設計コンセプトConcept

障害者

Withコロナへ  障害者施設での建築からの対応 砂山憲一

 新型コロナウイルスの感染リスクを避けた生活は当分続く。障害者の住まいも、With コロナの生活様式に変えていくためすでに様々な試みが行われている。障害者の生活の現状と実行されている建築からの対応を紹介する。

砂山 憲一

「病院設備」VOL.63 No.1(354 号) 2021 年1 月 掲載記事

1.コロナ発生後の生活様式の変化

 コロナ発生後障害者の住まいについて各事業者への問い合わせやアンケートで聞き取りした事例である。対策は、入所施設、グループホーム、通所施設で異なる項目もある。

1- 1.入所施設
 ・食事の時間をずらす。
 ・行事の中止や方法の変更。一時は全面的にやめていたが、最近は外部からの来訪者は入れず職員と入居者で実施している。
 ・外部の施設を訪問することは中止。この点はまだ続けているところが多い。マスク着用ができない人が多いため。
 ・面会は制限する。

1- 2.グループホーム
 ・一般就労は一時休んでいたが、今は通常通り働いている方が多い。
 ・不要不急の外出は控えるが、買い物や働きに行くことは行っている。マスクのできる方のみ。
 ・面会制限は行っていない施設もある。

1-3.通所施設
 事業所の製造品の外部販売はすべて中止になっていたが、一部で再開されている。
 またヒアリングで出てきた大きな問題点は、外出することが難しくなり、日々の活動も制限され、利用者のストレスが増えてくることである。
 この点は高齢者の住まいも同様で、高齢者ではADLの低下や認知症の進行が報告されている。障害者の住まいでも、この状況が当分続く前提で住まい環境を考えなければいけない。

2.Withコロナの建築対応

 With コロナの生活では障害者の住まいで建築計画にかかわることが3 点ある。
 ① 3 密を避けた生活を送るための生活環境 の整備
 ② 感染症が発生した場合の対応
 ③ 面会制限や行動制限による心身への影響

2-1.3密を避ける建築対応

 3 密とは下記の密をいう。
 1 密閉空間(換気の悪い密閉空間)
 2 密集場所(多くの人が密集している)
 3 密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)

 この3密を避けることが重要だが、障害者の住まいでは密集や密接を避けた生活を送ることはなかなか大変である。そのため建築からの対応で「換気」が大きな問題となる。
 コロナ対応に必要な換気回数は最初のころは指針として数字が出たが、換気回数と効果がはっきりとせず、現在は「できるだけ換気を行う」となっている。
 各施設には、換気の現状調査をお勧めし、弊社でも多くの施設の現状調査を行い、改善計画を作成した。
 機械換気の検討は大事だが、Withコロナの生活でより大切なのは「自然換気」が行いやすいかである。

 

 高齢者や障害者の住まいでは、窓から外へ出て問題が起こる可能性があるときは、窓に「開放制限」の装置をつけている。そのため、窓は10センチ程度しか開けることができず、十分な自然換気はできない。コロナが起こる前だが、私はそのような場合でも窓を開けた生活を送れるよう、片引き窓側のみ格子をつけて、窓を開けれるようにした。これで風は普通の窓と同じように入ってくる。コロナ後も、この施設では窓からの換気は十分行えている(写真1)。

写真1 開放制限ではなく、窓を全開できる ようにする

2-2.コロナ発生時のゾーニング計画
 感染が施設内に発生した時の指針は厚生労働省から示されている。すでに多くの施設でも計画はされ、扉の設置など必要な改修は行われている。
 既存入所施設での対応事例は、ゆう設計第2回障害者WEBセミナーで紹介している。
 第2回知的障害者のすまいを考えるWEBセミナー

 またグループホームにおいても感染時の対応が求められる。建物が小規模で難しいのだが、同じく第3回障害者WEBセミナーで既存グループホームの対応例を示している。
 第3回知的障害者のすまいを考えるWEBセミナー

