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障害者

社会福祉法人聖家族会 みさかえの園 めぐみの家 増築改修計画

 木内俊克(元社員) 

増築部 正面写真

施設で暮らし働く全ての皆さまが明るく広々と過ごせるデイルームにより、移動の負担を軽減する

聖家族会みさかえの園めぐみの家の増築改修計画です。
施設の定員は57名、かつては児童中心だった施設も、徐々に利用者の方々が高齢化され、単身や手引き支援で移動できる方が半数以上いらっしゃる一方、下肢機能に身体的にも障害があり常時車椅子を利用されている方、転倒や発作等への個別対応が必要な方もそれぞれ10名以上に至っていたのが現状でした。
こうした状況で、利用者の方々にとって移動が大きな負担になってきていた一方、建築の配置計画としては、日中活動の合間で待機する場所は計画されておらず、活動が終わる度に利用者の方それぞれの居室まで戻るように施設が運営されていたことが課題となっていました。また移動に際しての付き添いを必要とされる方が増えるほど、支援員の方々の移動距離も増加し続けている状況がありました。
そこで、これらの課題を解消する為、

1.日中活動を行う諸室をまとめて、ひとつのエリア内に集約すること
2.そして活動や合間で待機する日中のあいだいつでも、日中活動の諸室に隣接した場所で、利用者の方々全員が快適に過ごすことができる、デイルームを新設すること
3.そして、朝食から夕飯までは、食堂を含む日中活動諸室で食事・洗面・歯磨き・入浴・リハビリ・創作などされては、その合間をデイルームで過ごし、朝夕夜のみ利用者の方々各自の居室で過ごす暮らしに変えていくこと

が、目標として設定されました。
予算的にも大規模な増改築はできない中、最小限の増改築で上記1~3の目標を達成し、効率的に移動経路を削減できるプランニングを提案しました。

  
《 日中活動室の集約 》
平面図を見ると、改修前には発生していた長い距離の往復が、朝夕の移動を除き、増築改修後には大幅に軽減していることがわかる。移動の付き添い支援は何往復も行うものであり、支援員の方々にとっての動線の効率化は、往復回数分で倍々になった移動距離の軽減に寄与する。利用者の方々にとっては、長距離移動で発生していた、支援の順番待ちも軽減される。

俯瞰写真

増築改修範囲

規模

採用されたプランでは、以下の工事を行っています。

既存棟2605.31㎡の延床面積に対し、
 
● デイルームと日中活動室を集約した382.87㎡の増築[増築➀]
●手狭になり古くなっていた室の新設と、移動の中継点となる
 スペースの新設を目的とした148.43㎡の増築[増築➁]
●デイルームに近づけた新食堂やトイレ機能の補充、待合機能
 の拡充など、既存施設内の必要な箇所のみ機能向上を図る、
   必要最低限の改修
 
の三点により、求められた日中活動の集約を効率的・経済的に実現
しています。
既存棟を使いながら増築を行い、工事中の機能停止や工事の為だけ
の引越しを最小限におさえるよう、暮らしながら進められる増築改
修計画としました。

デイルーム4

デイルームロビー

まちの広場のような、新しい日中の居場所をつくる

今回増築されたデイルームは、日中活動の拠点として、日中のあいだいつでも、利用者の方々全員が集う場所です。
朝夕個々の時間を過ごされる居室とは対比的に、ハレとケでいえばハレの場であり、にぎやかさ、広さ、明るさがある街の広場のような居場所としたいという要望をいただいておりました。
特に数名いらっしゃる、バスハイクや散歩などの屋外活動ができない入居者の方々にとっては、屋外をより近くに感じられる室内環境は貴重です。

部屋全体が明るく、屋外とも連続した一つの大空間に感じられるように、一般の居室と比べれば高めに設定した3.5mの天井高を確保しつつ、ポリカーボネートで透明性と耐衝撃時の安全性を確保した間仕切りを採用、欄間部分は、天井が視覚的に連続して感じられるよう、すべての箇所で透明な間仕切りを採用しています。
外壁沿いの窓は、車椅子の視線からも屋外を見通しやすいよう床上70cmから、1.8m高さの引き違い窓をつけ、さらに天井までとどくよう、その上部に1m高さの排煙窓かFix窓をつける大開口を採用しています。また、室内にいても空を見上げられる透明で大きな天窓を設置するなど、広さと明るさを担保する工夫が随所に施されています。

