作品紹介Works

診療所 / 精神科

やすたけちえ 心のクリニック

受付待合

受け入れられることの意味 -平穏な心-

生活空間を共有し、関係が相互にあり、影響を与え合う。
これらは、私たちの社会生活のこと。
社会が動くスピードと同調していくためには、立ち止まってはいけないという強迫観念に包み込まれる。その要因は、競争・不安・焦り・憤り・孤独・人間関係のこじれ等、心が疲弊する原因となることが非常に多く、うまく解消できずに情緒的・身体的に不調をきたして苦しむ人が増えてきている。それとは逆に、希望に満ち、心穏やかに生活している人がいることも事実である。ここで、全ての人に共通していることは「ベクトルを有している」ということ。
つまり、不安や焦りといったベクトルは、方向を換えれば同じだけの力を持つ希望や安心のベクトルへと変容する。きっかけは人それぞれである。
そのきっかけとなる変換点を「受け入れられている気持ち」という観点で捉えたとき、何かに受け入れられているということは、人にとって大切なことであると気付く。
この計画で求めたものは、受け入れられている中で、自分の状態を受け入れる場所を創ること。自分を省みる一人の空間は、心が平穏になることを私たちは経験上知っている。
その気持ちの静けさのまま、心をそっと手当てする心療内科の施設である。

「心を手当てするということ」 -疲弊した心と向き合う-

心療内科とは、内科領域、各科領域の身体疾患を、心身両面に渡り治療する医学のこと。
「手当て」とは一般的に外傷を処置することだが、「手」という概念は、支える、後押しする、包み込む、または体温をイメージさせ、安心感を与えてくれる。
そのような温もりで、社会と自己の距離を適切に保つために医療行為を通して行う「心」への配慮は、私たちが健康的な生活を行うためのひとつの方法である。その行為の中心は言うまでもなく医師である。ベクトルの変換点を医師と捉え、そこから希望へと転化する。
社会に疲弊した心と向き合う医療の必要性という現代のテーマに対し、ひとつの解法は、複雑に絡み合う社会生活の中、個人が社会と向き合う準備ができ、医療行為を通して心理的変容を促すことができる「自分と向き合える場所」が必要だと考えた。

診察室1

穏やかなクリニック -計画案について-

ひとりの患者のカウンセリングは30分程度である。そのため、医院全体にゆったりとした雰囲気を創ることが必要だと考えた。
待合スペースは、患者ひとりひとりが他者を気にせず有意義に過ごすことが出来る場所でありたい。そのため、限られたスペースで個人の領域を確保するために、光による領域の形成を試みた。照明の色温度が低い場合、人はリラックスすることが認められている。ここでは、さらに影のモアレを意図的に創ることで、目的に対しての効果を高める方法とする。不均質な光と影の濃度分布は空間に奥行きを創り出す。
具体的には、円弧状等間隔に照明を配置し、その同心円状に、照明と対をなすように椅子を配置する。自分だけの光の中で待つ行為は、他者の存在を一時的に忘れさせてくれる。
その中で読書をし、絵画を鑑賞し、患者は思い思いの時間を過ごすことができる。
部屋の一部に「朱」を使うことは、強い生命力を喚起させることを意識している。このような刺激の強い色は、やわらかな照明の色と混ざり合い、適度な影によってしなやかに心に働きかける。
心が疲弊したとき、安心して自分と向き合える場所を得て、ベクトルの転換点となる場所を欲する気持ちによって、このような施設環境が導き出された。

カウンセリングルーム

処置室

担当者
田淵幸嗣