作品紹介Works

病院 / 透析

特定医療法人 桃仁会病院
入院透析室改修工事         

「変化する患者」に合わせて、「建物の役割」も変えていく

京都の「透析治療総合病院」として1970 年代初頭に開設し、長年、地域医療に貢献 してきた桃仁会病院。 我々、ゆう建築設計は、2005 年9 月の新病院移転新築を担当して以来、約20 年にわたり、桃仁会病院・本院をはじめとする法人の透析関連施設の設計に継続して携 わらして頂いています。
これまでに、
〇桃仁会病院 本院 :透析100 床・ 入院43 床
〇桃仁会病院付属診療所 :透析63 床
〇烏丸透析クリニック :透析31 床
〇かつら透析クリニック :透析26 床など、
法人の主要な透析施設の設計の依頼を頂きました。
その約20 年の間に、透析医療を取り巻く環境は大きく変化しました。
約5 年前から全国の透析患者数がピークから減少傾向となり、特に透析導入患者の高齢化に伴い、ADL の低下、認知症、心疾患や脳血管障害などの合併症により、 通院が困難となる患者が増加しています。また、入院透析患者の高齢化は、治療だけでなく病棟での生活スタイルにも変化をもたらしました。 以前は、入院患者が食堂に集まり食事をすることが病棟生活の一つの場面となっていましたが、患者の高齢化やADL の低下に伴い、食堂まで移動することが難しい患者が増え、現在では各病室で食事をとるスタイルへと変化しています。
その結果、従来は病棟の生活空間として重要な役割を担っていた食堂を、以前ほど食事のためのスペースとして使用する必要がなくなりました。そこで今回の改修計画は、この「患者の高齢化によって役割を終えつつあった病棟食 堂」を、新たに病棟と同一フロアで必要となった入院透析室へと機能転換するといった、透析患者の高齢化によって変化した病棟の使われ方を、次に必要とされる医療機能へ転換する改修計画です。

改修前:病棟患者の食事利用された既存食堂

改修後:既存食堂を入院透析室(18床)に改修

1.病棟食堂を、18 床の入院透析室へ

今回の計画では、既存病棟フロアの食堂を改修し、18 床の入院透析室を整備しまし た。 入院透析患者の高齢化により、ADL が低下し、ベッドでの移動が必要となる患者が 増えています。 そこで、入院患者が多く入院する病棟と同じフロアに入院透析室を配置。従来のように病棟から別フロアの透析室へエレベーターで移動する必要をなくし、 病室から透析室まで同一フロアの水平移動だけで患者を搬送できる動線を実現しま した。エレベーターを待つ時間や乗降の負担をなくすことで、患者の移動負担だけでなく、 ベッド搬送を行うスタッフの時間と労力の軽減にもつなげています。
「患者の高齢化}⇒「患者の生活スタイルの変化」⇒「食堂の利用方法の変化」⇒「病棟食堂の新たな活用」⇒「入院透析室への転換」といった、限られた病院建物の中で現在の患者ニーズに合わせて既存スペースの役割を見直し、新たな医療機能へ再生する改修計画となりました。

改修前:病棟患者の食堂兼談話室として利用

改修後:車椅子と入院ベッド移動エリアを分けた入院透析室

①高齢化する透析患者に対応した「入院透析」

高齢化や透析歴が長期化することにより、
■ADL が低下し、ベッドでの移動が必要
■シャントトラブルなどバスキュラーアクセスに問題がある
■認知症を発症している
■脳血管障害や心疾患などを合併している
■全身状態が不安定で、感染症や心不全などのリスクが高い
といった入院透析患者が増えています。
そのため、外来透析とは異なり、患者の状態に合わせた移動・移乗、治療中の見守り、スタッフによる介助を考慮した透析環境が設計の大きなテーマとなりました。
今回の計画では、透析スタッフと病棟スタッフとの打合せを重ね、実際の患者の移動や治療、看守りをイメージしながらレイアウトを検討しました。                 

