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障害者

重度障害者のトイレ 洗体もトイレの重要な要素

私達は障害者の建築に取り組みだしたとき、失便が多いことを知り、失便処理装置を作りました。これを室内やトイレに設置することはすでに多く実現しています。
新みわ翠光園は、男性ユニット、女性ユニット、高齢重度ユニットの3つのユニットを持つ入所施設です。特に高齢重度障害者が多く入所しており、設計を進める過程で失便に関してさらに深く考察し、トイレ計画も新たに作り出しました。

1障害者の失便について

(社福)福知山学園理学療法士の吉田浩之さんから打ち合わせ時に詳細なレポートをいただきました。このレポートをもとに吉田さんとの議論で便に関して認識が深くなりました。吉田さんのレポートの抜粋です。

●ご利用者の抱える消化器系の問題
「知的障害のあるご利用者には便秘に代表される排泄の問題を抱える方が多いというものがあります。原因ははっきりと分かっていないようですが、偏食などの食事へのこだわりや排便の我慢などタイミングや習慣的なこだわりの可能性、水分や食事摂取量の問題、向精神薬などの服用している内服薬の副作用、先天的な臓器の未成熟などが影響しているのかもしれません。
当園では、壮年期を過ぎたご利用者の多くが下剤を服用されるようになられています。何日も排便がないと嘔吐につながり、それが原因で誤嚥性肺炎を発症される方や溜まった便で腸管が引き延ばされて腸閉塞を発症される方があります。このように入院にならないケースでも長期間の便秘の繰り返しによって腸が引き伸ばされ腸の機能が低下する巨大結腸となられ、排便管理が難しくなる方が多く居られます。巨大結腸は巨大化すればする程、心臓や肺を圧迫し、場合によっては排便と同時に血圧が低下する排便ショックで意識消失や嘔吐が起こり、入院手術となる方が居られますので、定期に排便があるように、ご利用者の症状に合わせた下剤の処方を受けて確実に排便管理を行っていく必要があります。」

●失便
「ご利用者の多くは、ご自分でトイレに行かれ排泄動作は自立されていますが、時には間に合わずに失敗され、ご自分で始末しようとして汚れを拡げてしまわれることがあります。また車イスのご利用者に多く見られますが、車イス上で既に失敗された便が衣服に滲み出ていたり、トイレで着衣介助をしようとすると、既に紙パンツやパット内に出てしまわれていることがあります。下剤を服用されていると便の性状が泥状便や水様便であることも多く、衣服に滲み出していない場合でも汚れを拡げることなく紙パンツやパットの交換ができないこともあります。」

●浴室で失便対応できるか
「汚れがひどい場合はお風呂に行って洗い流すという考えがありますが、入浴支援中にタイミングよく割り込みができるのか、後から入るご利用者のことを考えて簡単にでも浴室の清掃を必要とすること、一番の問題として浴室までの経路を汚さずに移動する準備が必要といったことがあるため、浴室での失便対応が現実的でない場合があります。かと言って汚れをふき取るには広範囲過ぎるという場合もあります。」

●洗体スペース
このように重度障害者のトイレは排泄以外に失便をした後の洗体などの役割も持つことも考えなければいけません。
新みわ翠光園ではユニットの特性に合わせて3種類の集合型便所を作りました。
①洗体スペースを別に設けトイレブース内では洗体は行わない
②洗体スペースは別に設けるが、トイレ内で洗体できるブースも設ける
③洗体スペースは設けず、すべてのトイレブースで洗体できるようにする

2トイレでの洗体対応への建築提案

洗体を行うには、排泄された便の処理をスムーズに行える設備が必要です。洗体を行う前提の部屋、洗体室や洗体可能なトイレブースには床に失便処理装置を設置します。
①洗体スペースを別に設け、トイレブース内では洗体しない。
 男性ユニットのトイレには車いす対応のトイレブースが三室ありますが、それに並んで洗体ブースを設けています。
 この便所の利用者は立位が取れることを前提としています。トイレブースは車いす対応です。

図1

②洗体スペースは設けるが、洗体ができるブースも設ける
女性ユニットと高齢重度ユニットの間にあるトイレのトイレブースは二種類です。洗体では臀部を洗うために立位が取れるか取れないかで対応が変わってきます。立位の取れない方のトイレでの排便、洗体はおおよそ下記のようになります。
1. スタッフが利用者の車いすを押してリフト設置トイレブースに向かう。
2. トイレブース内で車いすに座った状態でスリングを付ける。
3. リフトでスリングを付けた利用者をリフトアップする。
4. 失便が無い場合は、通常リフトアップの状態でズボンと紙パンツや紙オムツを下ろして便器に下ろして、用を済ませる。再びリフトアップしてズボンと紙パンツや紙オムツを上げて車いすに戻る。
5. 利用者の体型や状況によりリフトアップの状態で脱着衣が出来にくい場合は、一度ストレッチャーで横になって脱着衣してから便座、車いすに移動する。
6. 失便がある場合は汚れ具合によるが車いすからリフトアップ後ストレッチャーで横になってきれいに洗体する。

このように身体の状況によってリフトを使用しなければ便器に座らない方のためリフトの設置は行われますが、そのリフトは立位の取れない方の洗体でも使われます。
このように、重度障害者の便所ではリフトがあるブースとリフトのないブースの二種類を計画しました。
リフトのあるブースでは昇降式のストレッチャーを使えるような広さを確保します。

図2

③すべてのトイレブースを洗体対応とする。
高齢重度ユニットでは立位の取れない方が多くおられます。そのため、このユニットの集合型トイレのブースはすべてリフト設置タイプとし、床に失便処理装置を設けています。

図3

3 まとめ

この施設では重度の方を特性によって3ユニットに分けて生活してもらいますが、トイレもこのようにそれぞれに必要な機能に合わせた計画となっています。