Design StudyDesing Study

高齢者

特別養護老人ホームにおける浴室中央集約型プラン
~特養つつじの丘のプラン変遷に見る様々な形~

特別養護老人ホームの浴室配置パターン

特別養護老人ホームの平面計画において、重要な要素の1つとなるのが浴室の配置です。ゆう設計の案件では大きく分類して
・特養フロア中央に浴室が集約されている、中央集約型プラン。
・各ユニット内に小規模の浴室を配置。中央部に大型の機械浴槽を有した大きな浴室を配置する、ユニット分散型プラン。
この2種類のパターンが見られます。
それぞれのパターンで入浴介助における利点があるわけですが、今回は最新の事例である特養つつじの丘の、計画段階における浴室計画の変遷を元に、浴室中央集約型のプランにおいて、入浴介助の考え方や方針によって変化していった様々なプランを見ながら、それぞれの考え方や利点について整理します。

浴室中央集約型プランに至る経緯

特養つつじの丘は既存の特養を長年運営されてきた社会福祉法人大和会が、奈良県において広域型特養の公募が行われたのを機に、奈良県山添村で計画することとなった広域型特養50床、ショートステイ10床の施設です。
大和会では既存の特養における入浴介助において「入居者の居室から浴室への移動→浴室での入浴→浴室から居室への移動」という入浴に関する一連の動作を、1人の入居者に対して同じ介護職員が担当するという方針で介護を行っており、今回計画する新特養においても同じ方針で介護を行うことは当初より決まっていました。また既存の特養は従来型の特養で、1対1の入浴介助の場合、居室の位置によっては浴室までの動線が長くなってしまうという問題点がありましたが、新特養は中央部を4つのユニットで取り囲むような配置となっているため、中央部に浴室を集約したプランでも、各ユニットから浴室への動線の長さは等しく、また従来型特養と比べると一番遠い位置にある居室から浴室までの動線は短くなるため、当初よりフロア中央に浴室を集約するプランで計画を進めることとなりました。

2階平面図

以上のような経緯から、浴室配置の大きな方針は計画当初から設計完了まで、浴室中央集約型プランで計画は進んでいきましたが、中央に集約された浴室群の形状や配置は、計画初期から設計完了まで様々な理由で変遷していくことになります。以下より時系列に沿って各案の特徴を説明します。

計画案1

浴室中央集約型プランの様々な形
計画案1:浴室分離案

初期の計画案では、2つの3方介助型浴槽を持つ小型浴室と、1つの大型機械浴槽を配置した大型浴室が、湯上りスペースに面する形でそれぞれ別々で配置されていました。1対1で入浴介助を行うという考え方から、それぞれの浴室はつながっている必要はなく、むしろ複数の入居者が同時に入浴する際に、各々の入浴している姿が見えないほうが入居者にとってよいのではないかとの考え方から、このような配置になっています。

計画案2-1:感染症対応浴室分離案

計画案2では、2つの小型浴室のいずれも小型機械浴槽を設置する浴室となり、また大型浴室と1つの小型浴室が同じ脱衣室でつながり、もう1つの小型浴室が隣接するものの独立した脱衣室を持つ形となっています。計画を進める中で再度既存特養の入浴介助の実態を調べたところ、1対1の入浴介助は実践されているものの、場合によっては同時に入浴介助を行っている介護職員同士が、他方の入浴介助を手助けするケースが頻繁にみられることがわかったため、大型浴室と小型浴室は脱衣室でつながっている方が良いという考えになりました。ここで1つの小型浴室の脱衣室が別となっているのは、感染症が発生した際の感染者用の浴室として浴室の内1つは分離している方が良いという考え方から、このような計画となっています。

計画案2-2

また1つの浴室を感染対策用として利用するのであれば、完全に分離した方がいいのではないかとの考え方もあり、小型浴室の1つが完全に分離した案も検討しています。
この段階で小型浴室内の浴槽の仕様が三方介助型浴槽から小型の機械浴槽に変わっているのですが、特養の入居者が要介護度3以上となったことと、2m角の浴室でも設置できる小型の機械浴槽のラインナップが充実してきたことによって、ゆう設計の他の特養案件においても、三方介助浴槽ではなく小型の機械浴槽を配置するケースが多くみられるようになってきています。

計画案2-1

計画案2-2

計画案3

計画案3:大型機械浴槽合体案

計画案3では、大型の浴室に大型機械浴槽を2台設置(間には衝立を設置)し脱衣室は共用とし、そこに隣接する形で小型浴槽を配置し、それぞれの脱衣室間は行き来できるよう扉を設置する案となっています。感染症対策として設けている分離された小型浴槽ですが、常に感染症が発生しているわけではなく、通常の運営を行っていることの方が多いので、職員同士の連携を考え脱衣室間をつなげる形としています。また計画段階では数ある機械浴槽をどの様に組み合わせるかは非常に悩まれる部分ですが、この段階では実態を考えたとき、種類の異なるの大型機械浴槽が必要ではないかとの考えから、2種類の大型機械浴槽を設置する案となっています。その2種類の大型機械浴槽を1室の浴室に配置することで、1つの浴室で様々な状態の入居者の入浴に対応できるようになっています。

計画案4:全浴室合体案

計画案4が最終案になります。機械浴槽の機種が大型機械浴槽1台と小型機械浴槽1台、移動型浴槽1台という構成に変わっています。感染症発生時、感染症に罹患している方が共用部にある浴室を利用すると感染症が拡大する可能性が高くなるのではないかとの考えから、感染症に罹患している方の入浴介助は移動型浴槽を使用し居室で行うという考え方になっています。
浴室と脱衣室は横長の大きな1室となっており、それぞれ中間部分にカーテンを設置し、同時に入浴する際にもお互いの姿が見えない形となっています。感染症発生時の対応を移動式機械浴槽で行うこととなった結果、介護職員の連携のしやすさ、洗い場の広さ、機械浴槽選定の自由度や将来対応のしやすさという点を重視し、最終的にはこのような計画案となっています。

計画案4

浴室中央集約型プランの可能性~まとめ~

特養つつじの丘における浴室計画の経緯は、結果的に浴室を中央に集約するプランにおいて、入居者の入浴環境に対しての考え方、入浴介助の方法に関する考え方、感染症発生時の対応方針などによって非常に様々なパターンが考えられるということを表しています。このような様々なパターンから、浴室中央集約型プランの特徴やメリットは以下のように整理できます。

・浴室を中央にまとめることで、同時に入浴している際の職員間の連携がとりやすい。
・複数の機械浴槽を中央のまとまった位置に配置することができるため、異なる機械浴槽を配置することで、様々な状態の入居者の入浴に対応しやすくなる。
・浴室を中央にまとめ、湯上りスペースのような共用スペースを設けることで、入浴という日常動作の中で、ユニット間の入居者や介護職員のコミュニケーションの機会が期待できる。
・浴室を中央にまとめながらも、部分的に分散配置を行ったり、共用部を分離することで、感染症発生時の浴室利用者の分離も可能となる。
・ユニットごとに浴室を設ける場合より、施設全体の浴室数が減る傾向にあり、導入する機械浴槽の台数も減るため、工事費の削減や備品を含めた全体予算の削減が期待できる。

今回は具体的な事例を元に、浴室中央集約型プランの可能性についてまとめましたが、中央集約型プランを推奨する意図ではありません。中央集約型プランであれ、ユニット分散型プランであれ、大きく分かれる二つの考え方の先には、入浴介助に関する考え方によってさらにさまざまな形があることを整理することで、施設にとって理想的な浴室プランを導き出す手助けになればよいと考えています。