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高齢者

高齢者住宅とは何か -これからの高齢者住宅を考える- 濱田孝一

高齢者住宅とは何か -これからの高齢者住宅を考える-
日本シニアリビング新聞 顧問・
経営コンサルタント
濱田孝一
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1、高齢者住宅とは何か 2、高齢者住宅事業の特殊性とリスク

1-1 高齢者住宅とは何か

【商品・サービスとして見る高齢者住宅事業】

平成12年の介護保険制度の発足後、民間の高齢者住宅事業者が急増した。高齢者住宅ブームと言うべき現象だが、この8年の間にも、制度の変化によって、その『トレンド』は変化している。
最初の数年間は、新規開設される民間の高齢者住宅と言えば『介護付有料老人ホーム』が中心だった。介護保険制度までの有料老人ホームに見られた、一部富裕層の高齢者が悠々自適な生活を満喫するというものとは違い、介護が必要な高齢者がターゲットの中心となった。対象となる要介護高齢者の増加だけでなく、核家族化の伸展、特別養護老人ホーム不足等の要因が重なり、『介護が必要となっても安心』というネーミングイメージも重なって、介護付有料老人ホームの人気は高まった。
特に、都市部では、特定施設入居者生活介護の指定枠の争奪戦となり、その数は急増している。厚労省の調べによると2000年7月末では271カ所だった特定施設は2006年7月末には1,894カ所まで増えている。
しかし、平成18年に入ると、その状況は変化する。
特定施設入居者生活介護の増加が介護保険財政悪化の一因だとされ、施設サービスと同様に総量規制の対象となったことから、介護付有料老人ホームの新規開設を実質的に認めない都道府県が増えた。
また、同年、老人福祉法の改定によって、類似施設(無届施設)の見直しから有料老人ホームの届け出義務が強化されたが、国土交通省管轄の一定の水準を満たした高齢者専用賃貸住宅(以下、高専賃)は、その届け出義務から除外された。
介護や食事を提供しても、有料老人ホームとして届け出の必要がなくなり、登録だけで開設が可能となることから、この一定水準を満たし、将来的に特定施設入居者生活介護の指定も視野に入れた適合高専賃が急速に増えている。その他、最近は、関西のマンションデベロッパーを中心に、高齢者専用分譲マンションも増加している。
各所で高齢者住宅の開設セミナーが行われているが、これまでは『介護付有料老人ホーム開設セミナー』だったものが、『適合高専賃開設セミナー』『介護付から住宅型へ』というように変化している。
介護保険制度の発足以降、これまでの高齢者住宅業界は右肩成長を続けているが、その中身を見ると、介護保険法や老人福祉法等の制度変化によって、対象が次々と変化し、増加してきたと言える。

 しかし、このような事業計画の進め方には、問題がある。多くの事業者が『制度』と『商品』の違いを十分に理解せずに、参入する結果となっているからだ。
高齢者住宅は一言で言えば、『高齢者専用 生活サポートサービス付住宅』という商品だ。どのような高齢者を対象とするのかによって、どのようなサービスを提供するのか、介護保険をどのように利用するのかは変わってくる。それは、『どのようなニーズに対応するのか』『どのようなリスクが存在するのか』という商品設計・事業性検討の基礎となるものだ。
例えば、居住者(入居者)の権利として、最近増えている高齢者マンションの分譲方式、高専賃の賃貸方式、有料老人ホームの利用権方式のどの方式を取るのかによって、発生が予見されるトラブルや事業者が追うべきリスクは違ってくる。
また、どのように介護保険制度を利用するのかという点においても、現在の介護付有料老人ホームに適用される一般型特定施設入居者生活介護方式と、住宅型有料老人ホーム、高専賃などの適用される区分支給限度額方式によって、その基本となる介護システムは違ってくる。平成18年度の介護報酬改定で登場した外部サービス利用型特定施設の可能性も視野に入れなければならない。
そもそも『介護付有料老人ホーム』や『高専賃』というのは制度名称・カテゴリーであって、それ自体が一定の商品やサービス内容を示すものではない。特別養護老人ホームや老人保健施設などの制度によってサービス内容が定められた施設ではなく、事業者それぞれの創意工夫によって企画・開発・運営されるべき民間事業である。

