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機械浴槽 選定のポイント

介助が必要な方の入浴には欠かせない機械浴槽ですが、現在様々な種類が出ています。各メーカーも特徴のある機種を販売しており、各メーカーのものを合わせると45種類ほどになります。
ここでは、利用者の身体状況を軸として、代表的な機種で分類表を作成しました。

この表では、

・対象者の介助がどの程度必要か
・対象者の身体状況:仰臥位・座位保持可・座位保持不可
・湯舟かシャワーか

を基準としてA~Fに分類しています。

機械浴槽分類表(PDFはこちら

一般的に、
A・Bは仰臥位浴やストレッチャー浴、
C・Dはチェアインバス、
E・Fはリフト浴(メーカーによってはADL浴や自立サポート浴)と呼ばれており、
リフト浴(E・F)は家庭の風呂に近づけることをコンセプトとしています。

表にはありませんが、Cのチェアインバスには小型のものもあり、長座位には対応していない代わりに大型のものに比べ価格が安いことが特徴です。
また、リフト機能はないが跨ぎが不要な機種などもあります。

トレンド

機械浴には、その時代によるトレンドがあります。近年の特徴としては、感染対策とコスト削減の点から、シャワータイプの採用が増えていることが挙げられます。

機械浴槽選定のポイント

機械浴槽選定の際のポイントを挙げていきます。
基本的な条件は、設置スペース・利用者の身体状況・コストの3つです。

■設置スペース

〇浴室に設置できるか

洗体スペース・機器のメンテナンススペースを含めての広さが確保できるかを確認します。
各機種の標準広さがあり、縦方向にアプローチする機種(B・C・D)は、図のように広いスペースが必要となります。
チェアインバスで貯湯タンク別置の場合は浴室の縦方向の長さを短くすることも可能です。
また、Bには、横アプローチが可能な機種もあり、その場合は仰臥位浴と同じスペースで設置が可能です。

既存施設で改修を伴わない場合は、同じ機種での入替、もしくは、スペース内で設置できるものに絞られます。

タイプ別の標準必要広さ(片側アプローチでの比較)

〇脱衣室の広さが確保できるか

脱衣室には、

①脱衣室までの移動に利用する車椅子・ストレッチャー
②着脱衣用のストレッチャーか椅子
③機械浴入浴用のストレッチャーや車椅子、もしくはシャワーキャリー

が入ることになります。
職員のスペースを含めると、脱衣室は浴室と同程度から1.5倍程度の面積が必要になります。
また、利用者の入浴時間がラップする場合は、脱衣室に2名分のスペースが必要です。
他にも、脱衣棚・手摺・手洗い・掃除用具入れ・汚物流しなど、何を設置するかも含めて検討事項が多いため、浴室よりも脱衣室をどう計画するかが重要です。

■利用者の身体状況

〇対象とする利用者が、どういった身体状況であるか

座位が取れない場合は仰臥位浴(A・B)が選択肢となります。
大型のチェアインバス(C)も、機種によっては仰臥位とほぼ同じ姿勢が取れるものもあります。
座位が取れるが座位保持ができない場合は、チルト機能があるものを選定します。
喉を気管切開している方の場合、背もたれを上げることができず、水が入ることを防ぐ必要があるため、シャワータイプを選択するか、もしくは仰臥位浴でお湯を浅くして入浴します。
仰臥位浴でストレッチャーにリクライニング機能が無い場合や、円背の方、側臥位しか取れない方の場合はバスクッションなどを利用して利用者の姿勢が安定するように対応します。
また、拘縮により足が曲げられない方の場合、長座位がとれる機種とする必要があります。

〇体の大きさに対応できる浴槽か

近年、利用者の体格が大きくなってきています。コンパクトタイプの機種の場合、利用者の体の大きさに対応できるか検討が必要です。

■コスト

〇導入時の価格

表には定価を記載していますが、実勢価格がいくらになるかの確認と、補助金・助成金が使える場合はそれを含めての検討となります。

〇運用時の光熱水費

浴槽の水量は光熱水費に直結します。
新湯式は感染対策には有効ですが湯量が多くなります。機種によっては新湯式と循環式のどちらも用意しているものがあります。
シャワータイプは水量が少なくて済むため、近年導入事例が増えています。


他に考慮が必要なものとして、入浴体制があります。

■入浴体制

〇入浴に対応できる職員の人数

仰臥位浴(A・B)は2人以上の介助を前提としていますが、利用者の身体状況により移乗以外は一人でも対応可能です。移乗を減らすため、天井リフトで浴槽にセットしたストレッチャーまで直接移乗し、洗体~入浴まで行う例もあります。
チェアインバス(C・D)・リフト浴(E・F)は介助者1人でも入浴できるため、職員が確保できない場合にも入浴可能です。

〇時間内に何人入浴する必要があるか

デイサービスなどで入浴時間と人数が決まっている場合、時間内に入浴を終わらせることができるかが重要になります。
シャワータイプ(B・D)の場合、ボディソープで洗うところまで浴槽外で行い、浴槽で洗い流しを兼ねることで、入浴時間の短縮が可能です。シャワータイプには自動洗体機能がある機種もありますが、背中などお湯がかからない部分は洗えないことと、ボディソープの使用量が多くなる点に留意が必要です。
また、湯舟タイプでは、循環式か新湯式かも入浴効率に影響します。
一方で、プライバシーを重視する場合は、同時使用をせず個浴として入浴時間を確保します。