特性の異なる方々が共に過ごすデイルーム

利用者の方々皆さまが集う、という過ごし方の一方で、めぐみの家では利用者の方々の特性から、4つのグループに分けた支援が行われており、利用者の方それぞれの身体の特性やパーソナリティー、疾患の有無、また特定の状況や刺激によって不穏になられる方がいらっしゃるなど、必要なケアが異なる方々が、いかに同じスペースを共有して日中の時間を過ごせるのかも重要なプランニングのポイントとなりました。
まず支援の観点から、めぐみの家で行われている特性分けのポイントを整理しますと、

グループ➀:下肢機能に身体的にも障害があり、常時車椅子を利用されているなど身体的なケアが特に必要とされる方々[10名]
グループ➁:転倒や発作の危険性がある、視覚からの刺激で不穏になられる、他害の傾向がある等、個別対応が必要な方[11名]
グループ➂:単身や軽い手引き支援で移動でき、日中活動で身体を動かされることが多い方々[25名]
グループ➃:単身や軽い手引き支援で移動でき、日中活動で机に向かっての創作活動など静かな環境を必要とされる方々[10名]

というグループ分けで支援が行わています。

建築側からの対応としては、
 ● 透明性の高い間仕切り
 ● 開け放てば室全体を一体的に使えるような大きな引戸
を組み合わせ、光が透過し、視覚的には大きな一室空間に感じられながら、機能的には上記のグループに対応したエリア分けができる室構成を採用しました。

配置としては、
グループ➀は、
車椅子利用の方々が中心であるため、デイルームの中でも浴室、新食堂にもっとも隣接したエリアを割り当て、移動の短縮化の恩恵をもっとも受けやすいエリア
グループ➁は、
個別対応が必要で、移動への負担以上に、他グループからの刺激や接触を必要に応じて避けられる位置としたい方々が中心のため、浴室や新食堂側からはやや奥まった位置とし、半透明窓付きの間仕切りで区切ることができるエリア
グループ➂は、
軽い手引きのみか自立して移動をされている方々が中心のため、新食堂や浴室からは一段階だけ離れた位置で、一方、身体を動かしての散歩や運動で利用する屋外へのアクセスがしやすいエリア
グループ➃は、
軽い手引きのみか自立して移動をされ、日中活動としては机に向かっての創作活動をされる方々が中心のため、移動的には一旦建具を閉じれば通過交通がなく、落ち着いて作業に集中でき、細かな作業が主であるが細かな作業が主の為、園庭もよく見れる明るく、開放的なエリア
に配置するかたちを提案しています。

グループ分けについては支援員の方々からいただいた方針にもとづきつつ、実際に支援の様子を調査させていただき具体的な配置計画をご提案しています。
原寸大の配置計画を床にテープで再現しては、その上で支援員の方々にここは狭い、もう少し広げられないかといったチェックまでいただいた上、最終的な配置に落とし込んでいます。

移動に余裕をもたらし、生活に奥行きを与える、待合いコーナーの設置

今回の増築改修では、移動に際しての負荷の軽減が⼤きなテーマになっていますが、移動距離の削減以外にも、⽀援員1⼈に対し10⼈程度の利⽤者の⽅々を⽀援する上で必ず発⽣する、⾷事、⼊浴、トイレ、⻭みがきに際しての⽀援の順番を待つ待合での混雑をいかに回避するかも、移動の負荷を軽減する重要な要素の⼀つでした。
具体的には、朝⼣の移動に際しての待合い、⾷堂に⼊る前の待合い、⾷事後に⼀⻫にトイレに⾏く際の待合い、⻭磨きの為の待合い、⼊浴後の髪乾かしの為の待合い、それぞれに対して、適宜必要な待合いコーナーを配置し、混雑回避に対応するものとしました。
こうした待合いコーナーは、混雑時以外の時間帯においても、理由がなくても何となくそこに人がたまることができる余白として機能し、それが生活に奥行きを与えます。

