作品紹介Works

高齢者

(仮称)グループホームしぎのさと恩智

西側 外環状線からの外観

初期検討案

概要

大阪府八尾市でのグループホーム新築計画です。用途はグループホーム2ユニット(9人ずつ)と地域包括支援センターです。敷地は西側で外環状線に面しており、周辺は近年になって開発が進んでいる地域です。外環状線沿いから少し外れると比較的穏やかな住宅地で、まだ田畑が点在しています。八尾市は東側で生駒山地に面しており、市内のどこからでも山並みが目に入ります。山のふもとに神社仏閣が並んでいることから、この地域にとって生駒山地が重要な存在であることが伺えます。今回の敷地からもちょうど東側に高安山が見えます。建築計画を検討する上で、この、東西方向で異なる敷地の二面性が重要になりました。

事業主の法人は、今回の計画とは別に特養とグループホームをすでに運営されています。そのため、まず既存グループホームで宿泊調査を行い、入居者の状況、室内空間の使われ方、一日の流れ を確認しました。調査で判明した既存建物の良い点や改善したい点を元にして、今回の計画の検討を進めました。既存グループホームの入居者は認知症を患っていますが、要介護度は1~5でばらけており、元気に動いてスタッフの手伝いをする方も、そうでない方もおられました。本計画では基本的には同様の利用者像としながら、より身体的に重度の方が増えてくるという想定のもとに検討を進めました。

計画のテーマ

敷地の中で3つのボリューム(グループホームユニット×2+地域包括支援センター)をどう配置すればよいかを議論する中で、今回の施設建設で実現したいテーマが何かを明らかにしていきました。

○脱施設感:周辺の施設は施設感の強い建物が多いので、住宅やカフェのような落ち着いたきれいな外観・内観とする。
○地域貢献:地域包括支援センターが圏域の中心に移って動きやすくなるため、それに合わせてセンターも機能面を充実させる。
○アピール:山に近い法人拠点から外環状線に事業所を出すため、地域貢献の活動をしている法人であることを周辺にアピールするものとする。
○高齢者施設として:住宅に近い環境を作ることを目的とするグループホームのため、入居者を可能な限り束縛せず、自由に動ける環境を作り尊厳を保つ。
○全体として:ひとつの家族という考えのもとに運営する。

全体構成



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フロア構成

面積を最小限にする合理的なフロア構成では上記テーマに沿えない部分が多々あり、少し面積が大きくなってもテーマに沿える形となるよう検討を進め、最終的に下記方針に基づいて全体構成を図のように決定しました。法人理事長が造園業をされており、植栽を活かして魅力的な建築を作ることも重要なポイントになりました。

○地域包括支援センター:
・地域住民がアクセスしやすいよう1階に配置。
・1階でグループホーム入居者の外部徘徊の予防線とする。
○グループホーム:
・隣地に建物が建っても採光がとれるよう上階に上げる。
・上階に上げて東側の高安山の眺望を活かす。
○庭園:
・外観と内観の両方に活かすため2階3階西側に屋上庭園を配置。
・外構でも東側に庭園を作り地域包括の入口を演出。
・南側に植栽帯を作り、東西をつなぐ通路を作る。
○ピロティ:
・1階にピロティを作り今後の運用に余裕を残す。

各階プランニング

下記の意図により各階のプランを計画しました。

○1階:地域包括支援センター
・事務室:出退管理のためエントランスに配置。
・動線:東西両方向からのアプローチを考えた動線計画。
○2階3階:グループホームユニット
・全体:スタッフは日中はキッチン周辺にいることが多いため、キッチン・ダイニングから全体が見通せるプランとする。入居者が居室から通路に出ればすぐにスタッフの目に入る。EVと階段をキッチンの近くに配置し出入りがわかりやすいようにする。
・ダイニング:道路に面していて採光が良い西側に配置。日中は入居者の多くはダイニングにいるため、全体の中でも環境の良い場所に配置する。
・居室:採光上有利な南向きの居室が多くなるように配置する。
・事務室:事務室は昼間にスタッフがいることは少なく、主に夜間の見守りの時に使うため、居室の状況を感じとりやすいように居室群の中央に配置する。
・浴室:入浴前後のプライバシーや喧騒に配慮し、ダイニングから距離を取って東側に浴室と洗濯室を配置する。また、入浴後に一息つけるように湯上りスペースを設ける。

外観と内観に活かす西側屋上庭園

2階ダイニング 屋上庭園に面する

東側階段 上がって正面が地域交流スペース

地域交流スペース 庭園と緑道に面する

廊下の突き当りに植栽や風景が見える構成

居室

家具レイアウト検証

キッチンでの調理の流れ

居室の工夫

既存グループホームの居室の使われ方を調査したところ、入居者によっては机と椅子を置いたり、絨毯と座椅子を置いたりと、多様なアクティビティがあることがわかりました。そのため、グループホームの居室は法的には7.43㎡が基準ですが、9.30㎡とひとまわり大きくし、極力多様な家具配置ができる部屋の大きさとしました。使い慣れた家具や家族の写真を持ち込み、毎日それを身近に感じられることは、入居者にとって重要なことだと考えています。また、家族による持ち込み物品の量が多いため、造り付けで容量が大きい収納棚を設置しました。
グループホームではトイレを共用トイレのみとする場合が多いのですが、今回は個人のトイレがあることの重要性を鑑み、各居室に設けています。収納一体型の住宅用トイレを採用しており、便座の後ろの棚に掃除道具やトイレットペーパーを収めることができます。