どちらが優れているということではなく、重度要介護高齢者を対象とするのか軽度要介護高齢者を対象とするのか、現在、同一グループ内でどのような介護サービスを提供しているのかによって、メリット・デメリット・リスクは変わってくる。

特に、医療法人や社会福祉法人で検討されている計画を見ると、高齢者住宅を『制度』として捉えている傾向が強く、商品としての視点に乏しい。多くの場合、それは事業性・事業リスクの検討の甘さにつながっている。『どのように開設するのか』『(最低)基準として何が必要か』という施設的が中心となり、『独自にどのようなシステムを構築するか』という『民間事業』『売れる商品』としての視点が欠落しているのだ。
高齢者住宅や高齢者介護・医療に関する制度は、未だ流動的で定まっているものではない。後述するが、平成21年の介護報酬改定や総量規制の見直しでは、これまでと全く違う方向性が示されることになるだろう。『制度』に沿った事業計画は、制度変更によって立ち行かなくなる。また、制度に合致していると行政にお墨付きをもらっても、その地域の高齢者に選んでもらえなければ、事業は継続されないのだ。

『有料老人ホームか』『高専賃か』という制度的選択には全く意味がない。大切なことは『有料老人ホームと高専賃にはどのような商品的違いがあるのか』『その商品的違いから事業性はどのように変わるのか』という商品性・事業性の選択なのだ。

【有料老人ホーム・高専賃とは何か】

現在、高齢者住宅に関する制度は、厚生労働省の管轄する有料老人ホームと国土交通省の管轄する高専賃の大きく2つに分かれている。
有料老人ホームと高専賃の違いを整理しておこう。
有料老人ホームは、老人福祉法で以下のように定義されている。

有料老人ホーム(老人を入居させ、入浴、排せつ若しくは食事の介護、食事の提供又はその他の日常生活上必要な便宜であって厚生労働省令で定めるものの供与(他に委託して供与をする場合及び将来において供与をすることを約する場合を含む。)をする事業を行う施設であって、老人福祉施設、認知症対応型老人共同生活援助事業を行う住居その他厚生労働省令で定める施設でないものをいう。以下同じ。)を設置しようとする者は、あらかじめ、その施設を設置しようとする地の都道府県知事に、次の各号に掲げる事項を届け出なければならない。

少しわかりくいので、これを整理し直すと有料老人ホームの定義は以下のようになる。

  1. 高齢者を入居させ、食事・介護・家事援助・健康管理いずれかのサービスを提供している事業。
    (外部委託してサービス提供しているものも含む)
  2. 老人福祉施設・認知症高齢者グループホームではないこと
  3. 一定の基準に適合する高齢者専用賃貸住宅でないこと(その他厚生省令で定めるもの)
  4. 所有権を移転する分譲方式ではないこと(厚生労働省 有料老人ホームに関するQ&Aより)
    (平成18年6月20日 厚生労働省老健局担当者会議資料より)

有料老人ホームは、高齢化の伸展によって注目が高まっているが、昭和30年代からある古い制度だ。その目的は、老人ホーム事業は高齢者の生活の基礎となるサービスであり、届け出を義務化することによって、劣悪な業者を排除し、良好な居住環境を確保・維持させることにある。
元々は、①10名以上の高齢者が入居している、②食事を提供している、という2点の基準を同時に満たすものだけが届け出を義務付けられていたが、介護保険制度の導入によって、食事を外部委託にしたり、人数を9名単位にしたりと制度逃れの類似施設が乱立した。宅老所として小規模で地域密着で優良なサービスを提供している事業所もあるが、中には、劣悪な環境で入居者を生活させ、訪問介護サービスを利用させ、不当に介護報酬を請求するなどの事業者が現れることになる。

このことから、平成18年に老人福祉法の改正によって、有料老人ホームの規定は変更になり、人数要件は廃止、食事だけでなく、外部委託を含め、介護や家事援助、健康管理等のサービスを行う事業者は、有料老人ホームとして届け出が義務付けられることとなった。

