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高齢者の住まい講座第9回 黒澤隆 住宅の逆説に学ぶ

  • 2008/06/01
  • 高齢者

高齢者の住まい講座 第9回 黒澤隆に学ぶ

砂山憲一

黒澤隆といって、すぐわかる方は50歳代以上の建築を勉強された方です。
「住宅の逆説 あるいは技術思想としての居住」というなんともいえない魅力的なタイトルの本を覚えている方も多いでしょう。しかも出版社が「レオナルドの飛行機出版会」です。
昭和51年に「住宅の逆説 生活編」が出版され、昭和54年に「住宅の逆説  匠編」が出版されています。今から30年ほど前です。

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私はこの2冊に大いに触発されました。日本とヨーロッパの便所の違いを知ったのもこの本ですし、洗濯機がどこにおかれるか考えたのもこの本でした。目次には魅力的な言葉が並んでいます。
便所 「便所は誰でもこぼす」
   「小便器はもう要らない」
洗面所「洗面所は裏部屋ではない」
   「顔の洗い方と混合水洗」
居間 「それは茶の間でも応接間でもない」
   「家計簿はどこでつけるのか」

黒澤さんは住宅について、そこで行われる生活とそれを実現する技術に切り込んでいきます。住宅で使うことのできる製品を詳細に調べ研究していきます。

黒澤さんの考えは「生活、文化、技術。」と題された序によく現れています。少し長いですが、一部を紹介します。

「住宅は生活の容器です・
容器の論理―建築学―の立場だけで、なかなか住宅を見抜けないのは、中身としての生活が抜け落ちやすい、容器だけに関心が集まりやすいからです。むしろ生活そのものに視点を移したほうが、だから、まだしも住宅を見抜けます。
しかし、生活に関心が集まれば集まるほど、人々はなぜそのような生活をしているか知りたくなります。つまり、場所が変わるとなぜ生活は違うのか、時代が違うとなぜ生活も違うのかという不思議さと同じように、いまなぜこのような生活をしているのか、この生活をきめているのは何だろうかが、にわかに気になりだします。―略―
生活は社会によって規定され、技術によって構造を得る事は確かですが、こういう因果関係の中から今日の日本における生活のあるべき姿、それはより明確になるはずです。
ここでいう社会とは、ある場所におけるある時代の社会関係、つまり生産のあり方や組織、また風土文物とかを指しています。しかし、生活はそうした社会によって規定されていると同時に、いちいち具体的な物質が介在し、それによって成立していることも事実です。其の物質を作り出すのが技術ですから、直接には、生活は技術によって構造を得ています。それぞれの社会における技術水準や技術のあり方がまたきわめて具体的に生活を構造付けていることはいうまでもありません。
そういう生活という実像をうきぼりにする社会と技術の全体を、われわれは文化と呼びます。」

どうですか。私は高齢者の住まいも、黒澤隆さんが30年前に行った検討を早急に行わなければいけないと考えています。

このブログで、ユニットバスや床材などの検討を始めているのも、この考えに基づいています。

高齢者の住まいは特養の焼き直しとワンルームマンションの焼きなおしに大別されます。
黒澤隆さんたちが、個室を研究したように、高齢者の住まいの個室を研究しなければいけません。行政主導できめられた特養の居室に引きずられてはいけません。30年前に、個室には何着の服があるか研究したように、高齢者は何着の服を持っているか調べなければいけません。音楽も聴くし、電話もかけるし、そこで行われる生活をはっきりさせ、それを実現する製品を調べましょう。

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さらに、高齢者の居室は住み手の変化にどのように対応するか、考えなければいけません。それもコストを考えてです。コストに注目すれば、現在安価で手に入る製品の調査見極めが大事になります。

私たちは、介護システムと、建築・設備システムを総合的に考えた高齢者の住まいを日本シルバーリビング新聞と共同で開発しています。
高齢者の住まいを支えるのは、建築の技術だけでは無理です。介護のシステム、それも高齢者の状況によって可変対応のできるシステムと一体となって、つまり、建築システムと介護システムの両方の技術がそろって、はじめて、黒澤隆さんのいう「生活は社会によって規定され、技術(建築・介護)によって構造を得るのです。」

これから数回、住まいの建具について書きます。高齢者の住まいはなぜ引き戸を使うのでしょうか。ヨーロッパの高齢者の住まいは、ほとんどが開き戸です。」