作品紹介Works

病院

運動器ケアしまだ病院 建替え

概要

スポーツ整形で先進の医療とスポーツ選手へのサポートに力を注ぐ一方で、そこで蓄積された知識や技術で地域の人々の日常生活を全面的にサポートしたいという施主の理念を具現化し、地域に発信するような建築を目的として計画を進めていきました。この病院建築によって、人々の暮らしに快活な彩りを添えられるような「風景」をつくりたい、という想いを抱いて設計に臨みました。

計画地の病院の立つ羽曳野市周辺には古墳が点在しています。かつての悠久の風景は現在は見られませんが、この地域には肩肘を張らない生活の雰囲気が漂っています。そのような場所に対して、「親しみ」を感じながらも、周辺の雑多な雰囲気に埋もれない医療の「先進性」も併せ持った建築の表現を模索しました。

西面外観

外構

約40年前に建設された旧病院は地下1階と1階の柱の一部を撤去し、新病院へのアプローチの屋根を支える柱へと再利用しました。ずんぐりしたその柱は、メディカルフィットネスのとがった印象を和らげ、病院全体に、昔からずっと建っていたような雰囲気を醸し出しています。

総合受付・待合ホール

1階 中待合

1階 外来

患者は心細く不安な気持ちで診察を待っています。従来の病院ではまっすぐの壁に診察室の扉が一列に並んでおり、患者にとって外来は実に緊張感のある空間でした。そこで、少しでもリラックスして診察に臨めるように、壁に凹凸にして親しみのある待合空間をめざしました。

カフェ

1階 カフェ・待合

「焼きたてのパンの匂いがする病院にしたい」という施主の希望から、長い待ち時間を少しでも快適に過ごせるよう、エントランスにはカフェを配し、それ以外にも時間を過ごせる場所をさまざまに設けることで退屈な時間が少しでも快適になるような工夫をこらしました。テーブルはそんな病院の雰囲気に合わせて、特注で製作しました。クラブ活動をしている学生も多いこともあり、自習デスクも作成しましたが、学生にとどまらず、新聞を読む老人やクロスワードをする女性など、想定以上に利用されています。

2階 手術ホール

2階 手術室

各手術内部の状況を映し出すモニターは、手術ホールのコントロールデスクだけではなく、手術エリアのスタッフルーム、1階外来のスタッフエリア、3階急性期病棟のスタッフステーションなどにも多数設置され、病院全体で手術フロアの状況がつかめるようになっています。

運動器ケアしまだ病院の心臓部ともいえる手術フロアは、条件として7m×7m程度の十分に広い手術室を5室設けること、手術材料は一方通行として清潔材料と不潔材料の交差がないことが求められました。これらは、既にほかの病院でも実現されている事柄ですが、さらに前例多くないであろう二つの課題に取り組みました。それらは、「患者の動線を一方通行とする」ことと、増加するであろう手術件数を想定し、清潔材料を「展開スペースを設け」、手術室内部に運んでからではなく、事前に準備できるようにすることでした。患者動線の一方通行は、術後に観察するためのリカバリー室への移動、そこからのエレベーターホールへの動線の確保によって実現されました。展開スペースには全体の状況がつかめるように大きな窓を設け、大きさや形状は看護師の方々に協力していただき、実際の器械を用いた検証の末に決定しました。

設計者として腐心したことは、おびただしい変更案を作成したこの手術フロアに、1階外来の待合の上部となる吹き抜けを設けること、手術エリアへベッドで移動する廊下に、患者が少しでもリラックスできるよう間接照明を設け、外光が入る窓を設けたことでした。吹き抜け位置の度重なる変更は、2階の図面修正のたびに、1階の外来の平面をも修正し続けるこtになりましたが、手術フロアを担当された副院長との陣取り合戦の末に獲得された吹き抜けは、手術エリアの機能を阻害することなく、外来患者の待ち時間に彩りを添えています。

3階 食堂・談話室

3階 南スタッフステーション

3階 急性期病棟

3階病棟は最大で1日20件の手術に対応することを目指して計画しました。「スタッフが使いやすいことが患者の利益につながる」をコンセプトとしました。2つに分けられたスタッフステーションにつながるスタッフ廊下には、縦動線、準備室、休憩室、洗浄室などが並び、患者エリアからは隔離されています。厨房・手術の縦動線もその中に納まり、ベッドの対面通行を考慮した幅広の患者廊下は穏やかになっています。

また、手術翌日から開始されるリハビリはベッドまわりを基本としますが、病棟内部に専門リハビリエリアを設けてさまざまな動きに対応しています。

多くの職種が参加するカンファレンスのためにスタッフステーションの面積は大きいですが、人があふれることもあるということです。術後の見守りが必要な患者は経過観察室へ移動し、スタッフステーションの窓から逐次経過を観察することができます。

4階 食堂・談話室

4階 廊下より屋外テラス

4階 地域包括ケア(療養)病棟

4階の地域包括ケア病棟では3階の一般病棟と比べて在院期間が長くなります。自宅復帰へ向けた40日余りのゆったりとした時間の流れを想像しながら設計を進めました。その結果、病棟が上下に重なるにもかかわらず下階とはまったく異なる平面となりました。病室ではなく集まって食事をとる食堂はスタッフステーションに面して配置しました。北側の大きな窓に向かって幅を広げて歪んだ形が、集う患者相互の堅苦しさを緩和します。

リハビリは主として5階で行われます。病棟では歩行訓練を想定し、床に1mごとにしるしを入れています。廊下はすべて間接照明となっています。

長くなる入院生活の中で屋外テラスへ出て、外の光や風を感じ、リハビリの合間に自然に触れて一息ついて欲しいと考えています。

(文:伊藤健一(元社員))

建築主
医療法人永広会
所在地
大阪府羽曳野市
用途
病院
構造
鉄筋コンクリート造
階数
地下1階、地上6階
敷地面積
8,733.31㎡
建築面積
3,350.81㎡
延床面積
11,926.69㎡
竣工年月
平成30年1月
担当者
相本正浩 , 丸川景子