これに対して、高齢者専用賃貸住宅の歴史は浅い。
この基礎となるのは、介護保険制度発足から一年後、平成13年に施行された高齢者の居住の安定確保に関する法律(以下 高齢者居住安定法)だ。
この法律が制定された背景には、高齢者は一般の賃貸アパートや賃貸マンションを借りるのが難しいという現実がある。特に独居高齢者は、認知症や孤独死などのトラブルから敬遠されており、新しい住居を見つけることは簡単ではない。そこで、高齢者の住宅探しを支援するために、『高齢者の入居を拒まない賃貸住宅』として登録制度を作ることになった。これがスタートだ。
高齢者の居住を拒まないとして登録されているのが、『高齢者円滑入居賃貸住宅』と言い、その中で、『高齢者の居住を拒まない』というだけでなく、『高齢者専用の賃貸住宅』として登録されたものを高齢者専用賃貸住宅(高専賃)と言う。誤解をしている人が多いが、高専賃は、高齢者が探しやすいように、事業者から見れば広告のために、単に『高齢者を拒みませんよ』『高齢者専用の賃貸住宅ですよ』と登録された賃貸住宅を指すもので、『これが高専賃だ』と建物や設備、運営内容について一定の基準を設定している制度ではない。

 このように、有料老人ホームと高専賃の制度は、基本的な成り立ちや目的は全く違う。本来、高専賃として登録していても、その運営事業者が食事や介護サービスを提供する場合は、有料老人ホームとしての届け出が必要となる。つまり、それぞれ独立した制度なので、高専賃の登録の有無に関わらず、食事や介護サービスを提供しなければ『有料老人ホーム』ではなく、提供するのであれば『有料老人ホーム』となる。基本的に『有料老人ホームか高専賃か』『どちらを選べばよいか』という議論は成り立たないはずだ。

しかし、この問題を複雑にしているのが『一定水準を満たす高専賃』だ。

【なぜ、高専賃が注目を浴びているのか】

 

 有料老人ホームと高専賃は、目的が違い独立した制度なのだが、なぜ、今、有料老人ホームではなく高専賃に注目が集まっているのだろうか。これには2つの理由がある。
一つは、有料老人ホーム届け出不要の『一定水準を満たす高専賃』の登場だ。

平成18年度に行われた老人福祉法の改正は、類似施設の廃止を念頭に置いたものだが、それと平行して、有料老人ホームに該当しないものが明確化された。その中で、特別養護老人ホームの福祉施設や認知症高齢者グループホーム等に加えて、『一定水準を満たす高専賃』が有料老人ホームの届け出が不要とされた。

一定の居住水準を満たす高齢者専用賃貸住宅(告示第264号)

  1. 住戸面積が25㎡(居間・食堂・台所等が共同利用のため十分な面積を有する場合は18㎡)以上
  2. 原則として、住戸内に台所・便所・収納設備・洗面設備及び浴室を有していること
  3. 前払い家賃を徴収する場合は、保全措置が講じられていること。
  4. 介護の提供・食事の提供、洗濯・掃除等の家事、健康管理のいずれかのサービスを提供していること

 この有料老人ホームの届け出義務がないということが、『開設のしやすさ』という面からクローズアップされることになる。

一定水準の有無

高専賃の登録

有料老人ホーム届け出義務

一定水準を満たす

高専賃の登録あり

届け出不要

一定水準を満たす

高専賃の登録なし

届け出必要

一定水準を満たさない

高専賃の登録あり

届け出必要

述べたように、有料老人ホームの目的は劣悪な業者を排除し、良好な居住環境を確保・維持させるという入居者保護にある。この届け出は義務規定であり、有料老人ホームの定義に該当する場合、届け出なければならない。また有料老人ホームには、建物・設備・スタッフ配置・運営方法などの最低基準を示した『有料老人ホーム設置運営標準指導指針』が定められており、新しく開設・運営する場合、この指針に基づき何度も事前に協議を重ね、指導を受けながら計画を進めなければならない。
これに対して、高専賃の基本は、『高齢者専用の賃貸住宅ですよ』と広報・情報提供するための制度であり、その登録は任意である。特別な審査や協議は必要なく、また細かな運営規定もなく、自動的に登録される。ここに行政の意向が働く余地はない。一定水準を満たした高専賃の場合、食事や介護等のサービスを提供しても、この届け出や『有料老人ホーム設置運営標準指導指針』に基づく事前協議が必要ないということだ。
もう一つのポイントは、特定施設入居者生活介護の指定を受けることができる『適合高専賃』だ。
この『一定水準を満たす高専賃』は、平成18年に、老人福祉法の改正によって、有料老人ホームの届け出が不要になっただけでなく、同年の介護保険制度の改正の中で、有料老人ホーム、ケアハウスに限られていた特定施設入居者生活介護の指定対象に、含まれるようになった。この特定施設入居者生活介護の指定を受けた高専賃を『適合高専賃』と言う。
つまり、適合高専賃とは、介護付有料老人ホームのように、事業者の責任で介護サービスが提供できる『介護付高専賃』と言うべきものであり、重度要介護高齢者に対する住居としての道も開かれた。加えて医療法人は、有料老人ホームだけでなく、この適合高専賃も運営することが認められている。

