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高齢者

「特別養護老人ホーム」の成功する 大規模改修の考え方

ゆう建築設計では、築20年~ 30年の老朽化した特別養護老人ホームの改修の相談を多く受けています。
建物を維持管理するためどのような修繕工事を行えば良いのか。修繕工事費はどの程度か。補助金は使えるか。トイレや浴室などの環境を改善するためどのような改修工事が行えるか。「居ながら改修」は可能か。
限られた予算の中で成功する大規模改修の考え方を紹介します。

 

Ⅰ.改修工事の費用

A.修繕工事と環境改善工事
 改修工事は大きく分けると修繕工事と環境改善工事の2 つに分類されます。修繕工事とは、もともと持っている建物の性能を原状に回復するための工事です。環境改善工事とは、今ある環境を改善するための工事で、高齢化に伴うトイレや浴室の環境改善、居室や日中活動室の改修がこの工事にあたります。

1.修繕工事
 ・30年手を入れていない建物は何をしなければいけないか。
 ・限られた予算の中でどのような修繕工事を選ぶか。
2.環境改善工事:入居者の生活や職員の働く環境を改善するための改修
 ・入居者の変化への対応→重度化や認知症

B.緊急度合いにより異なる3種類の修繕工事

 修繕工事は緊急度合いにより3つの工事に分類できます。工事予算に合わせてどこまで工事を行うか、建物の老朽化を確認しながら検討することになります。

C.修繕工事費はどの程度か

 改修工事費は情勢により大きく影響をうけます。コロナウイルスの影響、延期されたオリンピック、2025年の大阪万博などさまざまな要因により影響をうけます。改修工事費は上記の修繕工事費と環境改善工事費の合計となります。
建物全体の防水や設備などすべての修繕工事を行った場合の修繕工事費の目安は40 万円/ 坪となります。あくまでも目安ですが、改修工事を検討し始める段階では大きな指標となります。
 環境改善工事はどのような工事を行うかにより工事費が大きく変わることになります。

D.補助金は使えるか

 使える補助金がある場合は積極的に使いたいです。プライバシー改修で利用できる補助金以外に、一般社団法人環境共創イニシアチブなどを利用した空調や照明の省エネ改修による補助金もあります。
 直近で行った空調改修工事は、一般社団法人環境共創イニシアチブの補助金を受けました。約4,600万円の空調改修工事費に対して約1,500万円の補助金を受けています。
 ただし、補助金を受けて工事を行った場合は、10年間は補助を受けての改築・改修は認められませんので、ユニット型特養への建替えや移転計画を検討している場合は注意が必要です。

E. 「予算3億の大規模改修工事」の事例紹介

 予算3億の大規模改修工事を行ったS 施設について紹介します。
 築30 年の特別養護老人ホームで老朽化に伴う修繕工事を行うと共に、トイレや浴室など環境を改善するための工事を行いました。

 ゆう建築設計から大規模改修相談開始時に、A 工事、B 工事、C工事のすべての工事を行った場合の最大限の工事金額と、A工事のみ行った場合の最小限の工事金額も提案しました。これらの工事費を参考に、B工事を精査し、全体予算をみながらC工事に加えて、どの程度トイレや浴室などの環境を改善するための改修工事を行うか打合せを重ねて決めました。
 下記は相談開始時の最大限と最小限の工事金額と打合せを重ねて決めて実際に行った工事金額となります。

 

Ⅱ.「居ながら改修」は可能ですか

 特養の改修⼯事は新築で無い限りほとんどの場合、⼊居者が⽣活しながら⼯事を⾏う「居ながら改修」となります。「居ながら改修」で検討すべきポイントがあります。⼯事が始まってからでは、⼤きなトラブルや思わぬ追加費⽤が発⽣しますので事前の検討が重要になります。

A. 居室を何床毎に改修するかで工期とコストが変わる

居室の改修を行うには空きベッドが必要になります。短期入所を休業やデイサービスを休業して空きベッドを確保します。表4は、70 床の居室をA案(20 床毎に改修した場合)とB案(8床毎に改修改修した場合)を比較したものです。A案はB案に比べ工期、工事期間、現場管理費共に約半分になっており、運営を継続しながら空きベッドを確保することは非常に難しいことですが、工期毎の改修ベッド数が多いほど、工事としては有利になります。

B.⽔回りの改修は下階に影響する

 トイレや浴室等の⽔回りを改修する場合、排⽔管の⼯事が伴うため⼯事範囲が下階に影響します。例えば、上下階共トイレで上階のトイレを改修すると、下階から上階の排⽔管等の⼯事を⾏うこととなるので下階のトイレが使えなくなる期間が出来ます。このため、男⼥トイレの内、常にどちらかのトイレを使えるようする等の調整が必要になります。

