作品紹介Works

高齢者

社会福祉法人熊谷福祉会 35周年記念棟(高齢者複合福祉施設)

 (特別養護老人ホームはなぶさ苑の建替え・増床他)建築工事

全景(鳥瞰図)

計画概要

 埼玉県熊谷市で地域に根ざした保健と福祉・介護の高齢者総合サービスを提供されてきた熊谷福祉会の特別養護老人ホーム「はなぶさ苑」は、平成元(1989)年に定員50人で開設されました。これまでも多機能な総合サービスで在宅生活から入所生活まで、幅広く利用者を支えてこられました。

 築33年を迎え建物の更新をするにあたり、新たなサービスとして、サービス付き高齢者向け住宅を合築し、特別養護老人ホーム80床に増床することになりました。

 1階は通所介護(デイサービス)、在宅介護支援事業所、厨房、管理諸室、2階はサービス付き高齢者向け住宅40室、3階は全室個室の従来型特別養護老人ホーム40床、4階はユニット型特別養護老人ホーム40床の計画となっています。

増築棟(外観イメージ)

■ 感染症発症時の動線分離と対策

2019年(令和元年)12月初旬に中国で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が著しい勢いで、日本中を蔓延する中、令和2年に補助協議を開始するために計画の検討を開始しました。  感染が続き、家族との面会や外部との接触が制限される生活が続いたため、新しい施設では感染時の家族との対面方法や動線計画に配慮したいという思いが強くありました。  

縦動線(EV・階段)を分散配置

そこで縦動線を分散する提案を行いました。2台のエレベーターを東西に、屋内階段を中央に配置し、感染時の利用者、スタッフの上下移動に考慮しました。今後のニーズ、入居者の生活を優先し、全室個室ですべての部屋が外周に面する配置としたいとの要望がありました。施設基準や消防指導ではバルコニーの設置は必要ありませんでしたが、コロナウイルスに限らず感染症が発生した際のスタッフの動線や家族の面会等を考慮し、バルコニーを設置しました。 さらにエレベーターの出入りを二方向可能とし、施設内に入らず、バルコニー側へ直接出ることを可能としました。 入居者に感染者が発生した場合もバルコニーから各部屋へのアプローチが可能となります。また利用者家族もバルコニーからの面会が可能になります。また施設内でノロ等の感染が発生した場合は、感染源(吐瀉物等)をバルコニー側から回収し外部搬出することで感染拡大を防ぐことも可能となります。  サ高住、特養の居室は前室外部に直接面しており、できる限り北向きの部屋をなくす配置としています。吹抜けも広く設けたことで、暗くなりがちな内向きの食堂や廊下も明るく気持ちの良い場所となっています。吹抜けに面した廊下はできる限り開放可能な計画とし、食堂・談話スペースから見渡せるように計画しました。

4階ユニット特養 中央部分

■ LPG非常用発電システムを導入し、災害時避難所として整備

 近年、自然災害による長時間停電や電力供給不足による計画停電の可能性が高まっているため、災害時に入居者、利用者、周辺住民の災害避難場所として継続稼働ができるようにLPG非常用発電設備を導入しました。電源確保だけでなく各フロアの共用部の空調設備の一部を稼動できるようにガス空調設備を併設し、夏季や冬季にも温度管理が可能となっています。BCP(事業継続計画)にも配慮した設備計画を行なっています。

災害時の食事提供も可能に

 厨房も災害時に法人関連施設や周辺地域の方への食事提供が可能なようにゆとりのある計画となっています。この施設の入居者や利用者だけでなく敷地内にある関連施設や周辺住民のかたへの最低限の食事提供ができるように厨房を稼動できるシステムを計画しました。  

はなぶさ温泉デイサービス

【1階:デイサービス】

 デイサービスは、約800㎡ある大空間ですが中央部分に大きなトップライトを設け、部分的に鉄骨の梁を採用することで柱をなくし、明るく広々とした空間を実現しています。大浴場と座位浴、介護個浴を設け、利用者の身体状況による入浴サービスが選択可能としています。食事提供以外にもくつろげる場所として喫茶スペースを設けています。