②移動時間の削減、スタッフ労力の軽減
「エレベーターに乗らずに入院透析室へ」

病棟と同一フロアに透析室を配置することで、エレベーターを使用せず、病室から透析室まで水平移動だけで患者を搬送できる計画としました。 患者を乗せたベッドをエレベーターで移動する際に必要となる、
「エレベーターを待つ」
「乗り降りする」
「フロアを移動する」
といった時間を削減。 病室と透析室間のベッド移乗に必要となるスタッフ数や負担も軽減し、日々繰り返される患者搬送そのものを建築によって効率化しました。

③患者の状態に合わせたゾーニングと動線

車椅子で移動する患者と、ベッドのまま移動する患者を想定し、それぞれの動線を考慮したゾーニングを行いました。
ベッド間距離は900~1,000mm を確保し、車椅子の移動やベッド搬送、スタッフによる介助がしやすい空間を確保。
また、ベッドの方向転換や回転を想定した通路幅を設定しています。

車椅子利用の入院透析エリア

改修後:ベッド間距離、ベッド回転も容易な通路幅を確保した病室ベッド利用の入院透析エリア

④限られた面積でも「ゆとり」をつくる

既存食堂の柱位置など、改修ならではの制約がある中でも、可能な限り見通しのよいレイアウトを計画しました。
急変の恐れのある患者は、スタッフステーションの直前の常に看守れるベッドで治療をしてもらうことを反映した計画になっています。

病棟廊下からの視線対策をした入院透析室

入院透析患者の急変対策として見通しを重視したレイアウトのスタッフステーション

⑤既存設備を活用したローコスト改修

既存病院の改修では、すべてを新しくするのではなく、既存設備を活用しながら必要 な機能を追加することが重要です。これには、既存病院の透析給排水をはじめとする 治療環境に必要な設備内容を描いた設備計画が必要になります。
■ 既存空調設備を有効利用
■医療ガスは2 ベッドに1 か所として合理化
■ TV アウトレットは必要な患者エリアに限定
■ 西日対策は断熱フィルムで対応
など、「残せるものは残し、必要なところにコストをかける」考え方で計画しました。
■既存棟設備を活用した給排水計画:本改修計画の入院透析の排水を下階の通院透析室100床の既存中和装置によって透析排水を一括処理できる計画としました。建築だけでなく、既存設備インフラを含めて検討することにより、既存病院の機能を有効に活用することによってローコストの改修計画としました。

⑥病院運営を止めないための施工計画

病院を使いながらの改修では、患者への影響を最小限にする施工計画が欠かせません。
今回の工事では、病院スタッフと施工会社との綿密な打合せを行い、透析時間や病棟の運用を考慮して、騒音作業や資材搬出入のタイミングを調整しました。

最後に

約20年前、地域の透析医療を支える拠点として新築された桃仁会病院。
今回、法人全体のスタッフの効率的な配置変換とともに、開院から約20年が経過し、透析患者の高齢化とともに、求められる医療や病棟での過ごし方、院内の移動のあり方も大きく変化してきました。
患者が変われば、医療が変わり、建物に求められる役割も変わります。
本計画は、これまで約20年間にわたり設計時から各種変更によるご相談のなか、患者の高齢化への対応、スタッフの負担軽減、既存設備の有効活用、コストの抑制、そして病院の機能を止めることなく進める施工計画まで、総合的な視点から取り組んだ透析室の改修計画でした。 これまでの病院の歩みを大切にしながら、変化する患者と医療のニーズに応え、これからの入院透析を支える施設へと再生することを目指した透析病院の改修計画です。

建築主
特定医療法人 桃仁会病院
所在地
京都府京都市伏見区
用途
病院
構造
鉄骨鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造 (免震構造)
階数
4階建  4階病棟フロア:食堂兼談話室を改修
延床面積
191.40㎡
竣工年月
2026年4月
担当者
河津孝治