 新しく住まいを計画する場合も、当然感染時対応のゾーニング可能な計画が必要である。ゾーニングを行い、換気回数などの対応を行えば、当然コストは増加する。今後のコロナの状況が不明の現在、設計者はコストと感染対応レベルを提示して事業者とともに決めていくことになる。
 ゾーニングとともに大事なのは、入居者、職員、外部からのものの搬入、内部からの汚染物などの搬出の動線の完全な分離だ。通常時は必要ない導線の分離も感染時は可能なプランにしておかなければいけない。

2- 3.感染リスクの少ない第3の居場所
 コロナの爆発的な拡大をおさえている現状を踏まえ、高齢者や障害者の住まいを運営している事業者が取り組んでいるのが、入居者の生活をコロナ前の、刺激のある、動きのある状況に戻すことだ。施設内での事業や、外部での販売などを、コロナの感染リスクをおさえながら行っている。しかし障害者の中にはマスクを嫌がる方もいて、以前の状況に戻すことは難しい。そこで求められるのは、外部の方との様々な出会いを可能とする場所を作り出すことだ。感染リスクをおさえるための十分な換気、外部の関係者と距離のある接触などが行える環境作りである。
 私はこの場所を、自宅、職場(作業場)に続く「第3の居場所・サードプレイス」と名付けている。
 感染リスクを抑えた建築的対応がなされた場所を作り、外部の方との出会いを可能とする、当然家族が来られて一日を一緒に過ごすこともできる場所、そのような場所が施設内にあれば、施設内の人たちだけではなく、他の施設の入居者や在宅の障害者も、集まって作業をしたり、楽しい事業を皆で行ったり、様々に使うことができる。
 同様の機能を持った場所は既存施設でも当然必要だ。既存施設でもすでに多目的室などで窓を開放して使用するなど様々な工夫を行いながら第3の居場所を作っている。コストはかかるが、換気回数の増加など建築的対応も求められる。

3.新築計画でのWithコロナ対応の具体例

3-1.みわ地区バリューアップ計画
 京都府福知山市の社会福祉法人福知山学園はみわ翠光園の建て替えにあたり、地域生活拠点整備のために、どのような体制と建物を作っていけばよいか数年にわたって「FUKUGAKUバリューアップ計画」を検討 してきた。
 拠点整備の目的は「障害者が高齢化・重度化した場合でも(親なき後)、地域で安心して暮らせる場を確保するため、障害児・者の生活を全領域でトータルサポートできる体制を整備する」ことである(図1)。
 そのために
 ① 相談支援機能
 ② 緊急時受け入れ機能
 ③ 体験の機会・場機能
 ④ 専門的人材の確保・養成機能
 ⑤ 地域の体制づくり機能を持つ施設群を計画してきた。施設整備から見ると下記になる。

 ① 障害高齢者特化型施設
   入所施設 みわ翠光園
 ② 地域生活支援拠点
   重度対応型グループホーム
   重度対応型デイサービス(生活介護)
   相談支援 居宅介護
 ③ 法人サポートセンター
   福知山学園全体をサポートする事務部門(BCP,DCP対応)、緊急時には避難場所となるつどいの場
 ④ 法人セントラルキッチン
 この計画の基本設計が終了する段階で、コロナ感染症が発生した。感染症発生とともに、福知山学園各施設での、利用者・職員の動線整理、マスクなどの備品の備蓄、感染発生時のゾーニングの設定はすぐに行った。
 更に進めていたみわ地区のバリューアップ計画も、コロナ対応を検討し変更を行った。変更点は、3密を避ける、ゾーニング可能なプランとする、サードプレイスの設定の3点である。特に住まいでの感染対応時のゾーニングは大きな変更点となった。この施設群の中で住まいは入所施設みわ翠光園と重度対応型グループホームである。
 この両施設内でコロナの陽性者が発生した場合、まず施設内での対応、さらに別建物での専用の療養室の設定を行った。
 この点はゆう設計ホームページの第1回知的障害者のすまいWEBセミナーで詳しく説明している。是非見ていただきたい。
 第1回知的障害者のすまいWEBセミナー

図1 みわ地区の障害者施設群新築計画

図2 サポートセンター つどいの場(サードプレイス)

