作品紹介Works

病院

新須磨病院

地域と共にありつづける病院

新須磨病院は昭和35年に開設以来、地域中核病院として地域住民の健康管理の役割を担いつつ、ガンマナイフをはじめ多くの最先端の医療機器を備えた急性期の病院でもある。昭和49年に建設された建物は、平成7年の阪神淡路大震災で設備系統に被害を受けながらも幸い構造躯体は損傷をまぬがれ、休むことなく医療を継続した。しかしながら建物の老朽化狭隘化は現実問題として存在し、最善の医療の提供とニーズに応え続けてゆくために、築50年を経て移転新築することとなった。建設地は元の病院から徒歩3分の病院駐車場と隣接地を合わせた約1400坪の敷地である。旧病院から近く、また駅前の商店街に面することとなり、地元に密着した病院としてうってつけの立地である。

敷地を最大限に活用

17の診療科をもつ病院にとって、1400坪はけして十分な広さであるとは言い難く、しかも住居系の用途地域であることから高層化は望めない。加えて7つの道路に面するというアクセスにとっては好都合だが道路斜線の規制がそれだけかかるという悪条件のなか、いかにして多岐にわたる病院機能を納めるかが必須の課題であった。高さの問題は階高をぎりぎりまで抑えつつ、天空率の活用により1フロアの面積をとれるだけ確保し、容積率においてはバリアフリー法の認定基準に適合させることと法改正(受水槽・エレベーターの容積除外)によって床面積の割増ができた。地下外壁は山留と一体化する工法(ATOMIK合成壁@新井組)を採用し、外壁厚さを通常よりも薄く、かつ山留めいっぱいの施工が可能となった。

西と東で機能を整理

敷地が東西に長く高層でないことから、まず機能を大まかに東西2つに分けた。そして結びつきの強い部門を上下に配し、水平動線の省略とエレベーターの性格付けを明確にした。患者の移動距離短縮と救急・放射線・手術・入院といった緊急動線の効率的なつながりを優先課題とした。その際、スタッフの移動距離は目をつむってもらったところもある。

配置図

フロア構成

西館と東館をつなぐ中央部分は用途・気持ちの切替えといった役割も担う。敷地にゆとりのない今計画において工事中に確保できた北側空地の庭は上記の役割を請け負う上で効果的であった。その際バルコニーを鉄筋コンクリートから鉄骨に変更し将来的な北側への拡張に対応している。
 防災・避難計画では、病室前に屋外階段に通じるバルコニーをまわし、東西中央部分で防火区画を行いフロアごとに一時避難安全区域を設けた。また避難行動に移るまでに時間がかかる手術部はエリアごと他と区画し、単独で屋外への避難経路を確保している。

病棟 急性期と療養環境

3つの病棟はいずれも中央にスタッフステーションがあり、両サイドに病室が並ぶダブルコリドー形式である。この形態の場合自分がどちら側の廊下にいるのかがわかりづらい。そこで病室入口のサインに西館病棟では南北、東館病棟では東西にシンボルマークをあたえることとした。神戸市では北が「山側」南が「海側」という既製の概念があり西館病棟において採用した。東館病棟は兵庫のアイコンである「神戸ポートタワー」と「明石海峡大橋」で表現した。
 ベッド周りには非常用コンセントと酸素・吸引設備を備え急性期の病室スペックとしている。照明はベッドごとに制御が可能で、隣のベッドとの間には欄間にすりガラスの入ったちょうど良い長さの袖壁を設けて、小さいながらもプライベートな空間を整えた。間仕切りのカーテンは素朴な風合いのグリーンとした。賛否両論はあるが急性期の病院であるがこそ「装う」ことも必要ではないかと考えた上での試みである。医ガスユニットやコンセント、ナースコールが患者にぶつからないこと、ベッド脇でもスタッフが作業しやすいこと、スタッフに感染対策が徹底できることなどクリアすべき条件は、モックアップを作成し医療スタッフと共に検討を行い決定した。吸引瓶を隠すためにアウトレットを家具の中に入れる予定であったが、チューブの取り回しや、瓶の脱着など行為に支障がある部分が指摘され、家具に取付ながらも箱の中に入ってしまわないような形とした。吸引瓶は中身が見えにくいカバー付タイプを採用することとなった。
 4床室の大きさは6.1m×5.5mである。ベッド間隔を広く確保するため、手洗い設備は外壁側に配置されている。周囲にはPPEグッズ(マスク・手袋・エプロン)が整然と取付けられ感染対策の徹底を促す。 また今回新たにコミュニケーションツールとして「医療看護支援ピクトグラム」を採用した。

4床室

3階特室

外来待合

外来待合

この場所のデザイン

極限まで階高を抑えた計画であるため天井高さはおのずと低くなってしまう。総合待合ホールにおいても同様で、天井高さ2.4m~2.6mと通常ではなかなか設定しないスケールであり、どのようにして居心地の良い空間をつくるか苦慮したところである。手法としては淡い色合いの上質なタイルを広い面積で採用し、全体的に色のトーンを抑え、間接照明を効果的に使いノーブルな雰囲気とした。また視線の先には前庭と外光が垣間見え、訪れた人に奥行を感じてもらうことを狙っている。

この地域で50年以上あり続けた新須磨病院は2度の増築を行っているが、外壁は全てレンガタイルで覆われている。遠くからでもそのタイルを見ると新須磨病院であるとわかるほどである。新病院の外観を決めるにあたりこれまでのスタイルから一転させる提案を行ってきたが、慣れ親しんだ既存のテクスチュアに愛着を抱いている職員も数多く、ぎりぎりまで2つのイメージを平行に抱きながら工事を進めた。職員の多数決では異例の同点となり、最終的には院長が駅から敷地までをゆっくりと歩かれて、この場所にふさわしい建築はどんなものかという視点から結論をだされた。山から海へ抜けてゆく透明な風景に溶け込み、地域にとって普遍的な存在でありつづける病院が完成した。

リハビリテーション

外来待合

救急処置室

ガンマナイフ治療室

手術室

高気圧酸素治療室

建築主
医療法人社団 慈恵会
所在地
兵庫県神戸市須磨区
用途
病院
想定外来患者数:700人 / 日
診療科目:全17科
病床数:147床 (HCU:8床、SCU:6床)
構造
鉄筋コンクリート造
階数
地下1階・地上5階
敷地面積
4,688.26㎡
建築面積
2,825.68㎡
延床面積
10,569.21㎡
竣工年月
平成27年7月
担当者
河井美希 , 亀田学