食事を自分たちで作るキッチン

既存グループホームでは、食事の配達サービス等を受けておらず、スタッフが自分たちで食材の買い出し・調理を行っています。調理能力の高いスタッフが軽度階におり、軽度階のキッチンで全二十数人分の料理を作ります。昼食前・夕食前の時間は、入居者も食材の下拵えや配膳準備を手伝い、大盛り上がりで調理が行われます。
今回も同様の形式を想定しており、軽度階である3階のキッチンを充実させました。冷蔵庫・食材置場を広く取り、3口コンロと大きいシンクを持つシステムキッチンを設置しています。厨房と言うほどは大きくない空間で大きい量の調理を行うため、キッチンとダイニングを横断して順序良く作業が出来るレイアウトを考えました。

2階西側屋上庭園

住宅用ユニットバス、チェアイン機械浴

スタッフから「施設感が強いものは避けたい」という要望があり、高齢者施設で採用が多い施設用ユニットバスを今回は採用せず、各メーカー(TOTO、LIXIL、パナソニック、クリナップ、積水ホームテクノ)の住宅用ユニットバスの中で高齢者向けの機能が備わっている製品を探しました。最終的に、下記項目のバランスが良いクリナップのアクリアバスを採用しました。①浴槽のまたぎ高さが低い ②浴槽底と洗い場床の高さの段差が小さい ③洗い場から浴槽まで連続した手摺がある ④入口が広く取れる ⑤浴槽内に座面が設けられ、姿勢保持や段階的な入浴が可能 
重度階は今後は介助の労力が増えていくだろうと考え、チェアインの機械浴で動作がスムーズなもの、またADL入浴が可能なものとして、メトスの個粋プラスを採用しました。
階を大きく軽度階・重度階と分けていますが、そのように明快に入居者を分けられるものではないため、入居者の状態に合わせて各階の浴室を使いわける想定です。

屋上庭園

入居者は重度化に伴って外出が難しくなっていきます。屋上庭園はそういった方々でも屋外の雰囲気を感じられる場所です。多用途に使えるような広さはありませんが、少しの歩ける道、家族と話せる場所を設け、良い時間を過ごせる庭園にしたいと考えています。


3階東側 談話スペース



生駒山地の眺望

認知症を抱えている入居者の不安を和らげるには、入居者がこれまでの人生で見慣れたものが目に入ることが重要ではないかと考え、東側に生駒山地が見える談話スペースを設けました。計画段階で周辺建物や山脈の実際の大きさを3DCGで入力し、窓から問題なく風景が見えるかを確認しました。敷地の東側は住居地域となっているため、高い建物が建つ可能性が低い地域です。
単に「談話スペース」という目的のない場所としてしまうと、運用開始後に使われなくなる可能性があるため、浴室の隣に配置して湯上りスペースとしました。スタッフの打合せや、家族との相談場所としても使う想定です。また、ダイニングから死角になる場所のため、入居者の状況によって運用上危ないと判断した場合は扉で仕切れるようにしています。

ダイニングでの看取り

施設で看取りを行う場合は一般的には居室を使いますが、既存グループホームではダイニングで看取りを行っています。これは以下の理由によるものです。①最期の時間を居室で寂しく過ごすのではなく、キッチンやリビングのそばで生活の音やにおいを感じながら過ごしてもらいたいため。それはスタッフの思いというだけでなく、これまでに家族様からいただいた要望でもある。 ②キッチン周辺にスタッフがいることが多いため、キッチンの近くで看取りをしていれば見守りがしやすいため。 ③高安福祉会はグループホーム全体をひとつの家族と捉えており、看取りは他の入居者から遠ざけるものではないと考えているため。 
今回も同様の方式で看取りを行うため、建築的には左図のような工夫をしました。ダイニングの空間の一部を凹ませてリビングとしており、ダイニングとリビングの間に大きい引き戸の建具を設置しています。この建具を仕切れば、リビング部分が ①看取りスペース ②体調が悪くなった人の経過を見守るスペース になります。引き戸の開き具合を変えれば、ダイニングとの一体感も操作できます。ソファベッドを置き、家族が宿泊できる大きさを確保しています。看取りスペースは南側と屋上庭園に面した条件の良い一角にあります。できるかぎりのことをしてあげたいという家族の気持ちにこたえられるよう、一番良い場所に配置しました。

記事作成:亀田学

建築主
社会福祉法人高安福祉会
所在地
大阪府八尾市
用途
認知症グループホーム 9人×2ユニット
地域包括支援センター
構造
鉄筋コンクリート造
階数
地上3階建
敷地面積
864.22㎡
建築面積
449.93㎡
延床面積
999.01㎡
竣工年月
2020年8月予定
担当者
相本正浩 , 玉井英登 , 亀田学