以上より、大まかなカテゴリが絞れた後は、入浴で何を重視するかを検討します。

■何を重視するか

〇お湯に浸かった感じ(入浴感)

従来、お湯に浸かることが重視される傾向がありましたが、近年はシャワータイプの導入例が増えています。温浴効果はシャワータイプでも遜色ないというデータもあります。
シャワータイプにはミスト方式と、大き目のお湯の粒が出る方式のものとがあります。どちらの方式でも隙間から冷たい空気が入るのをゼロにはできない点も考慮必要です。

〇可能な範囲で自分の力で入浴する(身体機能の維持)

リハビリやADLの維持のため、残存機能をなるべく使うという考えから、特に特養のユニット内浴室に、対応する身体状況の範囲が広いリフト浴(E・F)が採用されることが多くあります。

〇介助の不要な方も利用するか(一人での入浴があるか)

介助者がいなくても利用できるものかどうかも機種によります。
通常の浴槽として利用する際、リフト部分が隠せることを重視することもあります。
また、エプロン昇降式以外の場合、浴槽の考え方が2つあり、床と浴槽底のレベルを揃えて水深を浅くするものと、水深を優先する代わりに堀込式とするものとに分かれます。
自力で浴槽縁を跨ぐ場合は、床と浴槽底のレベルが揃っていると安定しやすいですが、車椅子入浴の際に水深を浅く感じることがあります。

〇安心感 入浴時に利用者の顔が見える、浴槽に近づける、溺れない

仰臥位では、利用者の近くに職員が近づけることが重要視されています。
チェアタイプでは、お湯に浸かりながら顔が見えるタイプが安心感につながります。
シャワータイプは、溺れないという点でメリットがあります。

〇職員の動作が軽くて済む

ドッキング時に必要な力が少なくて済むものもあります。
また、チルト操作やリクライニング操作も、機種によって必要な力が違います。

〇リフトの乗り心地

リフト浴(E・F)には横スライド式と旋回式があり、横スライド式にも昇降するものとしないものがあります。
横スライド式・旋回式共に昇降するタイプは少し浮遊感があるため、利用者によっては嫌がることもあります。
既存建物の改修の場合堀込式とできないため、元々堀込を想定した機種では浴槽縁高さが高くなり、持ち上げる高さも高くなります。
入浴用車椅子の座面が高く作られているものの場合、体格の小さい利用者が乗降しにくい場合があります。

〇音

ドッキング時に金属が当たる音は機種によって差があります。
浴室内は音が響くため、音が大きい場合は機械浴感が強くなります。

〇清掃

機器の自動清掃機能を持ったものは、入浴後の清掃の手間が減ることが売りです。
シャワータイプの場合、湯舟より掃除がしやすいという声もあります。
設置した際にできる床との間の隙間や、シャワータイプのドーム内側の清掃も考慮する必要があります。

〇車椅子・ストレッチャーの操作性

重さや車輪のつくり(大きさや単輪か双輪か)などで、利用者が乗った際の操作性が異なります。小回りが利くか、軽い力で動かせるかも確認しておいた方が良いでしょう。
また、仰臥位浴の中には、ストレッチャーが移動時に椅子状に変形するものがあり、浴室開口が小さくても通過できることが特徴です。

〇利用者の羞恥心への対応

仰臥位浴のストレッチャーが椅子状に変形するものは、元々、建物内に仰臥位浴しかない場合で、介護度の低い人がストレッチャーでの移動・洗体・入浴に抵抗がある場合の対応として開発されました。
他に、個浴対応とすることでプライバシーを確保する方法や、脱衣室を共有・接続する場合でもカーテンやドアで仕切る方法があります。

〇洗体が可能か(チェアインバス(C・D)、リフト浴(E・F))

立位がとれない利用者の場合、背中や臀部を入浴用車椅子の上で洗体可能かも確認しておく必要があります。リクライニングの可否や、リクライニングした状態で横を向ける幅があるかを確認します。入浴用車椅子上で洗えない機種の場合、洗体用のストレッチャーや天井リフトの導入も選択肢となります。

まとめ

施設内にどの組み合わせで機械浴を設置するかは、法人の考え方によって様々です。機械浴を選ぶ際にも、基本的な条件以外に何を重視するかに特色があらわれます。
機種が沢山あるため、選択に迷うと思いますが、利用者にどのような入浴をしてもらいたいかを考えることで、ある程度絞られると思います。
また、別の考え方として、機械浴を導入する代わりに一般浴槽と天井走行リフトを組み合わせる事例もあります。

機械浴室の設計は、浴槽だけでなく、着脱衣や洗体をどうするかも合わせて検討が必要です。
入浴に限らず、介助が必要な場面の計画は、物的コストと人的コストのバランスが重要と言われています。設備(機械浴槽やリフト)に投資して職員の身体的負担を減らすことは、離職を防ぎ、ひいては採用・育成コストを減らすことにも繋がるという考え方もあります。

この記事では、各メーカーからのヒアリングを元に、選定のポイントを挙げていきましたが、職員や利用者が実際に使用して動かしてみて初めて分かる点もあると思います。
機種選定の際には、ショールーム・施設でのデモ(可能な機種は限られます)・他施設の見学を通して、実機を確認することをおすすめします。