このように、一定水準の高専賃は『新規開設のし易さ』という側面から見た場合、事業者の利益に合致すること、特定施設入居者生活介護の指定を受けることができることから、『これからは高専賃の時代』『有料老人ホームから高専賃へ』というイメージで捉えている人が増えているのだ。

【有料老人ホームか、高専賃かのポイント 1 】

 

 最初に述べたように、高齢者住宅は一言で言えば、『高齢者専用 生活サポートサービス付住宅』だ。『有料老人ホーム』と『一定水準の高専賃』の制度の成り立ち、目的の違い等について述べてきたが、ここからは以上の点を踏まえて『有料老人ホームと高専賃にはどのような商品的違いがあるのか』『その商品的違いから事業性はどのように変わるのか』という点を整理しておきたい。
商品性・事業性から見た有料老人ホームか高専賃の違いは大きく分けて4つある。

 一つは、『届け出』か『登録』かということだ。
前のコラムで述べたように、有料老人ホームの『届け出』と高専賃の『登録』という言葉には、大きな違いがある。 
例えば、高専賃を計画・建設する場合、一般的な建設関係の行政協議が終われば、すぐに建物を建設し、開設することが可能となる。登録は開設後でもかまわない。これに対して、有料老人ホームの場合は、土地を購入しても、有料老人ホーム届け出のための行政協議が別途必要なため、それだけ余計に時間がかかる。特に、銀行等から土地の購入資金を借入している場合、このタイムラグは、収益性や入居者の管理費・家賃(居室等の利用料)にダイレクトに影響する。逆に、行政協議の進み具合を見ながら土地を探すと、購入のタイミングを外してしまうことになる。不動産事業は『タイムイズマネー』であり、その金額は非常に大きくなる。

 2点目は、『利用権』か『借家権』か、という居住者(入居者)の権利の違いだ。
有料老人ホームには、利用権方式(利用権)という契約内容を選ぶことが認められている。利用権方式は、居室を買ったり、借りたりするのではなく、その居室と共用部分、設備等を利用する権利を購入するという独自の方式だ。これに対し、高専賃は、賃貸住宅であるから、利用権方式の契約は認められていない。ない。前述の『一定の居住水準を満たした住居』であっても、利用権方式の契約内容の場合、高専賃として登録できず、有料老人ホームとしての届け出が必要となる。

