設計コンセプトConcept

精神科

保護室について考える

ゆう建築設計は、多くの精神科病院の設計を手掛けてきました。
ここでは、今まで私たちが計画してきた保護室について紹介します。
私たちは、保護室としての機能(隔離、自傷他害の防止、知覚刺激の低減及び患者様の管理)を満足することはもちろん、その上で患者様個人の尊厳、プライバシーを確保し、心を落ち着かせることができる環境を提供できればと考えています。
保護室の設計にあたっては、内装建材の仕様、設備の仕様はもちろんのこと、観察窓の大きさやドアハンドル、丁番の仕様といった細かい事まで様々な仕様を比較検討しながら、それぞれの病院の運用に最適な仕様を決定していきます。

保護室使用の整理  建築と設備を一体的に考えることで、運用の確認が一目でできます

様々な患者に対応するための設備仕様

設備の仕様について比較表を作成し、打合せを重ねることでそれぞれの病院運営に適した計画をまとめます。
たとえば、衛生機器は一般的な陶製のものとFRP製のものとの比較、バルブや洗浄ボタンの仕様、紙巻器の要否、それらの設置位置について検討します。
水中毒患者に対応するために、保護室内の給水設備はすべて廊下側からバルブで止めることができる仕様や、トイレ側からも廊下側からもトイレの洗浄が可能な仕様を検討します。
照明や空調、換気設備についても同様に廊下側にスイッチを設けることで患者の状況を見ながら、それぞれに適した療養環境をつくれるようにします。

デイルームとしても利用可能な保護室前廊下

保護室内の洗面スペースとベッドスペースの間に建具を設け、扉の開閉により室内の構成を変化させることで患者の状態に応じて病室設備の利用を制限する事ができます。
また、保護室前にデイルームを設け保護室ゾーンとして計画することで開放観察や準保護室として利用できる事例もあります。

自傷行為防止のための壁仕上の仕様

壁仕上は自傷行為対策として衝撃吸収能力の高い板張りとすることが多く、さらに衝撃吸収能力を高めるために板材の裏に発泡クッション材を設ける場合もあります。柱型等の出隅は135°の緩やかな角にすることで、患者の自傷対策防止に努めています。
自然木を使うことで、患者が落ち着く空間となるように計画しています。
自然木は不燃材料ではないため、排煙設備が必要となりますが、排煙窓から患者が抜け出すことがないように、窓の形状や排煙オペレーターの位置まで細心の注意を払って計画します。

保護室

保護室は扉の開閉により洗面の使用の制限が可能

保護室の実例1 「病棟を使いながら病室を保護室に改修」

病棟の再編成と今後の病院改修計画の方針により、保護室の設置が多い本館1階を閉鎖し、上階にある保護室の改修と新装を行う方針となりました。
今回の計画は、本館2階並びに3階の既存保護室の拡張工事と、病室から保護室へ変更する改修工事です。
既存保護室はスタッフステーションに隣接してありますが、新装保護室はスタッフステーション前の廊下を挟んだ病室を改修する計画とし、改修範囲を分ける計画としました。
病院を使いながらの改修であり、改修に伴って保護室を閉鎖することができないため、保護室が使えなくなる状態を作らないことを大前提と考え、保護室を分けることで病院の合意が取れ、改修範囲を分けることとしました。
患者の受け入れ態勢や保護室を使用する患者の症状を聞きながら、病院が求める適切な仕様を決定していきました。
また、保護室ヒアリングシートを用い、治療的見地及び経営的見地からの保護室の位置付けや保護室へ移動する際の治療の流れ、隔離期間、保護室での対応等について詳細な聞き取りを行い、計画全体をまとめました。

医療法人慈光会 東武丸山病院

運用に支障がない仮設計画(工事手順)の検討

保護室の実例2
「保護室の部屋数不足解消のため、病院中庭に保護室棟を増築」

保護室の部屋数不足解消とより進んだ隔離病棟の提供を目的に保護室棟の増築を意図されました。
保護室棟建築場所は急性期病棟に接続し、近い将来に行われる増改築に支障のない位置として中庭が決定されました。
増築棟の廊下を開放観察に利用したいとのご要望が病院様からありました。他の患者様が行き来することから、プライバシー確保のために観察窓といった様々なものの仕様を病院様と一緒に一から検討を行いました。

丹比荘病院精神科病院保護室

出入口脇の小扉の中に納め、
保護室内の状況を確認しながらの操作が可能なスイッチ

解放観察にも利用する廊下は中庭に面した明るく開放的な空間