作品紹介Works

高齢者

宇治明星園養護老人ホーム 改築工事

建築計画について

(1)計画概要
 
宇治明星園養護老人ホームは昭和50年に開設されました。「地域に根ざした 地域に開かれた 地域住民に支えられた施設づくり」を基に施設運営がなされてきました。
 
元々の養護老人ホームは2人部屋と4人部屋の居室でした。建設当時入居されていた方は、明治、大正生まれの方でしたが、昭和生まれの方が主となった今、カーテンだけの仕切りではプライバシーが保てず、生活歴や暮らし方も全く違う方々がひとつ屋根の下で暮らすことは非常にストレスとなり、対人関係を悪化させるもとになりました。
 
このため、プライバシーの守れる、人権の守れる「個室化」を行い、合わせて建物の老朽化のため建て替え工事を行うこととなりました。
 
工事は入居者が居ながらの3期にまたがる工事となり、工事期間は2年となりました。

(2)施設及び入居者像
 
養護老人ホームは、原則65歳上の方で環境上の理由及び経済的理由により自宅で生活する事が困難な高齢者が入所する措置施設です。日常生活全般(掃除・洗濯・入浴・服薬等)出来ることはご自分でしていただきながら、できないことはお手伝いし、自立した生活が続けられるよう支援します。
 
宇治明星園養護老人ホームの入所定員は50名、短期入所は3名です。入居者の特色は、いろいろな方が居ると言う事です。自立者、要介護者、認知症の方、精神疾患の方、虐待を受けていた方、ホームレスの方など様々な方が同じ場所で暮らすこととなります。現在精神疾患を持っておられる入居者は、重複している人もますが13人が基礎疾患認定、14人が認知症認定となっています。

(3)個室化と入居者間のコミュニケーション
 
個室化によりプライバシーが守られ、人権が守られます。相部屋で起こる多くの入居者間の問題を解決することが出来ます。例えば、生活リズムが異なる相部屋の人の深夜のテレビの音や電気の明かり、いびきや寝言がうるさいなどの問題が解決します。
 
一方、相部屋であったから良かったこともあります。例えば、相部屋の方が病気の時に手を貸してくれたり、寂しい時に話し相手になってくれることもあります。個室化により入居者が居室にひきこもり、入居者間のコミュニケーションが減る事も懸念されます。
 
このように個室化は、入居者間のコミュニケーションのあり方と密接に関わっています。本計画では、個室化をしながら入居者間でコミュニケーションし易いように配慮して計画しました。例えば、食堂は居間であり食事以外の時でも自由に出入出来るように扉を無くした計画としています。廊下には椅子やテーブルを設け入居者同士が座って話せるふれあいコーナーと言う小さなスペースを設けている。入居者には、夜間は各フロア内で過ごしてもらいますが、日中は1階と2階を自由に行き来出来るように計画しました。

プランについて

(1)1階 食堂、地域交流室、集会室
 
食堂は上記の通り居間であり食事以外の時でも自由に出入出来るように扉を無くした計画としています。地域交流室は地域の方が利用しやすいように1階に配置しました。食堂、地域交流室、集会室の間仕切りは可動間仕切りとし、その時々の入居者に合わせて変化させることが出来るようにしています。今は普段、集会室の可動間仕切りで区切り、食堂と地域交流室は一体的に使われています。食堂と一体的に利用されている地域交流室には、居間のようにテレビとソファが置かれています。

(2)2階 食堂、地域包括ケア連携相談室
 
地域包括ケア連携相談室は3方の建具を開放することにより食堂及び周辺の廊下と一体的に使えるようにしています。雰囲気としては、食堂と地域包括ケア連携相談室は一体的に利用されながらも、間にある吹き抜けのおかげで空間が分節され家庭的な雰囲気になっています。