この利用権と借家権は、居住者の権利として並列されているが、基本的には全く違うものだ。
借家権は、借地借家法という法律に守られた権利であり、居住の安定性を図るという観点から、居住者(つまり借家人・入居者)が強く守られている。これに対して、有料老人ホームの『利用権』は、事業者の入居者の間で交わされる契約書の内容に基づく権利だ。つまり、これは法的に認められた権利ではなく、有料老人ホームの契約書毎に、その内容が変わるという曖昧な権利だ。
この違いは、実際の事業経営には大きな影響を及ぼす。
例えば、有料老人ホームの利用権契約では、契約書の中で事業者側から契約を解除する条項、つまり退居を求めるケースが定められている。多くの有料老人ホームでは、認知症トラブル等で通常の介護サービスでは対応できないと判断される場合、ホームから退居を求めることができる契約となっている。保証人と協議の上、系列の介護付有料老人ホームや、認知症高齢者グループホーム等に転居してもらうことも可能だ。これに対して、高専賃の借家権は、本人が拒否した場合、事業者から契約解除・退居を求めることは難しい。『認知症の問題行動が発生し・・』『通常の介護方法では・・』等という入居者に不利益となるような契約は、借地借家法でその部分がすべて無効とされるからだ。
確かに、事業者本位で策定される利用権という権利には問題が多い。
借家権の場合、所有者(つまり事業者)が代わっても、借家権は引き続き主張できるのに対し、利用権は契約した事業者が倒産すれば消滅する。新しい事業者に追加の入居一時金を求められたり、退居を求められてもそれまでの利用権は主張できない。高額の入居一時金を支払って、利用権を購入するという方式が多いこと、倒産ホームやM&Aが増えていることを考えると、その課題は大きい。そのため、高齢者住宅業界では、所有権が得られる高齢者分譲マンション、借家権の高齢者専用賃貸住宅など、居住者の権利が強い住宅への移行を歓迎する人もいる。
ただ、この利用権という権利に問題があるということと、高齢者住宅に一般の借家権が相応しいかどうかは
別の問題だ。
有料老人ホームや高専賃が急増し、高齢者の住居として一般化されつつあるが、その根本となる居住の権利整備は、法的に全く進んでいない。また、高齢者住宅を対象とした終身建物賃貸借契約制度が借家権の特例として認められているが、認可制度であることからほとんど利用されておらず、また、高齢者居住の特殊性からみた居住権のあり方が検討されたものではない。
一般の借家権は入居者が亡くなられても自動的に消滅する訳ではなく、相続の対象となることや、一人の入居者のトラブルやマナーが原因で、他の入居者の快適な生活を脅かす可能性も否定できない。

高専賃は『早めの住み替えニーズへの対応』等と言われているが、入居者が元気な高齢者を対象としている場合、予想される認知症のリスクやトラブルはより大きなものとなる。借家権の場合、事業者により難しい対応が求められるということは理解しておかなければならない。

【有料老人ホームか、高専賃かのポイント 2 】

 

 商品性・事業性から見た有料老人ホームか高専賃の違い、三つ目は『利用料』か『家賃』かの違いだ。
この利用料と家賃については、どちらも『住居・住宅サービス』に対する支払いというものだが、ここで言う利用料は『利用権』に対する支払いを示し、家賃は『借家権』に対するものとして定義しておきたい。
実は、この言葉の違いは、あまり整理されておらず、その言葉は、様々に使われている。入居一時金で支払うものが利用料で、毎月支払うものが家賃だと解されているものや、また利用権、借家権に関わらず有料老人ホームは利用料で、高専賃は家賃だという整理をしているものもある。しかし、少数だが有料老人ホームでも借家権を採るものはあり、最近は、高専賃でも家賃の前払いとして入居一時金を徴収する事業者もでてきている。
この定義が正解だと言うつもりはないが、その違いを明確にしておきたい理由は、それぞれの事業性に関わってくるからだ。

 今後、絶対的に不足すると考えられているのが、中間層や低所得者層を対象とした高齢者住宅だ。
団塊の世代の高齢化が進むと、特別養護老人ホームの待機者は増加し続け、その門戸が更に狭くなっていくのは間違いない。現在は、重度要介護高齢者、独居高齢者優先と言われているが、その対象者はこれからも増加しつづける。今後は家族による高齢者虐待も増えてくると予想されており、その緊急避難場所としての役割も大きくなる。その対象となってもなかなか入所できない、また、それ以外の高齢者は、現実的に困っていてもほとんど入居できないということになる。
その結果、自宅での一人暮らしは難しく、かつ行き場のない中間層や低所得者層が急増する。その受け皿として期待されるのが社会福祉法人や市町村(三セクなど)が運営する価格を抑えた高齢者住宅だ。
低所得者も含めた高齢者住宅を検討する場合、この『利用料』と『家賃』では扱いがかわってくる。
低所得者に対する高齢者住宅を考える場合、賃貸住宅の『家賃』は生活保護(住宅扶助)や家賃補助の対象にはなるが、利用料ではその対象とならない。中間層や低所得者を対象としていても、その役割が限定されることになる。
『特養ホーム』の待機者を対象とした低価格の介護付有料老人ホームが増えているが、特養ホームの待機者がその有料老人ホームに入居するというのはごく一部に限られる。新型特別養護老人ホーム13万円程度、旧型特別養護老人ホーム6万円~8万円程度と言っても、その月額費用は収入によって減額されている。特に、生活保護世帯や市町村税の非課税世帯の高齢者の支払いは小さなものだ。逆に介護付有料老人ホームで15万円~18万円程度と、表面的にはそれほど大きな違いはなくても、毎月その金額を支払い続けられる人は総多くない。低所得者も含めて対象とする場合、ある一定の低所得者対策が可能か否かは、入居者選定だけでなく経営的にも大きな違いがでてくるのだ。
これは、高齢者安定居住法の高齢者向け優良賃貸住宅(以下、高優賃)の考え方に近いものだ。高専賃の一つで、家賃補助や建設費補助等が受けられることから一時期脚光を浴びたが、知事の認定が必要であることから、あまり増えていない。各都道府県でその取り扱いの違いや認定枠もあるだろうが、社会福祉法人が開設を検討する場合、高優賃の認定を受けることも検討すべきだろう。
高優賃の認定を受けられるか否かに関わらず、中間層・低所得者を対象とした他制度の利用と言う面からは、利用権に基づく利用料と借家権に基づく家賃との間には、大きな違いがあると言うことを理解しておかなければならない。

