレベルを合わせ、やまのこ棟1 階の食堂と同一フロアに「リビング」を、2 階の居室フロアに「寝室」を配置し、園生同士が屋内で行き来できるような計画としました。

 

① 新たんぽぽ棟の「リビング」

新たんぽぽ棟の「リビング」は、園生の屋内活動スペースのことです。年齢や身体的な理由で、屋内で過ごす園生が「家」の中を整える活動を行う場所であります。これまで女性園生の主な日々の仕事であった洗濯作業を継続するための場所でもあり、年間を通じて変化する様々な屋内作業を行う場所となります。それを「リビング」と呼び、全員で食事をする「食堂(やまのこ棟)」・毎日はいる「お風呂」にもつながる中心的な場所になります。

これまで、洗濯物を持って旧たんぽぽ棟の階段を使って屋上へあがり、洗濯物を干していました。洗濯担当の園生たちの高齢化に伴い、より安全に(階段を使わず)洗濯物を干せるようにすることが、今回のリビングの目的の一つでもあります。
 やまのこ棟と連続することで、新たにリビングと連続する屋外スペース「物干しテラス」が生まれます。また、椎茸の駒打ち、ハンガーのリサイクル作業の一部などの軽作業ができるようにもなります。

「リビング」に隣接して、介助が可能なトイレや、浴室を配置しています。浴室は通常の浴槽に加えて、介護浴槽・機械浴槽も設置しました。リビングと同じフロアに配置することで、見守りのもと、毎日入浴できるように計画しています。

建て替える前の旧たんぽぽ棟の屋上に物干しがあり、園生は階段を上って洗濯ものを干していた。
写真左)旧たんぽぽ棟の屋上 右)やまのこ棟の食堂から旧たんぽぽ棟を見る

 

② 「これまでよりも」介護・支援を必要とする園生のために

 車椅子利用をしている「介助組」や、個室をもつことで落ち着きが取り戻せる園生を対象に、新たんぽぽ棟の寝室を全て個室とする計画にしました。(これまでは2 人以上の多床室だけでした)。一部の部屋にはポータブル水洗トイレも備えられるようにしています。
 寝室フロアは、既存のやまのこ棟の寝室フロアと連続し、夜間の支援の連携を促す計画となっています。

 またこの寝室のフロアは、1階のリビングへエレベーターで行き来できますが、オープンな階段でもつながっています。気がむかない日でも、他の園生が活動している雰囲気がつたわり、ちょっと「リビング」へでてみようかなという気持ちにさせる仕掛けです。階段室からは椎茸の原木を運ぶ園生の活動を見ることができます。

新たんぽぽ棟の工事に先立って、既存男性棟であるぶどう学舎において、寝室の個室・準個室化改修をおこなっています。壁や建具のつくりを、部屋ごとに職員と共に考えました。ここでの実践が、たんぽぽ棟の居室づくりにも反映されています。

新たんぽぽ棟地階へは、建物外部既存スロープでも行き来できます。ここには保健室を配置し、医療ケアが必要な園生や、外作業での怪我のケアなどの拠点にします。保健室は車寄せと隣接させ、通院などの対応もしやすくしています。また口腔ケア室もあり、歯科医師による検診や歯科衛生士によるブラッシングなどの口腔ケアができるようにしています。

建築主
社会福祉法人こころみる会
所在地
栃木県足利市田島町
用途
障害者入所施設
竣工年月
2021年
担当者
砂山憲一 , 岩﨑直子 , 矢木智之