設計コンセプトConcept

高齢者

設計段階から始めるコスト削減の工夫

岩﨑 直子

 京都府下ではユニット型でかつ個室とすることが特養の建替計画の条件でした。ここで紹介する京都府与謝郡与謝野町の特別養護老人ホーム与謝の園は、従来型特養の老朽化による移転新築の計画を2022 年に行ない、2024 年に15 人ユニット型特養に建て替わりました。計画当初は1ユニット10 人のユニット型特養の計画としていましたが、設計中に1ユニットの上限人数の緩和があり、15 人定員で計画をすることが可能になりました。それと同時に工事費上昇の影響が顕著になってきた時期でもありました。
 この計画では、設計段階から建設コスト削減の工夫を行なっています。ここではその工夫の一部を紹介します。

社会福祉法人北星会
 特別養護老人ホーム与謝の園

1985 年4 月に開設した従来型特別養護老人ホーム与謝の園を元小学校跡地に移転新築する計画です。地域にとって思い入れがある場所であり、敷地内には小学校の卒業記念植樹等を保存した公園、施設内には地域交流ホールを整備し、周辺の方々が立ち寄りやすく開かれた施設を目指します。また、移転を機に従来型のケアからユニット型の個別ケアに移行し、これまで以上に入居者様ひとり一人に寄り添った質の高いケアが提供されます。

1. 従来型特養からユニット型特養へ

 旧与謝の園は定員90 名の従来型特養で、入居者は要介護度重度といえ身体的には残存能力の高い方も多く、食堂や窓辺など共用部のなかで様々な居場所をつくり生活しておられました。新しい与謝の園でも、入居者が思い思いの居場所で過ごせること、介護職員にとっても介護しやすい・働きやすい空間になることをコンセプトとしました。15 人ユニットとはいえ、共同生活には少なくない人数ですので、ユニット内で様々な居場所を設け、少人数でその方のペースで過ごすことができる場所づくりを目指しました。
 新しいユニットのフロア内は共同生活室は3 か所あります。その中でもメインとなる共同生活室1・2はユニットキッチンを中心に一体的な空間になるように計画しています。共同生活室3はまた別のリビングとして活用され、入浴前後のくつろぎの場となります。
 要介護度の重度化に伴い、入居者が居室で過ごされる時間は長くなり、見守りが必要になってきます。限られた職員数の中で、見守りセンサーの導入により、職員が駆けつける緊急度を確認しながら、建築的な面だけでなく、設備的な面でも介護業務を効率化し、入居者に適切なケアが提供できる計画としています。

3 階ユニット3 共同生活室1

4 階ユニット5 共同生活室2

2. 15人ユニットの 適正な床面積を探る

 特養ユニットの床面積は、コスト(工事費)にダイレクトに影響します。コスト削減の大きな要素のひとつに、ユニットを事業主の想いに沿った、適正な面積で計画することが重要になります。
 【図1】は与謝の園15 人ユニットプランです。ゆう建築設計で行なったこれまでの計画において、ユニット面積はユニット内に浴室を持たないタイプであれば300㎡程度、ユニット内に浴室をもつタイプでは325 ~ 350㎡で計画しています。この15 人ユニットの床面積は469.5㎡となっていて、1 人当たりの面積は31.3㎡であり10人ユニットの1 人当たりの平均的な面積より小さく計画できています。

【図1】15人ユニットプラン 2ユニット

3. 15人ユニットでの居場所づくり

 15 人ユニットの計画のメリットの一つは、10 人ユニットよりも一人当たりのユニット内共用部面積の大きさを小さく計画することが可能です。
 さらに面積縮小を考えるのであれば、中央共同生活室タイプ(ひとつの共同生活室を中心に、居室が取り囲むように配置された案)で計画するという方法もあります。その面積試算では、ユニット面積は約440㎡となります。
 与謝の園においても共同生活室3を取りやめたり、中央共同生活室タイプで計画すれば、一人当たりのユニット内共用部をさらに小さくすることも可能です。今回のような共同生活室分散配置型のユニットプランでは、約30 ㎡(9 坪) 面積が多い分工事費が大きくなります。そこで、さらなる面積低減を行うかをスタッフの方々と相談しました。

 計画コンセプトで考えていた「入居者の居場所がつくりやすいユニット空間とする」ということと計画プランを再度見直します。建物外周にひろがる、入居者の方が住み慣れた町の風景。それが見える共同生活室の配置を残したい。そしてキッチンを中心にさまざまな居場所をつくりたいという声が聞かれました。15 人がひとまとまりで過ごすのではなく、食事の場面では共同生活室1・2を使う、くつろぎの時間や入浴の前後の時間には共同生活室3を利用するというように、入居者の方がユニット内に複数居場所を見いだせるような空間とするなら、共同生活室3 か所は必要なスペースだと判断し、【図1】の形で決定しました。
入居予定者の方が生活の中で見える風景や新しい15 人ユニットでの過ごし方のイメージを持ち、設計内容や工事費低減につながる項目を取捨選択していくことが重要になります。またそれを支える見守りシステムなどの設備も平行して考えていくことになりました。
 ユニット内部の検討の他に、職員の動きをフロアごとに限定するため、フロアにスタッフ更衣室・休憩室をもつという計画としました。コロナ禍を経 た計画で採用した方法ですが、このこともフロア面積をコンパクトにすることにつながりました。

15 人ユニット 共同生活室1 食事風景

共同生活室3 ちいさなリビング

4. そのほかのコスト低減の工夫
建物構造の決定

 建物の構造を鉄筋コンクリート造とするか、鉄骨造とするかは、基本計画の初期段階で決定します。一般的に鉄骨造の方が、鉄筋コンクリート造より平面計画において柱スパン(柱から柱の距離)を大きく取ることができます。どちらの構造方式がユニットプランと合致しているかを判断します。その決定には、計画敷地の地盤の強弱も影響します。地質調査により建物を建設するのに適した地耐力があるかを確認し、充分な地耐力がない場合は、杭基礎や地盤改良を計画します。
 計画敷地では、必要な地耐力が得られないため、支持層が現れる地中約20mまで杭基礎を計画する必要がありました。そのため計画当初より基礎構造についてはコストがかかることが分かっており、できるだけ建物の重量を減らすことで、杭基礎のコストの低減を図りました。また杭基礎の種類についても構造設計者と十分に協議しコスト比較を行い選定します。柱の数が杭の本数に直結しますので、柱の本数を減らす工夫をします。当初鉄筋コンクリート造で計画していましたが、鉄骨造に変更して柱スパンを8m~9mとし、柱を10本減らす検討を行いました。これにより杭の本数も減ります。基礎の計画を合理的・経済的に行う工夫は、設計の初期段階で行う必要があります。

上図(変更前):左右方向に7スパンで計画  
下図(変更後): 5 スパンに柱配置を変更し、
杭基礎の減数を行った。

設備仕様の選定

 工事費低減の手法として設備仕様の項目をチェックすることは非常に有効です。消防法や省エネルギーに関する条例などで設置が必要な設備は外せませんが、入居者の生活環境に密接な、空調・換気設備、床暖房、非常電源の設置、加湿設備など多岐にわたる設備を基本設計段階で決めていきます。
【表1】は、コストに大きく影響する項目について、工事予算に応じて優先順位を検討し、採否を確認したリストです。コストを意識した設計は、入居者の新しい生活や介護方法を想像し取捨選択していくこと、事業主・介護者の考えを浮かび上がらせ、可視化していくプロセスに他なりません。事業主・介護者がそれぞれの立場で利用者と向き合うことをサポートする建築でありたいと考えています。

【表1】設備方針 再確認リスト