上階のトイレ改修工事 下階の上階排⽔管⼯事

C.コンクリート壁の解体⾳は⼤きい

 コンクリートの壁を解体する時の⾳は⾮常に⼤きな⾳となります。改修⼯事を⾏っているフロアだけでなく、下階へも柱や梁の躯体を伝わり⾳が伝わります。
 特に、⾷事中に⼤きな⾳がなると落ち着いて⾷事がとれないため、⾷事中に解体作業が行なわれないように時間調整する必要があります。

チッパーによるコンクリート壁の解体作業

D.EV改修

 EVの改修を⾏うと、1週間程度EVが使えない期間が発⽣します。EVを利⽤してデイサービスに移動する建物では、利⽤者の上下階の移動が出来ないため、1階に⼀時的にデイサービスの場所を設けるか、休業等の対応が必要になります。
 EVを利⽤して⾷事を温冷配膳⾞などで移動する建物では、⾷事を温冷配膳⾞などで上下階の移動が出来ないため、⾷事を⼿運びする必要があります。このため、デイサービスやショートの休業時期に合わせて工事を行うことを検討します。

E.厨房改修は仮設厨房のコストを抑える

 厨房を改修する場合、厨房を改修している間の⾷事をどのように提供するか検討する必要があります。
 厨房を改修するのに⼤掛かりな仮設厨房を作るとコストがかかります。お弁当などを利⽤して、出来る限り仮設厨房を⼩規模なものとしコストを抑える必要があります。⼤量のお弁当を短時間で温めるための機械の設置、きざみやミキサーなどの特別⾷への対応、汁物への対応など、どうしても対応しなければいけない事を精査して必要最⼩限の仮設厨房とします。合わせて、デイサービスやショートの休業時期に合わせて、極⼒⾷事の量を減らすことで、仮設厨房
をより⼩規模にすることでコストをさらに抑える事が出来ます。

 

Ⅲ.高齢者施設における環境改善⼯事の実例紹介

 2015年に改正された介護保険制度により、特養別養護老人ホームへの入居は原則要介護3以上になりました。また、全般的に入居者の介護度は年々上がっていきます。ここでは、ゆう建築設計で取り組んだ様々な環境改善工事の実例紹介を紹介します。

事例1.⼀般浴槽を減らし機械浴槽を設置するための浴室改修

 ⾞椅⼦利⽤者や寝たきりの利⽤者が増え、⼀般浴室の利⽤率が減り機械浴室の利⽤率が増えたため、⼀般浴槽を減らして機械浴槽を置くスペースを⼤きくしました。機械室の循環濾過機も撤去し脱⾐室も⼤きくしています。

事例2.⾞椅⼦トイレ改修

 車椅子利用者が増え、今までのトイレスペースが狭くて使えなくなったため、車椅子トイレに改修しました。もとの仕上は湿式タイルでしたが、⽬地の臭いや衛⽣⾯ を考え、乾式の⻑尺シートに改修しました。

事例3.プライバシー改修

改修前のベッドスペースは、造り付け家具とカーテンで仕切られており、プライバシーが確保されておらず病室のようでした。改修後のベッドスペースは、既存間仕切りや家具を移設再利⽤しながら、間仕切り壁と障⼦により、プライバシーが守られた落ち着いた個室⾵しつらえに改修しました。

※プライバシー改修が出来ないケースに注意
当初は、プライバシー改修も⾏う計画でも、検討の結果、元々の居室の⾯積が狭いため、間仕切りを作ると介護が出来ない事が分かったため、プライバシー改修を⾒送ったケースもありました。

事例4.静養室の和室部分をベッドが設置できるようにしたデイサービス改修

 元々の静養室は和室部分に4人分の布団を敷き、ベッドを6台設置しており合計10人の利用者が静養できるようになっていました。しかし、和室の畳の高さは低く、布団と布団の間にスペースが確保できていないため、利用者の車椅子やリクライニングから布団への移乗がスタッフへの大きな負担になっていました。このため、10台のベッドが置ける静養室に改修しました。

事例5. 「⽴つ・歩く」をテーマにしたデイサービス改修

 「⽴つ・歩く」をテーマとしたデイサービスの改修。カラオケルームでは利⽤者が⽴って歌うことが出来るように縦⼿摺りが設けられています。ハッピーロードは利⽤者が楽しく廊下を歩き⾜腰を鍛えてもらうためにが作られました。壁はマグネットボードで出来ており、利⽤者はマグネットに書いた絵を好きな場所に貼ることが出来ます。



予算3億円の大規模改修工事の事例紹介

資料はこちら【PDF】