設計コンセプトConcept

精神科

成功する「居ながら建替工事」の考え方

「精神科病院」の現地で病院を運営しながら建替工事を進めなければいけない「居ながら建替工事」のご相談を多く受けています。
市街化調整区域のため周辺で新しい土地に移転新築することが出来ない。街中でどうしてもまとまった土地が見つけることが出来ない。
病院運営の継続、動線の制限、工事による振動や騒音など様々な厳しい条件のなか、成功する「居ながら建替工事」の考え方と2つ事例を紹介します。

A . 居ながら建替工事のポイント

「居ながら建替工事」を成功させるためのポイントは次に3つになります。

① 法規制の整理
② 各種動線の確保
③ 騒音振動埃対策

B . 法規制の整理

建物を建てるにあたりいくつもの法規制をクリアする必要があります。
特に「居ながら建替工事」の場合、工事中の法規制をクリアすることがポイントとなります。
特に、精神科病院は市街化調整区域に建っている場合が少なくありません。
平成19 年11 月30 日の都市計画法の改正により、市街化調整区域での既存敷地以外の新築は非常に困難となっているので注意が必要です。
医療法については、工事中の病床数を確保することがポイントとなります。
特に、都道府県によりますが、協議により工事中のみ病床数を減らすことが可能な場合があります。
工事中の病床数を減らすことが出来ると、仮設工事にかかるコストを抑え、工期を短くできる可能性があり、最終的なプランイングの自由度を高めることが出来ます。

主な法規制

a. 都市計画法(開発非該当)
b. 建築基準法(耐震、仮使用申請、避難経路など)
c. 消防法(消防設備、避難設備など)
d. 医療法(構造変更許可など)

C. 各種動線の確保

工事中スタッフの動線はもちろん、患者さん、食事の配食の動線、各種業者の動線を確保する必要があります。
特に、機能訓練室やX 線室については病室から離れている場合があります。
スタッフ動線であれば、雨をしのぐ程度の簡易な渡り廊下でも問題ないですが、患者さんの動線は保健所の指導などにより、雨風を防ぐ建物により動線を確保する必要があります。
配食動線についても保健所の指導などにより、衛生面への配慮が必要となり。基本的には雨風を防ぐ建物の中の移動になりますが、工事中どうしても屋外を通る場合は、衛星面を配慮し食事をバッカン等に入れ車で移動することなど検討する必要があります。
また、工事中の厨房自体の検討も必要です。仮設厨房の設置、外部の配食サービス業者の利用など検討する必要があります。

工事中ポイントとなる主な動線

a. 患者動線の確保(病室~機能訓練室、X 線室など)
b. 配食動線の確保
c. 業者動線の確保(厨房、用度物品、リネン、ゴミなど)

D. 騒音振動埃対策

工事中の騒音振動埃は想像以上のものがあります。特に音と言うものはなかなか説明できないため、解体の時の動画を見て頂き、現場の音を出来るだけ再現して確認して頂きます。
患者さんへ配慮し、工事中の工法及び工具は出来る限り低騒音の物を選び、騒音振動埃対策を行います。

事例1.田辺病院:市街化調整区域で行われた「居ながら建替工事」

田辺病院は昭和43 年に建てられた市街化調整区域に建つベッド数291 床の精神科病院です。建物の老朽化のため、既存棟を一部解体し、病院を建替えすることとなりました。

① 市街化調整区域とは
市街化調整区域とは、市街化を抑制すべき区域と都市計画法で定義されています。
平成19年11月30日に施行された都市計画法の改正により、以前は市街化調整区域内でも新しい敷地に「病院」を建てる事ができていましたが、法改正後は建てる事が非常に困難となりました。

② 市街化調整区域で病院を建て替えるためのポイント
1つの目のポイントは、既得権を使い、今病院がある敷地で建て替えを行うこと。
2つの目のポイントは、開発行為を行わないことが重要となります。

③ 開発行為にあたらないようにするための手法
敷地の盛土、切土、擁壁を作る事は開発行為にあたります。
敷地の高低差を触る場合は、建物と擁壁が一体ととなった建築擁壁とするか、既存建物が土を受けていた同じ場所に管理行為として擁壁を作る必要があります。
このような手法を駆使し、新しい建物の計画が開発行為にあたらないようにする必要があります。

事例2.綾瀬病院:住宅街の限られた敷地で行われた「居ながら建替工事」

公道により分散した病院機能の集約を意図した既存敷地内での建替
外来棟と病棟が公道を挟んで存立しており、その周辺は民家と共同住宅に囲まれています。
既存病院はブロック造+木造で、病院設立から70 年経過しています。
そのため、現在の耐震基準に満たない病棟の建替えを契機に、業務の効率化を目指し、機能を一体化させる計画としました。
病棟には入院患者が在院しているため、居ながら建替えとなります。

① 工事中の病床数を減らすことで、仮設工事コストを抑え、工期を短縮
工事中の病床数を減らすことで、仮設工事コストを抑え、工期を短縮することが出来ました。
許可病床は97 床ですが、工事中の病床変化について行政と協議を行い、一時的な減少が可能となりました。
② 工事中でも取れる加算は取る
工事中でも食堂加算等、加算が取れるように部分改修を行い、病床数減による減収を少しでも賄うことが重要です。
③ 工事中の食事対応
既存の厨房を解体して新病院の建設を行いました。新病院が稼働するまでの間の食事は外部委託先の厨房業者からお弁当を配食してもらう形で対応しました。