作品紹介Works

障害者

障害者支援施設 あゆみが丘学園ブナの木寮 改修

 

はじめに

 知的障害者入所施設あゆみが丘学園の高齢者棟・ブナの木寮の改修計画です。建物は隣接する本館が昭和60年(1985)に開園してから11年後の平成8年(1996)に整備されました。本館は3年程前(2015)に増築を含めて大規模改修が完了しており、今回は高齢者棟の方も同様に居住環境を改善したいとのことでご依頼をいただきました。

→前回の大規模改修のページはこちら

 ブナの木寮の利用者は平均年齢70歳で基本は65歳以上の方が対象ですが、精神障害のある方や、穏やかな生活が適している方など60歳未満でも障害の特性とその人の性格に応じて本館と住み分けをして対応されています。日常的な移動は自立の方、車いすの方、歩行器など様々ですがリクライニング車いすの方や医療的ケアが必要な方は現在いません。

 建物は築22年が経過し、躯体、防水、屋根など外部周りの改修を行う時期ですが、今回は予算の制約もあり内部の使い勝手改善を優先し、外部改修は見送りました。また、建物の周囲は高低差があり、敷地の空きもなかったため、増築は行わず、今ある床面積の中で高齢知的障害者の居住環境をどうやって改善していくかがポイントでした。

鳥瞰写真 手前に見える建物が高齢者棟・ブナの木寮 奥が居住棟、デイルーム、多目的ホールを増築した本館

改修前1階平面図(2階平面図は省略)

改修後1階平面図(2階平面図は省略)

1.設計者からの空間見直し提案

 ブナの木寮では高齢化が進み、車いすや歩行器の利用者の増加により空間が手狭になったこと、また建物内で過ごす時間が増えた利用者にとっては中庭に面したデイルームだけでなく、前面道路より少し高く田園風景に向けて視界が開けた食堂を食事以外の時間も開放し、デイルームとして活用できないかと設計者側より提案しました。

2.検証を経て開放型食堂から開放型食堂へ

 そのような運用を可能にするには閉鎖型の食堂を常時開放して使うことが前提になります。知的障害者の施設では通常、食事時間以外は食堂を閉鎖します。食堂を開放しての運用が可能かを確認するために既存の状況のままでテーブルのレイアウトや職員動線を改修計画のものに一時的に変更し、実際に運用してもらいました。運用の結果、開放型食堂でも問題ないことを確認し、食堂とデイルームを一体利用とすることを決定しました。以上の改修により増築をせずに日中の居場所が拡大でき、元食堂のスペースは個別の食事が向いている方に使ってもらうなど、利用者の状況に応じて空間を活用できるといった様々なメリットも生まれました。

入替え前:中庭に面したデイルーム

入替え運用中

3.食堂・デイルームを中心とした生活への改修

 その一方、弱視の利用者にとっては、元来座られていた指定席に到達するまでの歩数や壁などが空間を認知するために必要であり、日中過ごす位置を変えないことも重要であることがわかりました。このようなテスト運用期間を経て、次のような改修を行いました。

① 食堂とデイルームを大小の食堂・デイルーム1・2に改修
② 配膳室を拡張し、食堂・デイルーム・1・2の双方にサーブ
      できるようにする
③ 支援室を拡張し、見守り・喫茶の提供ができるキッチンを配置
  食堂・デイルーム側に手洗い器を増設

 このように、設計者側からの視点により、既存の空間のとらえ方を見直し、利用者の変化に合ったすまいとすることができました。また、いきなり改修するのではなく試験運用ができたことも成功のポイントです。
 次からは食堂・デイルームの改修と合わせて行った環境、機能の改善を4つの視点からお伝えします。

4.居住空間の温熱環境の改善
5.トイレ環境の改善
6.利用者の変化に伴う洗濯機能の集約
7.支援員の働きやすい環境づくり

デイルームを食堂・デイルームに改修した後の様子

入替え前:田園風景に視界が開けた食堂 これまで食事時間に限定して使用

改修後の食堂・デイルーム2

4.居住空間の温熱環境の改善

 居室については本館と違い当初から個室と2人部屋のみで4人部屋が無かったこと、増築スペースがないことから居室構成はそのままとしています。空調については数年前に既に更新をされていましたので、今回の改修では熱環境を向上させる目的でサッシをペアガラス仕様にし、温熱環境を改善しています。