施設の中で共同生活をしていると、通勤や通学の途中に駅のプラットフォームでたたずんで、ふと一人になってぼーっと過ごすような時間や場所がなくなりがちですが、施設の中にちょっとずつ余白のような空間を増やすことで、一人になりたいと感じる方がいらしたときに、少しでも集団から離れて過ごせる可能性も担保し、とは言え支援員の方の目が届きやすい配置には配慮することで、利用者の方々の過ごし方の選択肢の幅と、支援員の方の見守りやすさの両立を目指す提案となっています。

支援のポイントになる浴室の充実

日中活動の集約というテーマの中でも、もっとも支援に労力が求められる浴室をデイルームに近接して配置したことは、入浴の支援を効率的に進めて行く上で重要なポイントとなっています。
増築したデイルームからは、短い廊下を介してすぐ脱衣室1、2それぞれに入ることができ、身体の障害度合に応じた使い分けや、浴室利用を脱衣室1で集約しつつ、脱衣室2では足湯のみに利用するなどの利用時間が重なった際の支援内容に応じた使い分けが可能になっています。
またお⾵呂に⼊るルートとお⾵呂から出ていくルートを区別し、廊下での動線交錯を最⼩限にとどめる配置としています。

脱衣室2と連続した機械浴室では、仰臥位浴が可能で、ストレッチャーに対応した十分な支援スペースを確保しています。
脱衣室1からは、さらに2つの浴室への入口が設けられていて、一つの入口は大浴槽とシャワーエリアへつながっており、簡易な支援で入浴可能な方々が用います。
もう一つの入口は広い開口部で、リフトを用いて入浴する個浴と、車椅子から椅子座で入浴するユニバスが設置されたエリアへつながっています。

それぞれの特性を持った方々が、それぞれに適した浴室へ最短で移動しやすいルートを確保したプランニングです。

日々の送迎からイベントまで、施設の顔でありコミュニケーションの場となるピロティ

デイルーム正面には、散歩や、バスハイク・通院時の⼤型⾞両乗り⼊れのみならず、⾬天時にもイベントなど実施ができるような、⼤きく張り出した⼤庇により守られた半屋外でバリアフリーな「ピロティ」と呼ばれたスペースが設けられています。
ピロティは、増築改修された新しいめぐみの家の、いわば顔になる、皆さまが集まることができる場所です。開放的なデイルームと視覚的に連続し、明るく、広く、あたたかみのある共⽤空間を形成しています。
機能的にも、隅々まで一体的に使えるよう、デイルーム内から歩車路まで、段差なく、仕上げ材のみで分離したバリアフリーな床面を採用しています。
意匠的にも、そこで過ごしたくなるような、施設の顔となるしつらえを随所に施しています。
木調の軒天井によるあたたかみ、カラーコンクリートと呼ばれる色彩を追加したコンクリート舗装にショットブラスト加工をほどこして与えた表情、めぐみの家の方々と相談を重ね、法人のアイデンティティーであるキリスト教のモチーフを採用したステンドグラスなどがその要素です。

徹底的に対話の中からつくる

以上、計画のポイントをご紹介しました。設計に際して、詳細な現地調査はもちろん、お施主様が納得されるまで、施設全体のレイアウトから、お客様が気にされている箇所に関しては設置される棚のひとつひとつの寸法まで、徹底的な対話をとおした工夫をほどこしています。
そうすることで、血の通った、あたたかで暮らしに喜びや納得が育まれる環境を実現しています。

建築主
社会福祉法人聖家族会
所在地
長崎県諫早市
用途
障害者支援施設(入所)
構造
鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
階数
地上2階
敷地面積
8,205.54㎡
建築面積
3,551.74㎡
延床面積
4,157.54㎡
竣工年月
令和4年7月
担当者
河津孝治 , 川﨑優里