1階平面図

【2階:サービス付き高齢者向け住宅】
今後のニーズに合わせ、サ高住居室は25㎡で整備

 2階のサービス付き高齢者向け住宅「レジデンスはなぶさ苑」は、団塊世代のニーズに合わせ各居室面積は約25㎡となっており、標準的なサ高住よりも広い居住空間となっています。居室内は便所と洗面の配置とし、居室間口も3.1Mとなっているので、家具やベッドの配置も比較的自由になります。入居者は比較的元気な方を予定し、浴室は1階のデイサービスを利用してもらうことを想定し、個浴2カ所としています。食堂は2カ所に分散して計画しました。家具等の配置が入居者にあわせてフレキシブルに配置できるよう整形とし、テーブルもゆったり配置できるよう広めの計画としています。

2階平面図

【3階:従来型特別養護老人ホーム】
利用者ニーズに対応し、全室個室従来型特養を整備

 3階は全室個室の従来型特養となっています。個室化ニーズは高くなると判断されていますが、ユニット型になると入居者の利用料負担が大きくなるため、居住環境は考慮しながらも従来型での整備を選択されました。居室面積も現基準よりも広めの計画とし、ベッド配置も入居者の介護状態に合わせて自由になるよう幅3.1Mを確保しています。トイレは分散させ外部に直接面した配置とし窓を設け換気が容易にできる計画としています。  浴室は中央に配置し、座位浴とリフトの設置が可能な個浴を設けています。スタッフの入浴介助に配慮し脱衣室は集約し必要に応じカーテンで仕切る計画としています。

3階平面図

【4階:ユニット型特別養護老人ホーム】
4ユニット1チーム:介護スタッフの夜勤2人体制を可能に

階はユニット型特養(10人ユニット×4ユニット)となっています。ユニット毎のスタッフ配置となりますが、浴室は中央に配置し各ユニット間での入浴介助時の連携が可能としました。通常は1ユニットに1浴槽となりますが、中央に配置しフロアで共有することで3台での運用が可能となっています。連結タイプの個浴と座位浴を配置しています。  隣り合ったユニットでの交流を可能とするためにユニットの間にセミパブリックスペースを設けています。夜間はこのスペースを介して二つのユニットの行き来が容易になっています。このフロアも共用トイレは外部に面する配置とし、状況に応じ窓を開けることが可能な計画としています。

4階平面図

デイサービス大浴場

はなぶさ温泉デイサービスの大浴場は、敷地内から汲み上げられる温泉を利用した浴室です。シャワーキャリーでの利用もできるようにスロープが設けられています。
これまでタイル張りの浴室を採用されていましたが、今回の浴室では床に利用者にも優しい「浴室用長尺シート」を採用しました。また腰は石調タイルを採用し上部には木調パネルを採用しています。
壁には富士山の風景写真をはめ込んでいます。桜と富士山の構図が多いですが、埼玉県には海がないので海と富士山の構図が採用されました。

1階デイ:運動コーナー(レッドコード)

1階デイ:cafe茶苑

2階 レジデンスはなぶさ苑

2階サ高住の居室は、約25㎡あり部屋の中には洗面台とトイレが配置されています。室内の温度管理(省エネ)に配慮しロスナイ換気扇を設けています。トイレは介助が必要になった時でも介助がしやすいように扉が全開できるようになっています。扉の引き込み部分に収納棚を設け、スペースを有効に利用する工夫を行っています。

レジデンスはなぶさ苑(サ高住)居室

サ高住:居室トイレ 扉閉鎖時

サ高住:居室トイレ 扉全開時

居住階:食堂・談話スペース

居住階の食堂・談話スペースは、入居者の変化や介助者の運用にあわせてフレキシブルに利用できるよう基準よりもかなり広く計画しています。 各フロアともにキッチンスペースから食堂スペース、居室の状況が見渡せる配置となっています。
各フロアともに中央バックヤードにはスタッフゾーンと浴室が配置されています。スタッフゾーンには医務室、スタッフ休憩室、仮眠室を設けています。

2階:レジデンスはなぶさ苑 食堂・談話

3階 従来型特養 食堂・談話

4階 ユニット型特養 食堂・談話

建築主
社会福祉法人熊谷福祉会
所在地
埼玉県熊谷市
用途
1階:デイサービス・在宅介護支援事業所
   厨房・管理諸室
2階:サービス付き高齢者向け住宅(40人)
3階:従来型特別養護老人ホーム40床(全室個室)
4階:ユニット型特別養護老人ホーム40床(10人×4ユニット)
構造
鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造
階数
地上4階建て
敷地面積
24,787.38㎡(全体面積)
建築面積
2,763.01㎡(増築部分)
延床面積
8,155.32㎡(増築部分)
竣工年月
2026年2月末
担当者
相本正浩