設計コンセプトConcept

障害者

利用者の特性に合わせた各部屋の設計手法

ゆう建築設計で考えた、知的障害者の特性に合わせた各部屋の設計手法を紹介します。

どのような特性を持った利用者かを明確にイメージし、一日を通してどのように生活するか具体的に考察することで、知的障害者の特性に合わせた各部屋の設計は行われています。

1. 見守りの重要性に合わせた居室

 居室は利用者の見守りの重要性に合わせてプランを検討する必要もあります。一方、眠るための場所でもあるのでプライバシーが守られる必要があります。
 てんかん発作を持った利用者、重度化や高齢化によりADLが下がり転倒の可能性が高い利用者など、命の危険にかかわる見守りが必要な利用者にとって、居室の見守りのしやすさは非常に重要となります。
 見守りがしやすい居室は、極端に言えば壁の無い開放性が高い部屋となり、プライバシー性が高い部屋は窓の無い開放性の低い部屋となります。居室のプランを考える際、見守りの重要性とプライバシーの折り合いをどのように付けるかがポイントとなります。
 ゆう建築設計では、利用者の見守りの重要性に合わせて、建具などを工夫し必要とする開放性に合わせて居室を提案しています。

写真1 重度利用者の見守りを重視し開放性を高くした
2人居室

写真2 スタッフステーションから食堂及び
開放性を高くした2人居室を見る

2. 利用者の体の状況に合わせたトイレの計画

 一般的にトイレと言えば、自分一人で用を足せる人が利用する一般トイレと、車いす利用者が利用する車いすトイレに分けることが出来ると思います。
 知的障害者施設のトイレの場合、一般トイレであっても、見守りが必要な方が利用するトイレは利用者とスタッフが一緒に入ることが出来る大きさにトイレにする必要があります。
 車いすトイレについて、ゆう建築設計では細かく利用者の体の状況に合わせ次の様に計画します。

◆Aタイプ:天井走行リフトを設置。リクライニング車いすを利用した座位を取ることが出来ない方が利用するトイレ
◆Bタイプ:スタンディングリフトが利用できるスペースを確保。立位が取れないが、前方ボードを利用し座位を取ることが出来る方が利用するトイレ
◆Cタイプ:移譲介助を必要とするが、介助手摺を利用して立位を取ることが可能で、前方ボードを利用し座位を取ることが出来る方が利用するトイレ
◆Dタイプ:自力で移乗できる方が利用するトイレ

図1 Aタイプ車いすトイレ 図2 Bタイプ車いすトイレ

図3 Cタイプ車いすトイレ 図4 Dタイプ車いすトイレ

3. 利用者の体の状況に合わせた浴槽の選定

 浴室の浴槽は利用者の体の状況に合わせて選ぶことになります。自立した入浴が可能な場合、知的障害者の入所施設など多人数の施設では大浴槽の採用が多く、グループホームなどの少人数の施設では個浴を採用することが多くなります。身体の障害や、高齢化により自立した入浴が困難な場合、機械浴槽を採用することが多くなります。感染症がある方、入浴中に失禁しやすい方が居られる場合、個浴槽を採用します。

写真3 大浴槽と個浴、機械浴槽

写真4 機械浴槽

4. 開放型食堂と閉鎖型食堂

 ゆう建築設計では、利用者の盗食を考慮して食堂を計画します。
 知的障害者施設で、食事の準備が終わるのを食堂の外で利用者が待っているという光景を良く見ます。
 盗食を行う利用者がいると扉で閉鎖された食堂で食事の準備を行うことになります。一方、盗食する利用者がいない、または、重度化や高齢化により盗食をする方がいてもスタッフが盗食に対応することが出来る場合、扉を設けず食堂を開放した状態で食事の準備を行うことができます。
 特に、重度化や高齢化が進むと車いすの利用者の数が多くなり、歩行できる利用者も手すりなどを利用する伝い歩きになります。例えば、開放型食堂であれば娯楽室と一体的な部屋にすることができます。そうすることで、食堂と娯楽室の3食の移動時間を利用者の余暇の時間に充てることもできますし、スタッフはその時間を使ってより高い支援サービスを行う事が出来るようになります。

図5 開放型食堂

5. 集まって生活する娯楽室とするか

 ゆう建築設計では、強度行動障害のユニットかどうかにより、娯楽室を集まって過ごす場所にするかしないかを考えます。
 日中、娯楽室でみんなが集まってテレビを見たりして、余暇を楽しんでいる光景を良く見ます。しかし、強度行動障害のユニットでは、集まって生活することによる他者からの刺激により情緒が不安定になる事が考えられるため、娯楽室は少人数やブースなどにより個別で利用できるように検討します。

写真5 集まって過ごす娯楽室

写真6 少人数で過ごす娯楽室

6. 日中活動室

 日中活動室も、娯楽室同様に強度行動障害のユニットが利用するかどうかにより、個別作業への対応の仕方が変わります。
 強度行動障害のユニットが利用する場合、個別作業ができるように専用の作業机などを設置し、一人一人の作業スペースを作ります。専用の作業机は移動できるようにし、各自が落ち着いて作業できるように専用の作業机を移動して探せるようにします。

 強度行動障害のユニットではない場合でも、可動間仕切りなどを設け空間を必要に合わせて分節化できるような工夫を行う事があります。
 日中活動室の配置については、日中活動は仕事であるという位置づけにより、知的障害者の入所施設であっても、日々生活を行っている場所から離れた場所に計画することが多いです。

写真7 強行日中活動室

写真8 可動間仕切り日中活動室