 4点目は、建築上の違い・人員配置の違いだ。
有料老人ホームは、建築基準法上は一般的に共同住宅ではなく福祉施設として扱われる。居室の広さは13㎡以上と小さくて良いが、『有料老人ホーム設置運営標準指導指針』の中で、スプリンクラーや消火設備の他、食堂や医務室、談話室などの設置が求められる。
これに対して、高専賃は共同住宅として取り扱われ、階段や廊下などの共用部分を容積率から除外できる。また、述べた『一定水準を満たす高専賃』も同様で、先に述べた、①面積が25㎡(居間・食堂・台所等が共同利用のため十分な面積を有する場合は18㎡)以上、②原則として、住戸内に台所・便所・収納設備・洗面設備及び浴室を有していること、という水準を満たせば、それ以外の設備の設置は義務付けられていない。
これは、人員配置についても同様のことが言える。介護付・住宅型に関わらず、有料老人ホームには、指導指針の中で施設長、看護師などの配置が義務付けられているが、高専賃はこれらの規定はない。加えて、有料老人ホームの場合は、届け出だけでなく、運営について立ち入り検査等が行われるが、『一定水準の高専賃』の場合は、これらの検査・監査は行われない。
これは全体を通して言えることだが、根拠法の趣旨の違いから、有料老人ホームと比較すると、高専賃は行政が関与する度合いが低い。その分、運営の自由度は高いと言えるだろう。

 

有料老人ホーム

一定水準高専賃

根拠法

老人福祉法

高齢者居住安定法

法の目的

入居者保護

情報提供

建築法上

福祉施設

共同住宅

居住者の権利

利用権選択可能

借家権のみ

行政の関与

届け出(強)

登録(弱)

設置運営基準

有料老人ホーム
設置運営指導指針

特になし

低所得者対策

不可

可(住宅扶助等)

【高齢者住宅の方向性・事業性をどのように見るか】

ここまで、現状の制度において『有料老人ホームと高専賃にはどのような商品的違いがあるのか』『その商品的違いから事業性はどのように変わるのか』という商品性・事業性の違いの簡単に述べてきた。制度変化に振り回されて、『適合高専賃でも有料老人ホームと同じようなものができる』『これからは高専賃の時代』と詳細な検討をせずに進むことは、その事業の可能性を小さくしてしまうということが、ご理解いただけるだろう。

