作品紹介Works

障害者

社会福祉法人 福知山学園 GH EAST-SIDE・WEST-SIDE

左手前:WEST-SIDE、右手前:EAST-SIDE

日々の生活と支援をつなぐ、新しいすまいのカタチ

京都府北部の社会福祉を長年支え続けてきた「福知山学園」が遂行中の法人中期計画「FUKUGAKU バリューアップ計画」。
1期工事では「みわ翠光園」「セントラルキッチン」を整備し、今回の2期工事では地域生活支援拠点整備としてグループホームを2棟計画しました。
各棟、定員は7名、緊急時受入れ用の短期入所1室を加えた構成で、法人内では重度対応型グループホームに位置付けています。平成25年に京都府北部唯一の重度対応型グループホームを開所して以来、これで4つ目となります。
2棟の入居者属性には多少の差異がありますが、平均すると車椅子利用者が半数、食事の一部介助または全介助が必要な方が約6割、排せつ・入浴は全ての方が一部または全介助が必要で、障害支援区分は「6」です。

コンセプトは、働きやすく働き甲斐のある職場環境の整備、知的・身体の重複障害を持つ利用者のための障害特性に応じた環境整備です。

入居者ゾーンと管理ゾーンを大きく2つに分けた構成にプラン上の特徴があります。

WEST-SIDE を上から見る

入居者ゾーン

入居者ゾーンには個室の他に2つのトイレ、洗面コーナー、玄関、仮眠室があります。

個室の配置計画は、大きく「廊下型」と「中央型」に分かれます。
廊下型:個室が廊下に面している。皆が集まる食堂・リビングは廊下を経て向かう。
中央型:主に個室は食堂・リビングに面している。

今回の計画では、個室でのプライバシーを確保する一方、共用部からの見守りのしやすさや介助のしやすさから入居者ゾーンの中心に食堂を持つ「中央型」を採用しました。車椅子利用者の割合を考慮して全体的にゆとりのある空間としています。

左:ゆとりのある食堂、右:手洗コーナーから食堂を見通す

食堂はテーブルの間隔を2m程度確保することで、車椅子利用者同士が背中合わせになっても寄り付きやすい広さを確保しました。

管理ゾーンとは別に夜間支援の拠点となる「仮眠室」を設けたことで夜間支援は基本的に入居者ゾーンで完結します。
食堂を取り囲む各個室の出入口が見通せる位置に仮眠室を配置し、かつ、ショートに隣接させることで緊急時の対応を容易にしています。

計画段階で泊り込み調査をおこなった際、夜勤者が1人で早朝の慌ただしさに対応する様は想像を超えるものでした。利用頻度の高い手洗コーナーから共用部や居室の状況が分かるように、配置計画や共用部への見通しに配慮しています。

管理ゾーン

回遊動線で移動の負担を軽減。物品管理を効率的に。

管理ゾーンには、キッチンの他に事務スペース、ストックヤード、リネン室、洗濯・脱衣室、浴室、更衣室、スタッフ用トイレがあります。
あらゆる物品を集約するストックヤードを中心に、キッチン、事務スペース、洗濯・脱衣室が回遊式に繋げて動線効率を高めています。キッチンや物品棚の前にあるスペースを通路として利用するため無駄な廊下がなく、どの部屋からも短い動線で物品へアクセスすることができます。また、管理者ゾーンで物品を一括管理し、棚をオープンにすることで物品の過不足が一目で確認でき、常時適正な在庫を保つことを可能にしています。
食材などの搬入動線と廃棄物の搬出動線を分け、清潔と不潔ができるだけ混在しない動線計画としています。

施錠管理

運用面では管理諸室の施錠管理が重要となります。
既存グループホームでは共用部に面する脱衣室や倉庫、管理人室などをそれぞれ施錠管理していましたが、点在する小部屋のカギを出入りの度に逐一施錠することは日常的な負担が大きいと考えます。 管理ゾーンと入居者ゾーンを隔てる建具を限定し施錠管理の負担を軽減するとともに、管理ゾーン内を自由に行動することができます。
また、ゾーンを分けることで得られる自由度は、支援員の心的ストレスの軽減にもつながると考えています。

左:配膳用パスボックス、右:シンクから食堂を見通す

キッチンは管理ゾーンに組み込む

食事の準備中、安心・安全に入居者が過ごすことができるよう、キッチンは管理ゾーンの中に配置しました。つくり付けのパスボックスを介して配膳をおこなうことで衛生面にも配慮しています。
キッチンでは、セントラルキッチンから配送された調理済み食材の保管、食材の再加熱や盛付、炊飯・汁物の調理、トレーメイク、食器洗浄などをおこないます。加熱調理が少なく、シンクまわりでの作業が大半を占めるため、キッチンで作業をおこなう世話人が入居者と交流したり見守りに寄与しやすい環境づくりのために、シンクを食堂に面した位置に設けました。

ノーリフトケアと天井走行リフト

既存の重度対応型グループホームでは床走行リフトが採用されていましたがリフトの取り回しが窮屈な場面が見受けられました。現地調査や実物大の模型を使って、車椅子からリフトへの移乗、リフトの転回のしやすさ、便器への寄り付きやすさなどを検証し、部屋の配置や大きさを決めています。
最終的には、先に竣工した入所施設での採用実績を踏まえ、天井走行リフトを採用することとなりました。
脱衣場に隣接するWC1、WC1から近い個室2室に天井走行リフトを設置しています。

左:WC1、右:個室

失便処理装置

失便処理装置

建築の仕様を決める際、利用者の弄便は想定していませんでしたが、障害特性に応じた環境整備として、水洗いのできるトイレをつくることにしました。
排便の失敗で衣服が広範囲に汚れる場合に備えて、トイレの一角に「失便処理装置(リンク先に詳述)」とシャワーを設置し、水洗いのできる内装材として、浴室用の壁材と厨房などでも用いられる床材を採用しています。

ストックヤード:管理ゾーンの中心に位置しアクセスしやすい

手洗コーナー:食器洗い乾燥機を組み込んだコップ収納棚

事務スペース:折れ戸を開放すれば食堂と直につながる

男女別の更衣室:更衣室の中にはそれぞれトイレを設けている

車椅子利用者同士が背中合わせになっても寄り付きやすい食堂のテーブル配置、介助方法に即した各部屋の寸法体系の見直し、男女別の更衣室など働きやすい職場環境の整備をおこなった結果、既存の重度対応型グループホームに比べると床面積は16%増となりました。その大部分は、管理ゾーンの充実によるものです。
床面積と建築コストは直結しますから、どこにどれだけの面積を割くかはそれぞれの法人の考え方によるところが大きいでしょう。
今回の計画は、法人のビジョン「働く職員の環境整備」に重きを置いたものです。施設運営は人で成り立つとの考えから、提供するサービス品質向上のために、働きやすく働きがいのある職場環境・人材確保や育成を強く意識した未来投資としての一つのカタチです。
このグループホームが、日々の生活と支援をつなぐ、新しいすまいのカタチとなることを切に願います。

建築主
社会福祉法人 福知山学園
所在地
京都府福知山市
用途
障害者グループホーム
構造
木造
階数
平屋
敷地面積
EAST-SIDE:753.23㎡
WEST-SIDE:907.39㎡
建築面積
EAST-SIDE:365.03㎡
WEST-SIDE:365.03㎡
延床面積
EAST-SIDE:296.46㎡
WEST-SIDE:296.46㎡
竣工年月
2023年11月
担当者
木下博人