作品紹介Works

診療所

長濱整形外科

|5+2|感
見られることの意味 -リハビリへの意識の高まり-

人は共同体のなかで他者の視線を浴びながらコミュニケーションを図り、自己を形成している。
「自分と他人」の視線の間で生きている私たちは、「見る-見られる」という関係から逃れることはできない。
一方、共同性が希薄になるとその関係は大きく変容する。
情報通信網の発達によって見るだけの人、見られるだけの人に分化した、直接対面しないで生まれるコミュニケーションが成立しているのが実情である。
ここで、直接対面することで生まれるコミュニケーションを「まなざし」という観点で捉えたとき、人は日々の生活の中で誰かに見られる、または見守られるということが、生きていくうえで欠かせないことに気付く。
どんな時代でも誰かに見守られることがやはり大切なのである。
この計画で求めたものは、他人の視線を感じられるクリニック。人は視線を浴びることで、自分を磨こうとする意欲が高まることを私たちは経験上知っている。
これはその気持ちの高揚を治療への意欲に推し進めることを目的とした整形外科の施設である。

医師から見守られるということ 
-仲間の中心的存在-

整形外科において他者を見ることと他者から見られることについての治療上の効果は、リハビリテーションをしているとき、最も大きく現れる。
リハビリテーションスペースはリハビリテーションサロンと換言できる。
つまり、同じ目的で集まった人が意識を共有する場所であり、そのような人たちは仲間としての意識を共有する。
その仲間の中心は、言うまでもなく医師である。
この条件から、見守られているという実感を五感で感じ得ること、また治療で「こころとからだの調和(二感)」を目指すことを、クリニックの特性を分析しながら、与えられた条件を柔らかく表現する形として、透過性のある壁で覆われた診察室を持った整形外科を計画する。

見守るクリニック 
-計画案について-

テナントの中央部に診察室を配置し、待合スペースとリハビリテーションスペースとの境界を透過性のある壁とすることで、患者は医師の存在をいつでも感じることができる。 待合とリハビリを行う場所は「スペース」として一体的な空間となっており、患者同士の存在が常に身近にあると認識する。 また透過性のある壁を設置することによる、「情報と医療との整合」という根本的な問題を解決するため、軽くやわらかい物質で診察室を包み込む。 これは、私たちを守る衣服であり、温かさを持った皮膚の延長でもある。病になったとき、見守られる安心感を得たいと願う気持ちによって、このような施設環境が導き出された。

|5+2|感 
-今後の展望-

整形外科は人体の骨・関節・筋肉等の運動器系を主に診療する外科学の一分野であり、外傷を治療することで私たちの生活を支えている。からだの病はこころの病に繋がる。
こころの病は感覚器官を鈍らせる。これらの|5+2|感を満たしてくれる医療の提供をする場所として、人びとに愛される施設になることを望んでいる。

担当者
田淵幸嗣