設計コンセプトConcept

精神科

未来を拓くリニューアル

■精神科病院にリニューアルが必要な理由

10数年ほどさかのぼると、長期入院を前提とした精神医療から、急性期治療病棟・救急入院病棟など、より急性期治療に特化した医療を目標とした施設形態が求められていました。その後、疾病構造の変化も相まって、うつ気分障害などのストレス疾患などの患者の増加、また、さらなる高齢化の進行による認知症患者の急増など大きく変容しつつある精神科医療に対応した建築設計が求められています。この理由は、次の2つに大別されます。
A.耐震基準の向上に伴う建築構造や耐火性能や環境基準等の引き上げから建築基準法上必要となる機能性向上のためのリニューアル
B.廊下幅や病室面積などの法制度基準の改定はもちろん、医療法上の必要性や患者やその家族に対する社会的要請としての機能性向上
以上のABの要請がありますが、次に精神科特有の状況もあります。

■リニューアルの必要性は待ったなし…精神科病院はリニューアルが遅れている

昨年秋には、2000㎡を超える病院に対し、行政よりシックハウスの調査報告の依頼がありました。また、5000㎡を超える病院の耐震診断義務化による調査結果の公表がそろそろ実施される流れです。これらの建築基準法上の対応に加え、30年度の医療法改正に向けた検討や社会復帰支援病床新設などの検討が言われています。
精神科病院は機能向上の点で遅れている病院が多いのが現状です。嘗ての精神科特例制度により数的な充足が図るため、機能性向上の順位が低かったことも一要因です。また、精神科病院の診療報酬が他科とくらべ低いことも挙げられます。しかし、長期入院生活の精神障害者の社会復帰、入院治療中心の医療から地域生活を支える医療への転換の掛け声の高まり、また、都市化、情報社会化により他の新しいデザインの病院との比較から、社会のニーズに合致し競争力を持つ病院とするためリニューアルに踏み切る必要性が大きくなっています。
ここでは、精神科のリニューアル設計の方法を事例に即してご説明いたします。

■リニューアルの手法

リニューアルには建替え、増改築、模様替えの3種類がありますが、どれを選択するかは目的と病院の状況によって変わってきます。その考え方を紹介します。

①目的が何かを整理する

目的はその殆どが複数で、軽重があります。また誰にとっての目的であるかを考えることが施設の性格付けに大切です。例を挙げると、
・耐震化等建築機能向上(老朽化改善・シックハウス改善・長寿命化)
・床面積増加による機能向上(使い勝手・病棟・外来他機能)
・魅力度向上(内外装のデザイン・治療環境生活環境)
・病院設備機能向上(設備機能・省エネ機能・情報機能等)
・収支改善などです。
また、誰のための目的かというと、病院経営者・医師看護師・従業員・コメディカル・患者・家族・地域社会等です。

②リニューアルの手法を検討する

目的を明確にしたら、次はそれに適した建替え・増改築・模様替えなどのリニューアル手法を選択し、詳細な方法を決定していきます。ここでは、建築基準法・都市計画法など関連法規の制約上可能な方法で想定できる事業規模、工程、病院機能継続などに照らして最適な解を決定します。

③具体例の紹介 【A:建替えによる全面リニューアル】
④具体例の紹介【B:増築による部分的リニューアル】
⑤具体例の紹介【C:模様替えによるリニューアル】

A.Bのように建替えや大面積の増改築が不要の場合、また、法的な制限等で増改築が容易でない場合は、建物の躯体をそのまま残した内装・設備のみの模様替えという手法がある。この場合、法的に「大規模な修繕・模様替え」に当たる工事になる場合は、建築基準法上の確認申請が必要となり法的に不可となる場合もある。その場合、「大規模な修繕・模様替え」に当たらないように規模や箇所を調整した改修工事とするケースもある。いずれの場合も閉鎖病棟の増改築では工事の手順や出入口について工夫が必要になる。

■まとめ

病院建築は、今まで法制度改正や社会のニーズの変化に対応してめまぐるしい変化の波にもまれてきました。このため、長期に医療を行なわれてきた病院でリニューアルをされていないところは無いといって良いくらいです。そういう意味では、必然的に新時代に適応を目指した病院建築が指向されまた、そのための努力が重ねられてきているのです。精神科病院も、精神科特例などの過去の制度からの脱却や、疾病構造の変化などから病院としてのあり方の変化への対応、また、法制度改正による建築そのものの改変の必要性からリニューアルが進んできています。ただ、医療法、建築基準法などの改定は医療経営にとって必ずしも順風ではなくコスト増を招くものでもあり、慎重な検討が要求されています。しかし、施設の老朽化や時代に合わない建築の陳腐化などは、リニューアルまったなしという状況を生み出しています。本稿の未来を拓くリニューアルは、私どもの精神科病院のリニューアル設計の経験から、皆様に知っていただきたい考え方、注意点をまとめたものです。皆様の抱えておられる状況、課題に合致すればとなるべく多くの事例をご紹介しましたが、これらの課題は病院様それぞれに異なるものであると思います。その課題や問題点を解決し、意義あるリニューアルを推進していただくため前に向かおうとされている精神科病院様に建築設計者として同じ地平で考え、悩み、提案することで支援をさせていただきたいと考えています。

【参考】