作品紹介Works

精神科

医療法人宮本病院 ハートフル和み

中央付近に見える緑色の屋根が今回増築の「ハートフル和み」 左手の緑が秋葉山 建物は山側斜面から離して計画

概要

宮本病院は背後を緑豊かな秋葉山、南は1キロも行けば海という自然に恵まれた立地にあります。昭和30年の開設から65年の歳月が経過する中で急性期病棟やストレスケア病棟を整備する一方で、グループホーム、地域生活支援センター、就労継続支援B型を開設するなど時代の要請に応えて入院中心の医療から地域中心の医療へ転換を進めてこられました。

今回の計画は、敷地一杯に建物が建った状態から老朽化した厨房をどう建替えるかというところから検討を始めました。病院の機能を整理した結果、ダウンサイジングにより使われなくなっていた病棟を解体して種地として活用することで仮設厨房をつくらず実現しました。海が近く浸水の可能性がある地域であることから万が一に備え厨房は2階に上げ、かつ西側斜面のイエローゾーンからは建物、設備共にセットバックして計画をしています。1階には地域中心の医療をさらに推し進めるために敷地内に分散しているリハビリ機能を集約し、訪問看護、グループセラピーの活動の拠点化を併せて行いました。

外観および内部について現地で簡単に解説した動画がありますのでまずはこちらをご覧ください。

現地紹介動画(2分33秒)

南東外観(★)

旧病棟解体前の東側外観

地域中心の精神科医療拠点として

精神科病院に来られる患者さんは救急車で運ばれてくる方もいれば日常生活の延長で相談に来られる方など様々です。急性期治療病棟がある本館付近には正門がありますが、今回のリハビリ、厨房棟は敷地の南端に位置し、隣接するグループ病院(藤民病院)や地域生活支援センターの敷地から直接出入りできる立地のため、かつて病棟として使われていた時にあった塀を取り払い、在宅から相談に来られる方が気軽に訪れられるような雰囲気づくりを心掛けました。

フェンスは車路に対して角度をずらして間に照明を配置(★) 

和室外と車路の間は植栽と有孔ブロックを配置

境界沿いの距離感

南に面した車路は朝夕にスタッフが駐車場を行き来する際に通る道なので、そこに対する表情が硬くなりすぎないようにフェンスを連続させずに角度をつける、人の往来が多い場所で建物が丸見えとならないように蔦等を這わせられる有孔ブロックを高さを変えて設置するといった配慮を行いました。実際に先ほどの動画の中にもあるように、道行く人が気軽に寄りかかって立ち話をするといった使われ方をしています。

作業療法室全景 中央を遮音性のある間仕切りで仕切ることができる(★)

リハビリスペースの空間、建築対応

1階には作業療法、デイケア、訪問看護、グループセラピーの4つの部門があります。 同じリハビリでも作業療法は病棟の患者さんが中心なので、個人個人が気分転換に集中できるように、デイケアは在宅の方が集まって活動するのでみんなで一つのプログラムに取り組めるように意識して空間づくりを行いました。

作業療法室 移動間仕切を閉めた状態

作業療法室横の菜園スペース

作業療法室は屋外に野菜づくりなどができる広めの畑スペースを確保し、屋内ではカラオケ、卓球、書道やパソコンなどさまざまな個別活動を同時平行で集中できるように平面的に凹みスペースをつくり空間をゆるやかにゾーニングしました。特にカラオケと卓球を同時に行うことを想定して部屋の中央に見通しが効き、遮音性能(T-1)も備えた可動の間仕切りを設置しました。

キッチンカウンター越しにデイケア活動スペースを見る 

和室 静養する時は4枚戸を閉めて運用

デイケア「虹」は、建替え前は隣接するグラウンドの一角にある古い木造の和室中心の空間で活動されていました。そのため畳上での活動に慣れ親しんだ利用者が多く、新たな活動スペースは住宅とは違う日中の居場所としてゆったり活動できる一つの広い空間と、隣接して静養スペースも兼ねて小規模の活動もできる和室を準備しました。

実際に利用人数が10名程度と少ない時は広い活動スペースの方は使用せず、和室の方だけでゲームをするなど活動の規模に応じて使い分けて使用されています。

1階廊下(★)

デイケアトイレ(★) 

材料については作業療法、デイケア共に移動や活動が活発に行われるスペースというのは共通しているので、音と耐久性に気を配って計画しています。天井材は居室だけでなく廊下、トイレも含めて全て吸音性の材料を採用しました。壁はコーナーの出っ張りが気にならないよう曲面で面を取るか隅切りの仕様として、床は卓球やボウリングなど活発な活動を行って表層が摩耗しても基材が出てこない単層のビニル床シートを採用し、清掃性を考慮して端部を立上げ施工としています。

スタッフゾーンは作業療法とデイケア共通してスタッフルームからガラス越しに部屋全体が見渡せるようにし、備品の貸し借りが倉庫経由で直接できるようにそれぞれの倉庫を内部でつなげて計画しました。

グループセラピー「ええわいしょ」隔週少人数で開催
デイケアの利用を迷われている方などが気軽に利用できる居場所 

訪問看護部入口 駐車場に行き来しやすい位置に配置(★)

調理室全景(★)

職員食堂 周辺の緑が間近に見える場所に配置

災害に強い厨房機能

老朽化により建替えの検討を進めている最中に、入院患者やそこで働くスタッフの食を支える厨房が、台風による停電で1日調理できないことがありました。

この時の教訓を踏まえて新しい厨房は一度に300食、3日分のつくり置きができるチルド庫を備えたクックチル厨房に加えて専用の非常用発電機を計画し、停電時でも1日3食分の食事提供ができるように必要最小限の調理器具(全自動炊飯器、回転釜、スチームコンベクションオーブン)と病棟配膳用のエレベーター、病棟食堂照明、コンセントが使える計画としました。厨房フロアには食品庫とは別に備品倉庫も計画しました。配膳用のエレベーターは制御盤が1階床面より上にあり、万が一ピットが浸水しても復旧が早いタイプを採用しました。

以上の様々な工夫を積み重ねて、自然豊かな環境の中で災害にも配慮し、地域の精神障害者を支える拠点となる建物が完成しました。「ハートフル和み」の名称は、建物がほぼ出来上がってからスタッフの公募により決定しました。

写真撮影 ヴィブラフォト浅田美浩(★印)
上記以外ゆう建築設計
航空写真 淺川組提供
動画撮影・編集はゆう建築設計清水

建築主
医療法人宮本病院
所在地
和歌山市塩屋
用途
病院(精神科)
構造
鉄骨造
階数
地上2階建て+塔屋
敷地面積
10,567.69㎡
建築面積
1,057.09㎡
延床面積
1,998.29㎡
竣工年月
令和3年(2021年)3月
担当者
清水大輔