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障害者

障害者支援施設 あゆみが丘学園 増築・大規模改修

【 →増改築完了後8ヶ月を経過しての生活の変化レポート】

概要

あゆが丘学園の敷地は、京都府北部の日本海に突き出した丹後半島の内陸に位置し、周囲には田園風景が広がっています。昭和60年の開園以来30年が経過しており、建設当時の基準による4人部屋が継続して使われているなど、広さや使い勝手の点で現代の生活とのギャップが大きくなっていました。 また、長期に利用されている方も多く、開園から12年が経過した平成8年には隣接地に定員20名の高齢者向けのブナの木寮を建設されましたが、全体の平均年齢が50歳を超え、本館でも60歳以上の方が増えてきたことから建物内のバリアフリー化も差し迫った課題としてありました。

計画にあたってはスタッフ打合せの他、現状を把握する為に泊りがけの調査をさせて頂き、既存の建物をベースにしながら現在の生活に合う「暮らしの場」としてどう作り変え、良くしていけるのかを手探りの中で考えていきました。

居室の計画

目指すところは全室個室化ですが、敷地配置や面積の制約から全てを個室にはできなかった為、4人部屋を全て解消し、個室は最大限確保するという方針で計画しました。
既存の4人部屋、2人部屋の間仕切りはRC造でかつ構造的に壊せない壁でした。また、間口が4mの為将来の車イス利用や入口幅を考えると2つに割って個室にすると使い勝手上支障がある為、4人部屋は2人部屋へ、2人部屋は2人部屋のままで和室を洋室化しました。
既存の2、4人部屋は畳で個人のスペースが無く、照明、テレビも共有だった為、少しでも個室に共通する要素を取り入れたいと考え、個人のスペース毎に内装を変え、テレビ、照明はそれぞれで 利用できるよう改修しました。

増築棟の個室は収納も雰囲気つくりの一つと考え、造り付けではなく家具を持ちこんでもらう計画としました。
2人部屋は個室より面積が狭い(6~9㎡)ことと、利用者間の持ち物管理でのトラブルを避ける為に鍵がかけられる造り付け収納で計画しました。

デイルーム

デイルーム

デイルーム、食堂、談話コーナーについて

日中の居場所となるデイルームを、諸室の配置替えにより、建物の中心となる中庭の位置に増築しました。
デイルーム、談話コーナーには各人が各様の居場所を探せるように腰かけられる場所(小上がりの畳)を多く計画しました。また小上がりの畳は可動家具とし、利用者が状況によって動かせる要素としています。
食堂は、第一食堂内の温冷配膳車が面積を圧迫していた為第二食堂に移動しました。また食後のハミガキを行う第二食堂へは一旦廊下に出ないと行くことができませんでしたが、第一、第二食堂間の壁を構造の安全性を検討した上で撤去し、食堂内部から一筆書きで移動できるよう動線を改善しました。
男性棟、女性棟それぞれに談話コーナーを計画し、日中は男女共同、夜間~早朝はデイルームを閉める為男性、女性それぞれの専用スペースとして計画しました。

日中の居場所をデイルーム、談話コーナーの計3箇所設け利用者の選択肢を増やす一方で、見守りをするスタッフの配置効率も検討し、その内2つはスタッフの配置上一体的に見守りができる配置としました。
元々のデイルームにはこたつが置いてありましたが、空間の広さとこたつのスケール感が合わないこと、こたつを置くことで空間に中心と周辺ができてしうまうことからこたつは置かずにレイアウトを考えてもらうようスタッフと打合せをしました。
高齢化が進み、活動量が減り余暇の時間の比率も増えていることからデイ、談話コーナーからの景色、風、光の通りを重視して計画しました。

2階談話コーナー

女性棟談話コーナー

廊下について

要所要所に景色、光、風を感じられる抜けの場所を計画しました。
折れ曲がりや段々の箇所をつくり分節化しました。
増築棟の個室は入口が相対しないようずらして配置しました。

色について

既存の廊下は南北に長く(約100M)、その長さは変えられませんでしたが、居室の扉を全て個別に設定(全45色)することで廊下が直線であっても移り変わりが楽しく、また利用者が居室を認識しやすくなることを考えました。居室内のクロス、床、ロールスクリーンも扉に対応させて、全て違う組み合わせの内装で計画しました。

建築的に工夫したこと~生活を損なわない範囲での工夫~

建具:
強度については使用する中で万が一壊れた場合はその時に直すという打合せをして通常の強度で計画しました。戸当たり音防止の要望があり、ソフトクローザーを採用しています。ソフトクローザーは機構上、戸車式より故障しやすい点を了解を得た上で、男性棟は中量用、女性・スタッフ用は軽量用で使い分けています。また、建具開閉の際に無理な力が前後にかかりにくいように返し無しの掘込み引手を提案し、採用しています。
収納の鍵はそもそもの取っ掛かりをなくす為に面付け錠+プッシュラッチ(取手無し)で計画しました。
居室名札サイン:
マグネット式で取替え可能ですが、ネジを持って行かれないように専用工具タイプのフラットネジを採用しています。
デイルーム等の小上がりの畳は、内部に水が染み込まない塩ビ製とし、編目が透過するタイプ(雰囲気重視)と透過しないタイプ(拭き取り清掃重視)を提案し、スタッフ側で透過しないタイプに決定しました。
内装:
生活の場であることを重視して特別な配慮はしていません。上下でクロスを貼り分ける箇所だけ継ぎ目が直接見えないように木の見切りを施工しています。
コンセントプレートについては、破損はあっても頻度的に少ないことから改修工事の中で金属製からプラスチック製に取替えました。
内部の窓についてはアクリル、ポリカーボネイトとしていますが、サッシのガラスは過去に破損等が無かったため、ガラス+飛散防止フィルムで計画しています。
居室内に照明のスイッチやテレビ等に使うコンセントなど、最小限の設備は設ける一方で、空調や換気のコントロールについてはスタッフの部屋での集中式とすることで目に触れる情報が増えすぎないよう配慮しました。
トイレを原則湿式から乾式に改修する一方で、失便にも対応できるよう部分的に湿式対応を残しています。
【清水大輔】

リフト浴を追加した木目パネル+石貼りの浴室

第一食堂

多目的ホール外観

多目的ホール内観

建築主
社会福祉法人 丹後大宮福祉会
所在地
京都府京丹後市
用途
障害者支援施設
構造
鉄筋コンクリート造
階数
地上2階
敷地面積
8,960.85㎡
建築面積
2,159.61㎡
延床面積
2,853.34㎡
竣工年月
平成27年9月
担当者
清水大輔