 サッシの耐用年数は、アルミサッシだと一般に40年程度と長く、老朽化の面での緊急性は低く、更新費用も安くない(カバー工法で平米あたり10~15万程度)のですが、あゆみが丘学園では3年前に本館のほぼ全てのサッシをペアガラス仕様に改修したことで体感的に温熱環境が確実に改善することが分かっていましたので、ブナの木寮の改修においても予算の制約の中で優先的に改修項目に盛り込みました。

 本館改修の時は外壁沿いの内部仕上げを下地まで撤去して断熱材を吹付けましたが、幸いブナの木寮は建設当初から断熱がされていましたので、改修範囲はサッシの周辺に留め、既存サッシの枠を残したまま工事ができるカバー工法で改修します。1ヶ所あたりのサッシ交換にかかる工期は半日程度の為、利用者が日中部屋を出ている間に工事を行い、部屋移動による利用者負担がない計画としています。サッシは居室の他、機械室を除いた外周沿いも全てペアガラスに改修します。特に利用者の滞在時間が長い居室、デイルーム、食堂は断熱性能がより高いLow-E複層ガラスを採用しています。

5.トイレ環境の改善

 トイレは本館と同様タイル貼りの湿式清掃だったものを水に濡れても滑りにくい長尺シートによる乾式清掃や汚れにくい壁パネルにやり替えました。本館を改修後に使い始めて分かったことの一つに、乾式清掃にすると普段の使用は全く問題がないのですが、物を詰める等でごく稀に便器から汚水等があふれた時に直近に水を流す場所がなく水がトイレ全体に広がってしまったということがありました。今回の改修では本館の使い勝手を受けて掃除兼用ドレン(排水口)を各ブース毎に設けて万が一の時も汚水が拡がらない計画としています。

 床走行リフトの使用を想定するトイレブースは、スペースが広いに越したことはありませんが、既存改修の場合など制約がある場合は、数あるリフトの中でもトイレ介助に特化した機種を限定して提案し、2018年5月9日付のブログでも記事を挙げている1650×2150の寸法で計画をしています。

床走行リフトの使用を想定した広さのトイレブース

6.利用者の変化に伴う洗濯機能の集約

 トイレは本館と同様タイル貼りの湿式清掃だったものを水に濡れても滑りにくい長尺シートによる乾式清掃や汚れにくい壁パネルにやり替えました。本館を改修後に使い始めて分かったことの一つに、乾式清掃にすると普段の使用は全く問題がないのですが、物を詰める等でごく稀に便器から汚水等があふれた時に直近に水を流す場所がなく水がトイレ全体に広がってしまったということがありました。今回の改修では本館の使い勝手を受けて掃除兼用ドレン(排水口)を各ブース毎に設けて万が一の時も汚水が拡がらない計画としています。

 床走行リフトの使用を想定するトイレブースは、スペースが広いに越したことはありませんが、既存改修の場合など制約がある場合は、数あるリフトの中でもトイレ介助に特化した機種を限定して提案し、2018年5月9日付のブログでも記事を挙げている1650×2150の寸法で計画をしています。

ボイラー室を洗濯室に改修し脱衣室に行き来できる引戸を設置

7.支援員の働きやすい環境づくり

 利用者の居住環境を改善するだけでなく、支援員の働く環境の改善にも取り組みました。医務室を居室ゾーンに移動して空いたスペースと、デイルームに面してほとんど使われていなかった通路の一角を利用して職員用の流しを新設し、手狭になっていた支援室の面積を約3倍にまで拡げました。結果、支援員の移動の負担になっていた更衣室、仮眠室を集約し、休憩スペースも確保することができました。新設した流しは支援室からの見守りを兼ねて喫茶が提供できるスペースとして使うことを想定しています。

 以上の様々な建築からの工夫を通して利用者が心地よく暮らせ、支援員にとっても働きやすい環境を実現しています。
【清水大輔】

写真奥が通路を利用して新設した見守りを兼ねた流しスペース

支援室から見守りを兼ねた喫茶の提供ができるキッチン

建築主
社会福祉法人丹後大宮福祉会
所在地
京都府京丹後市大宮町延利小字荒神谷口217
用途
障害者支援施設
構造
鉄筋コンクリート造
階数
2階建て
敷地面積
1,205.12㎡
建築面積
638.15㎡
延床面積
757.13㎡(内改修部分約350㎡)
竣工年月
平成30年12月
担当者
清水大輔