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精神科

建築家と精神科病院の設計  ~保護室編1~

  • 2007/11/29
  • 精神科

担当者会議の第1回目のテーマは保護室です。         

 保護室とは、興奮状態で自傷、自殺、また他に危害を加える恐れがある患者を必要な期間隔離する部屋です。これらの目的を達成するための工夫がなされています。

 10年ほど前に、初めての精神科病院設計に先立って保護室を見学したときには複雑な気持でした。かなり古い設計の保護室は、のっぺらぼうな内装の部屋で、鉄格子がはまり入り口がある廊下と窓側の監察廊下から看視できるようになっています。室内のWCは金隠しのない、床に穴を開けただけの便器があり、これも外部から看視できる場所にあります。およそ、快適性や庇護感のない無機質な部屋です。天井は高く、寒々としていて早く離れたいような気持ちでした。

 全ては、自傷・他害を防止する機能的要請からでたもので、興奮した患者は、衣類やシーツの類を解き、サッシのクレセントや家具などの数10センチ程度の高さにある出っ張りに掛けて首を吊る。天井の照明器具を壊し、破片で手首を切るなどの説明でした。

 鉄格子はその後廃止され、その他建築材料の開発などから、強化ガラスの採用やFRP製の洋風便器などが使われるようになりました。しかし、精神科救急を行う病院などで重篤な患者を受け入れる場合は、看護職員の安全のために扉には食事を供給する小窓が付くなど収容型の保護室が必要とされています。

 ただ、精神科救急を行う病院はそれほど多くなく、多数の民間精神科病院では、精神療養病棟やストレスケア病棟など比較的穏やかな患者さんが、一時的な病状が納まるまでの病室として機能を考えることが多くなりました。もちろん重篤な患者さんのための保護室も必要で、このような保護室のあり方や設計内容はわれわれも研究課題としていますが、ストレスケア病棟に設ける保護室群を御紹介いたします。

 ストレスケア病棟及び一般的な急性期病棟の保護室では窓側の観察廊下は設けていません。
レイアウトとしては、入り口側にWCを設けているケースと、窓側の場合があります。窓側に設けるのは、入り口側からの観察の容易さ確保からですが、ここでは入り口側の例を紹介します。室内は、今までの保護室で行われている工夫は一通り行います。高い天井高は圧迫間を減じることと照明器具などの破壊や紐を掛けることを防ぐものでもあります。壁、床はクッション製のある材質とします。木製の壁材がよいと考えますが、コストを抑える場合は床ビニールシートを壁材とすることが多いようです。

 WCは悩むところですが、今回は看視を行いません。入り口部分にマンション住戸の玄関風スペースに洗面台を設けています。この部分は中の居室部分と扉で区画され、患者の状態により使い分ける構成としています。状態が悪い場合は、この玄関風スペースは区画して、患者の使用を禁止します。状態が良い場合は、患者は区画の扉が開けられ、洗面を使うことが出来ます。

 このように患者の状態により使い分けを行い、良い場合には少しでも居室の快適性とプライバシーの確保を付与しようとしています。

ファイル 14-1.jpg

 この計画では保護室(個室)は8室あり、中央にデイルームを設けています。状態が良い場合の使用に備えていますが、これらの保護室を一般の個室病室として使おうとの考えが根底にあります。

 保護室は、通常許可病床数とは別に設置します。長期に在室するところではなく、一時的な利用の部屋ということです。しかし、このことは病院にとっては収益減を意味します。そこで必置保護室以外の保護室は個室病室として利用できるようなプランの工夫が有効となるのです。ダイナミックに、保護室群を途中で間仕切り、保護室と個室利用の部分を区分けすることも可能です。このような工夫は、バックベッド問題を解消する病院経営上の利点もありますが、保護室のやわらかい利用方法が必要になっている医療の状況の反映でもあるのです。

 実際にお付き合いをいただいている精神科病院では、日ごろストレスの多いエグゼクティブが週末に保護室入院し、月曜日に業務に出てゆくというケースがあるそうです。この計画でも若い男性サラリーマンの鬱病棟への入院も期待され、収容から孤独の時間によるケアを提供する病室としての保護室の創出が目論まれています。そのような観点からの内装を検討しています。 

● 建築家と精神科病院の設計では、私たちが企画 設計監理の過程で悩み考えたことを発信しています。御意見を是非お寄せください。

衛藤照夫 / 一級建築士
mail:eto@eusekkei.co.jp