3-2.みわ翠光園
 60名の入所施設。高齢者に特化した施設で、男性、女性、最重度の3ユニットに分かれている。
 男性ユニット、女性ユニットの半数は、建物内の日中活動室へ移動し作業するが、女性ユニットの半数と、最重度の方は、食堂・リビングで日中を過ごす。
 男性ユニットの食堂は閉鎖タイプだが、最重度ユニットと女性ユニットは、オープンなリビング・食堂となっている。
 感染対応の療養室の設定は大事だが、それと同程度に重要なのが、各ユニットの独立性である。陽性者が発生した場合、そのユニットは濃厚接触者が生活する場となり、その他のユニットと、利用者、職員、物品、廃棄物の動線完全分離が必要である。この計画でもコロナ発生後、バルコニーの設置などで、各ユニットの動線分離を可能となるよう変更した。それと共に、換気などの設備もユニットごとの完全独立タイプにした。

3-3.サポートセンター つどいの場
 コロナ対応で大きく内容が変わったのがサポートセンターのつどいの場である。関係施設からの軽度な陽性者の受け入れ先となった(図2)。
 サポートセンターは法人全体の事務部門であり、法人運営の中心的な役割を果たすところである。当初から、BCP・DCPの拠点として位置付けていた。主に事務業務を行う部門と、通常時は家族や来訪者、職員が使うつどいの場から構成されている。つどいの場は大規模災害時の避難場所となる設定だった。事務部門とつどいの場は大規模災害時でも電気、水道などの供給対応はできている。
 コロナ発生後、つどいの場の非常時対応にコロナ対応が加わった。つどいの場はカフェスペースとカウンターで喫茶のできるホワイエの2つのエリアで構成されている。カフェスペースは通常時はオープンカフェと大小2室の個室として使用するが、コロナ対応時には可動式・組み立て式のパーティションによって6室の療養室と通路に区画して使用する。この療養室、通路、廊下、隣接するトイレがレッドゾーンとなる。
 通常時はカフェスペースとホワイエを自由に行き来することができるが、コロナ対応時には2つのエリアをつなぐ前室の両端部を建具によって区画し、入り口となる前室をグリーンゾーン防護具着衣室、出口の前室をイエローゾーン防護具脱衣室、ホワイエをグリーンゾーンとして使用する。
 つどいの場を通常時とコロナ対応時で使い分けるには、間仕切りの準備とともに、空調・換気の対応が必須となる。この建物では、空調機のフィルター、換気回数、空気の流れを通常時とコロナ対応時で使い分けられるようにしている(図3、4)。

① 空調機フィルター 換気回数
 レッドゾーンの空調は、療養室となる部分および通路となる部分それぞれに各熱負荷に応じた小型の室内機を設置し、感染対応時には中性能フィルター(比色法90%以上)、プレフィルター(重量法65%以上)を設置し、室内循環風量を増加できる仕組みとしている。両フィルターとも、通常時はランニングコスト削減のため使用しない。

② 空気の流れ  通常時には、各室の空気の流れは厳密なコントロールは行わないが、コロナ対応時にはレッドゾーン、イエローゾーン、グリーンゾーンの3ゾーンでは空気の流れをコントルールできるようにしている。療養室に設置する全熱交換換気扇は給気ダクトに風量調節ダンパーを設置し、療養室は陰圧になるよう設定することができる。通常時は特にダンパーによる調整は行わない(図5)。

図5 空気の流れ

まとめ

 つどいの場を含むサポートセンターの役割は、通常時は在宅障害者を含めて、地域の障害者の活動の拠点となることである。
 コロナ感染症が施設内や地域で発生した場合、マスクを着けられない方たちでも、それぞれの住まいから出向いてもらい、作業、出会いなど日常生活の営みを少しでも継続できるようにと考えている。
 福知山学園はこのように地域の障害者の拠点となる施設が大規模災害やコロナ感染症に対しての対応拠点となり、事業の継続性(BCP)、地域の継続性(DCP)の役割を担うことが福祉事業者のこれからの大きな役割であると考えている。
 ワクチン開発が進めば、ここまで対応した施設は不要になる可能性もあるが、みわ地区バリューアップ計画の実現に当たり、障害者の生活を継続的に支えるためにできることは行いたいという福知山学園の強い思いでこの計画は実現していく(図6、7)。