 多くの計画者に欠けている視点、これからの制度検討・事業計画を推進する上において、頭に入れておかなければならないポイントを2つ整理しておく。
一つは、現在の制度は、未だ流動的でこれからも変わっていくということだ。
現在の高齢者住宅に関する制度は、長期的に計画されたものではなく、その場限りで何ら整理されているものではない。同時に現行の諸制度は非常に問題が多い。
有料老人ホームの届け出が進まないばかりか、『一定水準の高専賃』はその届け出すら不要となった。これでは、平成18年に行われた入居者保護の強化を目的としたの法改正は全く意味がなく、逆に悪徳業者に『届け出不要』のお墨付きを与えるだけの結果となっている。これまで、急増した有料老人ホームには新規参入業者が多いため、玉石混淆と言われておりトラブルも多いが、事前協議すら行われない高専賃はその比ではない。これらの民間の高齢者住宅の倒産・トラブルが多発し、大きな社会問題となることは間違いない。
現状においては、『行政関与が弱い』ということが、大きなメリットのように捉えられているが、トラブルや倒産が増えると、監査・指導体制は必ず強化される。
読売新聞の調査によると、一定水準を満たさない高専賃で、介護や食事などのサービスを提供しながら、老人福祉法に基づく有料老人ホームとしての届け出していないものが、住宅が全国で約4400戸にのぼると報道している。これら無届施設は悪徳業者のように言われているが、平成18年まではこれらの多くは法的に認められてきた。問題があったものも少なくないが、小規模な宅老所として地域の高齢者から信頼されているものも多い。法改正によって、届け出が義務付けられたこれらの宅老所が届け出を行っているが、『有料老人ホーム設置運営標準指導指針』することが求められるため、大幅な事業計画の変更が不可欠になっている。制度変更によって、これまで行ってきた経営手法は認められなくなっている。
これは介護保険制度についても同様だ。詳細は『介護保険と介護システム』で述べるが、次回、平成21年の介護報酬改定で、高齢者住宅に対する介護報酬は大きく変わるだろう。区分支給限度額方式をとる住宅型有料老人ホームや高専賃の介護システムを変更しなければならない可能性が高い。
つまり、『介護付有料老人ホーム』『適合高専賃』等の現行の制度は、まだ流動的だということだ。問題があるところは今後も改正されていき、その過程で事業者の不利益になることは多い。現在の制度ではなく、制度上の問題点、社会情勢の方向性などを見据えていなければ、長期安定経営は難しいということだ。

 もう一つは、最低基準や行政関与が弱いということに過度のメリットを求めないということだ。
これは施設的考えから抜け出せない医療法人や社会福祉法人だけでなく、最近は民間企業でも蔓延しているようだ。
一定水準の高専賃に人気が集まっている最大の理由は、『有料老人ホーム設置運営標準指導指針』に縛られず、行政の関与も低いということだ。第一の理由として挙げたように、事前の行政協議が不要なため、開設までのスピードが速くなり、経営収支の面からもメリットがあることは確かだ。
しかし、有料老人ホームにしろ、高専賃にしろ、長期安定経営が不可欠であるが、実績値は乏しく、他に類例のない難しい事業だ。開設することだけが目的なのであれば、高専賃が相応しいが、長期安定経営のためには、事業性や事業リスク、将来性など、時間をかけて考えなければならないことは多い。『早く開設できる』ということに、過度にメリットを求めることはやめたほうが良い。
また、『有料老人ホーム設置運営標準指導指針』に縛られることを嫌う事業者もいるが、この指導指針は、有料老人ホームに求められる『高い水準』と言うよりは、高齢者の生活に適した住居水準や長期安定経営に不可欠なポイントを列挙しているにすぎない。この最低限の基準の必要性すら詳細に検討できないのであれば、高齢者住宅としての安定経営は不可能だといっても良い。
ただ、一定、与えられた経営環境の中で選択する場合、どちらの制度が相応しいかというケーススタディはある程度、出揃ってきたように思う。その内容については、後述する『事業モデル検討』で、考え方、事業シミュレーションを紹介するが、それぞれの制度のメリット・強みをどのように活かすのか、デメリットや弱点をどのようにカバーするのかは、全て事業計画にかかってくる。
そもそも高齢者住宅事業は、一律の設置運営基準によって運営される福祉施設ではなく、事業者の相違工夫によって運営されるというのが基本だ。制度の最低基準が基礎となった計画では、事業性や商品内容という視点が、最初の段階で欠落するために、『適合高専賃らしい高専賃』という横並びの施設的商品しか作れなくなる。制度の基準に合致していても、高齢者や家族に選んでもらえなければ意味がない。
高齢者住宅の検討は、『どのようなニーズに対応するのか』『どのような事業となるのか』という視点で商品設計・サービス設計をしなければ、長期安定家経営は望めないのだ。