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医療

狭い個室透析への挑戦 ~使われ方調査~

山崎慎二が担当したユーカリが丘・腎・内科クリニックのヒアリング調査に同行し、設計者の考えた建築の意図と実際の使われ方について確認しました。
このクリニックでは、感染対応を含め多くの最新対応を行っています。今回の調査で確認した項目のうち、個室での建築工夫とその利用状況について報告します。
作品紹介はゆう設計ホームページをご覧ください。

→ 作品紹介 ユーカリが丘・腎・内科クリニック 改修工事

1.狭い個室でのベッドの出し入れ

① 2~3部屋を一体にした引違い戸の採用
このクリニックでは個室透析の数をできるだけ多くとり、感染対応やプライバシーの確保を行う方針でした。
建築計画では個室を狭くして部屋数を増やすことを検討したのですが、個室の幅を狭くすると出入り口の幅が十分にとれず、ベッドの出し入れがスムーズにできないことが問題となります。
このため個室の引き戸を工夫をしました。
通常、個室の出入口には片引き戸を採用しますが、ここでは2~3部屋を一体で開放できる引違い戸とし、部屋の間にある扉枠も含めてスライドすることで、個室を全開放することが可能な建具を計画しました。

② 全開放建具の実際の使われ方
狭小個室の場合、ベッド廻りに余裕がないため、シャント位置の変更を行うには、まずベッドを個室外に出し透析カウンター廻りにスペースを確保してから監視装置の入れ替え作業を行う必要があります。
全開放できる建具によって、1.75m程度の開口幅を生み出すことができ、ベッドの出し入れが容易となりました。
さらにスタッフの方からは、「扉を全開放し、苦も無く簡単にベッドを引き出すことができるのでベッド下の掃除がしやすい」といった感想をいただきました。
これにより、2~3部屋を一体で開放できる引違い戸の採用は、ベッド入替え時の利用だけではなく、日々の清掃によるスタッフの使いやすさ向上にも繋がっていることがわかりました。

2.逆シャントについて

透析施設の計画では逆シャントへの対応が一つのテーマとなります。
シャント位置の変更に伴う建築の可変性をどこまで考慮するかで計画が変わってきます。

① ゆう設計の空調システムがベッドの移動に影響を持つ
ゆう設計では、透析室の空調換気に独自のシステムを採用しています。
患者さんのベッド上で空調吹出し口からの風速をコントロールし、空調による不快な風を感じることなく透析治療を受けることができます。
天井の吹出し口から低風速で吹き出された風は、ベッドの頭側にある透析カウンターの吸込み口から空調機に戻るようになっています。
低風速で吹き出された風を部屋全体に行き渡らせる意味でも、この吸込み口は必要となります。

→ 設計コンセプト 感染リスクを低減する空調換気システム

② ベッド位置の移動とゆう設計空調吹き出し口との関係
右シャント、左シャントに合わせて、患者さんのベッドを移動する場合、頭の近くに吸込み口があると風の流れを感じて不快感の原因になることがあります。
ゆう設計ではベッドの左右への移動が生じる場合は、大部屋透析でも個室透析でも、ベッドと吸込み口の位置関係を工夫しています。
通常はベッドの反対側に吸込み口を設けますが、狭小個室ではベッドを左右で入れ替えた際に頭側と吸込み口が近くなってしまうため、 解決策として、あらかじめ吸込み口の横幅を広げておき、吸込み口前面に設けたパネルをスライドさせて頭側の吸込み口を塞ぐことで、ベッドが左右どちら側に来ても対応できるようにしています。

右シャントの場合の吸込口

左シャントの場合の吸込口

③ 使われ方
透析では、通常1割の患者が右シャントなのに対し、このクリニックでは4割の患者が右シャントでした。
実際に、患者のシャント位置の変更に伴いベッドを入れ替える際には、透析カウンターの吸込み口に設けたパネルをスライドさせて頭側の吸込み口を塞いでもらっているので、患者から不快な風を感じるなどの不満はありませんでした。

3.狭小個室の可能性とこれから

・狭小個室の限られたスペースの中では、緊急時の患者の搬送やシャント位置の変更に伴う監視装置の位置の入れ替えなどをおこなうためには、ベッドの出し入れのしやすさが重要で、部屋の間口が狭い場合でも扉の工夫によってベッドの出し入れが容易となった
また清掃がしやすいなどの使いやすさ向上に繋がった
・ゆう設計独自の空調・換気システムの吸込み口にスライド式のパネルを設けることで、患者のシャント位置の変更やベッドの移動に伴った吸込み口の位置変更に対応できた

今回のヒアリング調査から、限られた面積の中でより多くの個室を配置する透析施設では、扉の全開放を可能とした建具やシャント位置の変更に対応する空調・換気システムの吸込み口のスライド式パネルなどが、狭小個室に対して有効な建築対応であることがわかりました。
実際に現場を見て、透析についてさらなる問題解決に繋げられるように、今回のヒアリング調査で学んだ経験を活かし、患者や医療スタッフのどちらに対しても、良いと思ってもらえる透析施設をこれからたくさん考えていきたいです。