設計コンセプトConcept

障害者

特性・ライフステージの変化に対応した建築的支援 岩﨑直子

「長年住まわれている利用者の加齢に伴い、建物と利用者の状況がそぐわなくなってきた。」
「重度の利用者の増加に、建物が追いつかなくなってきた。」

障害者支援施設において、そのような話題をよく耳にします。利用者の「高齢化」「重度対応」は、どの施設様でも抱えている問題です。住み続けるために利用者の変化に対応してどのような改修計画を立てたか、2つの事例を紹介します。

岩﨑直子

■事例1 飛翔の里第二生活の家 重度身体障害者と支援者のための改修提案

重度身体障害者の利用者が築16年の施設で過ごされる中、リハビリや入浴など、より身体状況にあった居住の場・日課の充実を図るべく計画した改修事例です。
この建物は、個室が片廊下で伸びやかに配置され、それぞれのゾーンで小さなデイルームを配置し、障害の特性に合わせてすみ分けられていました。

重度化に対応できなくなったエリア分けのくらし

 年月が経過する中で、重度の利用者が増加し、大半の方が身体に合わせた特注車椅子を利用されるようになりました。日中、支援員の見守りが不可欠な利用者の方は、1箇所のデイルームに集まって過ごすようになっていました。
 入浴に関しては利用者の親御さんの協力もあり、毎日入浴することを実践されていました。ところが、親御さんなど支援をする方の高齢化がすすみ、安全に快適に入浴するためには、機械浴槽の活用が不可欠となってきました。
 今後この建物に住み続けていくにあたり、利用者の身体的重度対応・利用者の過ごす空間の充実を行っていくため、建物のつくりを見直すこととしました。

毎日の入浴の実現と見守りのできる皆で過ごすスペースの充実

 浴室は、利用されなくなっていた一般浴室を取り込み、プライバシーを守りながら、利用者の入浴介助ができるプランを提案しました。異なるタイプの機械浴槽を2台設置し、それぞれの浴槽で、脱衣→入浴→着衣→湯上りのスペースが連続する浴室プランです。支援者が、入浴介助を助け合えることも目的としています。
 手狭だった分散型デイルームのあり方を見直し、浴室近くのリラックススペースと中央ホールを一体的に改修することにより、見守りの中で利用者が集まって過ごせるスペースを作りました。
 また、倉庫などをスヌーズレンルーム・多目的室に改修し、個別で過ごすことができるスペースも確保しました。

このように、変化していく住まわれる利用者の状況と合致できるよう、建物も当初の計画から見直していくことが、これからの重度対応には不可欠となります。

既存一般浴室を取り込み大きなワンルームの脱衣室に改修

■事例2 ブナの木寮改修計画    設計者からの空間の見直し提案

 京都府にある、あゆみが丘学園では、高齢者棟である「ブナの木寮」と若年層・中高年層の利用者が住まう「本館棟」の2つで構成されています。
 今回紹介する「ブナの木寮」では、高齢化が進み、食事や排泄の介助を必要とする利用者、車いすや歩行器の利用者が増加していました。当初は、食堂とデイルームを分けて生活のリズムをつくっていましたが、車いす利用者の増加により食堂が手狭になったこと、また、建物内で過ごす時間が増えた利用者にとって、中庭に面したデイルームだけでなく、見晴らしのよい場所に面している食堂を開放し、デイルームとして活用できないかと設計者側より提案しました。

入替え運用前:デイルーム

入替え運用中

検証を経て閉鎖型食堂から開放型食堂へ

 そのような運用を可能にするには閉鎖型の食堂を常時開放して使うことが前提になります。知的障害者の施設では通常、食事時間以外は食堂を閉鎖します。食堂を開放しての運用が可能かを確認するために既存の状況のままでテーブルのレイアウトや職員動線を改修計画のものに一時的に変更し、実際に運用してもらいました。運用の結果、開放型食堂でも問題ないことを確認し、食堂とデイルームを一体利用とすることを決定しました。以上の改修により増築をせずに日中の居場所が拡大でき、元食堂のスペースは個別の食事が向いている方に使ってもらうなど、利用者の状況に応じて空間を活用できるといった様々なメリットも生まれました。

食堂・デイルームを中心した生活への改修

その一方、弱視の利用者にとっては、元来座られていた指定席に到達するまでの歩数や壁などが空間を認知するために必要であり、日中過ごす位置を変えないことも重要であることがわかりました。このようなテスト運用期間を経て、次のような改修を行いました。

①食堂とデイルームを大小の食堂・デイルーム1・2に改修。
②配膳室を拡張し、食堂・デイルーム1・2の双方にサーブできるようにする。
③支援室を拡張し、見守り・喫茶の提供ができるキッチンを配置。
 食堂・デイルーム側に手洗い器を増設。
④1階のトイレを全て車いす対応に改修し、リフトの利用も想定した広さ(1650×2150)を確保。

 このように、設計者側からの視点により、既存の空間のとらえ方を見直し、特性・ライフステージに合ったすまいとすることができた事例です。また、いきなり改修するのではなく試験運用ができたことも成功のポイントです。