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精神科

患者像の想定から設計条件を考える

田淵 幸嗣

 保護室の計画は、仕様を先に決めるのではなく、病棟運用の中で「どのような場面で、何を優先するか」を整理したうえで、配置・室構成・見守り・建具・仕上げへ落とし込むことが重要です。

 本ページでは、その起点となる患者像の想定を、設計条件へ接続する手順として整理します。

 なお、前提条件や優先順位は病院ごとに異なります。貴法人の方針と運用に沿って、無理のない計画へまとめていくための視点としてご活用ください。

 

病棟運用の中で、保護室の役割を明確にする

 保護室は、どの病棟にも同じ名称で設ける部屋に見えますが、病棟の性格が違えば、保護室が担う役割も変わります。
 ゆう建築設計では、保護室を室単体で捉えるのではなく、病棟運用の中で「どの場面で、何のために使うのか」を最初に明確にします。役割と優先順位を共有できると、必要な室数・配置・室構成・見守りの方法など、設計条件の軸が定まりやすくなります。
 一方で、役割が曖昧なまま計画を進めると、数・配置・仕様の判断がそろいにくく、職員対応の手順が増えやすくなり、計画の再調整が必要になることが増えます。

患者像の想定が、設計条件を組み立てる起点になる

 ここでいう「患者像の想定」とは、病棟の性格と運用の中で、保護室がどのような場面で使われるかという想定です。
 改修・新築を問わず、設計者が最初に行うべきことは、保護室を使用する患者像を具体的に把握することだと考えています。患者像の想定が具体化されると、室内で何を優先するか(安全配慮・落ち着き・観察など)の要点が見え、配置・室構成・見守り・建具・仕上げといった設計条件へ落とし込みやすくなります。患者像が曖昧だと、必要な配慮の根拠が弱くなり、設計条件がぶれやすくなります。

病棟の性格が違えば、求められる仕様も変わる

 同じ「保護室」でも、病棟が違えば使われ方(役割)が変わります。その違いは、仕様を考える際の要点に関わります。例えば、短期間に集中的な対応が想定される病棟と、病棟生活の中で環境調整が想定される病棟では、重視すべき要件が異なります。
 ゆう建築設計では、患者像の想定に合わせて、建具・仕上げ・前室の扱い・観察の方法・音の扱いなどを精査し、建築対応を変えるという整理をしています。仕様は「標準を当てはめる」のではなく、病棟の性格と患者像の想定に沿って、必要なものを組み立てていきます。

患者像から「配置・室構成・見守り」を設計条件として組み立てる

 患者像と保護室の役割が整理できると、設計条件は運用の条件として平面計画に反映されます。保護室の配置(病棟内の位置)・前室の扱い・WCや洗面との関係・出入り経路・見守り位置は、患者像の想定によって適切な条件が変わります。
 ゆう建築設計では、患者像に応じて仕様を精査し、必要に応じて計画内容(例えば観察の方法や室まわりの構成)を変えるという考え方で整理しています。重要なのは、職員が状況を確認し、必要な時に速やかに対応できること、そして病棟側の環境を崩さないことです。患者像から設計条件を組み立てることで、判断の軸が定まり、計画がぶれにくくなります。
 仕様要件が整理できると、仕様とコストの優先順位も整理しやすくなります。

事例:患者像の違いが、計画内容の違いになる

 下の表は、性格の異なる2病棟(A病棟/B病棟)で、患者像の想定を分けることで、設計条件と計画内容がどのように変わるかを示したものです。
 A病棟では、保護室の役割を「患者本人の医療または保護」と整理しています。想定される状態に合わせて、格子や観察廊下を計画したうえで必要室数を見極め、一部の部屋に観察廊下を付ける構成としています。さらに観察廊下を介した音の関わりに配慮し、遮音性のある扉を設けるなど、病棟環境への影響を抑える考え方を示しています。
 一方B病棟では、役割を「環境調整のための部屋」として整理しています。一般個室に近い平面計画を基本としつつ、遮音性のある壁・建具や、壁面へのクッション性材料など、想定される配慮点に合わせて必要な仕様を組み立てています。
 このように、「病棟の性格→患者像の想定→保護室の役割→仕様」の順で整理することで、同じ「保護室」でも、病院の運用に沿った設計条件として無理なく組み立てやすくなります。

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