1階 食堂・地域交流室 奥の集会室は可動間仕切りにより区切られて利用

2階 食堂

(3)居室
 
居室の中の床は、転倒のリスクを考え二重床にしています。京都府の転倒安心・安全整備の補助金を利用しています。
 
居室には洗面と収納を設けています。居室内洗面は現状職員が使うことの方が多いですが、元気な入居者は居室内の洗面を利用されています。洗面台上部には収納量を増やすために吊り戸棚を設けています。
 
居室の扉には鍵を付けています。昼間鍵を掛ける人は少ないのですが、女性は特に夜間男性が入ってくるのを怖がる人もいるので、安心のため鍵を付けました。
 
2階の居室の窓には転落防止のため窓の額縁に手すりを設けています。

(4)玄関
 
玄関にはテンキーが設けられていますが、入居者の出入りは基本的に自由で朝9時から晩9まで自由に外出することが出来ます。晩9時以降は玄関が施錠されます。認知症の入居者については、ひとりで外出しないようにスタッフが対応します。
 
玄関入って左側には、飾り棚と下部に車椅子置場があります。飾り棚には竣工をお祝いしたときのダルマが飾られています。その奥に感染症対策のために洗面台を設けています。玄関入って右側には、大きな窓が設けられ玄関を明るく演出します。その奥に飾り棚が設けられており、創始者の銅像が飾られています。玄関奥に養護に行くための出入り口があり、その横に事務室が設けられています。

居室 洗面と上部に吊戸棚を設置

玄関

(5)バルコニー及び外部
 
1・2階の食堂、地域交流室、集会室など入居者が集まる場所は、良好な景観が楽しめる建物南側に配置しました。1階の食堂、地域交流室、集会室の外部には、インターロッキングを敷設し入居者が安全に外に出ることが出来るようにしました。2階の食堂前のバルコニーは、プランターやテーブルを置くことが出来るように防水の上に長尺シートを敷設し仕上げています。

2階バルコニー 長尺シートを敷設

(6)ふれあいコーナー
 
長い廊下のところどころに椅子を設けて入居者が移動途中で休憩出来るようにし、時には入居者同士で話が出来るようにしています。廊下を一部拡張して椅子やテーブルを置き、入居者同士が座って話せるようにふれあいコーナーを設けました。

1階ふれあいコーナー 椅子とテーブルが置かれている

2階ふれあいコーナー 入居者が椅子で休憩中

(7)トイレ
 
入居者50名の内、手押し車を利用している方が20名おられます。その内、便所に行く際手押し車ごと個室に入る方が4名、便所の外に手押し車を置いて入る方が5名おられます。このため、トイレのレイアウトは手押し車の利用を想定し検討しました。

以下、手押し車以外にトイレで配慮した事は下記の内容となります。
 ・
比較的元気な入居者が多いため多少歩行距離が長くても問題ないと判断しトイレは一定の場所に集中配置した。
 ・
前室を設けて夜間でも常にトイレを明るくして迷わないようにした。
 ・
男性用と女性用のトイレははっきりと分かるように区別してレイアウトした。
 ・
2人介護を考慮した広い車いすトイレも用意した。
 ・
立って排尿することに固執する入居者がいるので各男子便所毎に小便器を設けた。

2階中央トイレ前室 男女分けされたトイレの前室

1階西側トイレ前室 手前は男子トイレ、奥は女子トイレに分かれている

(8)浴室
 
元々の建物の時に個浴に入る方が多かったため2階の大浴室に個浴を設置しました。大浴室を入居者が出来るだけ自力で移動できるように周囲に手摺りを設けています。1階の浴室には3方介助の出来るユニットバスを設置しました。脱衣室には直接出入りすることが出来るトイレを設置し、急に催した場合にも対応出来るようにしました。

2階浴室

1階浴室

建築主
社会福祉法人 宇治明星園
所在地
京都府宇治市莵道岡谷
用途
養護老人ホーム
構造
鉄骨造
階数
地上2階
敷地面積
9,432.97㎡
延床面積
2,028.25㎡
竣工年月
平成29年2月末
担当者
竹之内啓孝