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時空読本 / No.09

60代をどのような住居で過ごしますか

  • 2001/01/01
  • 時空読本
  • No.09

2001年はベビーブーマーが55歳を迎える年です。日本では団塊の世代というと昭和22年から25年までをさしますが、アメリカでは1946年から1964年までの世代を一つの塊としてとらえます。この世代は日本でもアメリカでも大きな消費世代として、生まれたときからその成長に応じて、様々な流行を作ってきました。
日本では55歳といっても特別な区切りではありませんが、アメリカでは仕事をリタイアし、次の生活に切り替わる節目と捉えられています。日本では60歳の定年を迎えるということになるでしょうか。この節目は住まいを考える上でも重要な要素となります。
これまで日本では高齢者の住居という時、体の不自由な方の住居を意味し、又社会的な施設も体の不自由さに応じて整備されてきました。
日本では退職することが社会からの引退を意味し、「体の弱った老年になる」という風に捉えられていましたが、実態は60代といっても元気な方の方が圧倒的の多いのではないでしょうか。
しかし、子育てを終わり仕事を退職したベビーブーマー世代がどのような生活を選択するのか、この元気な60代、70代の方がどのように住むかということはこれまであまり注目されてきませんでした。



そのような中で最近マスコミにも取り上げられ、一般の方の興味を引き出しているものに、アメリカで発達したリタイアメントコミュニティーの存在があります。リタイアメントコミュニティーはその名が示すように、退職された方を居住者とする町で、多くは55歳以上を居住の条件としています。
ところがこのリタイアメントコミュニティーが日本に紹介されると、老人タウンと訳され、老人ばかりが集まって住む町として理解されていますが、正確には「元気な退職者の町」と言うべきです。最近は、リタイアメント・コミュニティーというより、アクティブ・アダルト・コミュニティーという言葉が使われています。
アメリカで最初にこのような居住者の年齢制限を設けた町を作ったのはデルウエッブ社で1960年のことでした。デルウエッブ社が最初に実現した、サンシティーアリゾナを例にとって内容を簡単に説明します。
●サンシティーアリゾナに住むためには、家族のうち一人が55歳以上で、他の人は19歳以上が条件です。但し住宅を購入することに対しての年齢制限はありません。サンシティーアリゾナでは子供の短期滞在に関して特に規定はありませんが、最近開発されているサンシティーアンセムでは一年間に最大90日という規定を設けています。
●サンシティーアリゾナの人口は4万5千人です。小さなコンドミニアムが45、000ドル、小さな住宅が55、000ドルで購入でき、高いものはゴルフ場や湖に面したものが200、000ドルします。デルウエッブ社と別の開発会社の例を取っても3ベッドルーム付きの住宅で15万ドルから25万ドルというところですから、同じような水準です。この顧客層についてデルウエッブの想定は、25万ドルが現金で払えて、退職後も年間800から1、000万円の収入のある人ということです。


●一般にリタイアメントコミュニティーはゴルフ場を住宅敷地内に持っています。その他にプールや趣味のための施設を完備しています。退職後ゴルフ場を持った住宅地に住むことは、私たちの想像以上にアメリカの人達の夢のようで、アメリカのリタイアメントコミュニティーの最大の特徴になっています。
●サンシティーアリゾナもアンセムも敷地の出入りは自由ですが、別の開発事例であるレジャーワールドは敷地を塀で取り囲み出入りを監視しています。この住宅地内の安全性もリタイアメントコミュニテイーの大きな特徴になっています。レジャーワールドは人口4、500人ですのでこのような監視もできるのですが、デルウエッブ社の考えはこのように同じ階層の方が集まって住むと犯罪は起こらないしこの40年間の実績でも大きな犯罪は全くないとのことです。
このサンシティーが日本に紹介されるとき、批判的な論調が多くありました。その中で指摘されたのは老人たちだけで住むことの不自然さです。住まいというのは子供からお年寄りまでいてはじめて成り立つもので、サンシティーを見学した人達の感想には、町の静けさを異様に感じるというものが多くありました。
しかしこの老人が集まって住むことに対しては多くの誤解があります。まずアメリカの多くのリタイアメントコミュニテイーは体の不自由になった老人の方を対象にしているのではないということです。居住条件は55歳以上となっていますが、最新の開発例であるサンシティーアンセムでは、町の中に特に専用の病院があるわけでもなく、又介護のサービスは一切ありません。つまりリタイアメントコミュニティーは自立して生活できる55歳以上の方の町です。子供のいない町はおかしいという点について、デルウエッブ社はその開発コンセプトを次のように述べています。
「アメリカ人の80%は退職後子供と一緒か近くに住みたいと思っています。但し20%は子供と一緒に住みたいと思っていません。サンシティーはこの20%の方たちを対象とした住宅地です。子供と一緒に住みたい方には別の分譲地を用意しています。」
この住宅地の対象者を絞り込むという発想は、絞り込まれた住宅地を組み合わせて、その価値をより高めるという風に展開されています。
サンシティーアンセムは対象を分けた三つの地区から構成されています。これまでと同じ発想で55歳以上という年齢制限をつけて作られているサンシティーコミュニティー、全く年齢制限の無い比較的安価で最初に購入することを想定したコベントリーコミュニティー、同じく年齢制限はなく、住宅の値段が50から100万ドルするカントリークラブコミュニティーです。
このサンシティーコミュニティーは、一万戸の住宅を予定しています。しかし、医療施設や福祉施設は近郊にはありますが、この敷地内にはなく、また開発会社も住宅地の介護内容を売り物にしようというコンセプトは全くありません。ここが日本で考える場合の高齢者用住宅地というものと違うところです。
それでは体が不自由になった場合どのようにするのでしょうか。多くの方は住宅を売却し、状況に合った施設に入居します。その住宅地によって違いがありますが、購入価格の80%以上で売却が可能なようです。サンシテイアンセムの場合、不動産のリセール価格は購入時よりも上昇しています。従って一生ここで住むという考えは購入者にはありません。



日本では高齢者の住居はどのような状況でしょうか。アメリカのリタイアメントコミュニティーのように元気な高齢者という発想で計画されたものは全く無いといってもよいでしょう。
国からの補助金を得て計画されているものはすべて体の不自由になった方を対象にしています。有料老人ホームは元気な方を対象にしていますが、事業者も入居者も最大の関心事は体が不自由になったり、痴呆の症状が出た場合、どこまで面倒を見てもらえ、その費用はいくらかということです。強いていえばケアハウスが比較的元気な方を対象にし、体が不自由になれば別の施設に移るというコンセプトにアメリカのリタイアメントコミュニティーに通じる考えが見られます。
日本でもバリアフリーを考慮した高齢者が住みやすいマンションが最近見られるようになりましたが、これらの多くは体の比較的元気な方を対象にした住居の例と言えます。
但しアメリカのサンシティーに匹敵するリタイアメントコミュニティーと呼べるものはまだありません。
福岡にシニアの町ということで開発中の例はありますが、まだ200区画が売れた程度のようです。

日本で注目しなければいけないのは3月から入居を開始する神戸六甲アイランドに計画されたメディケアマンションです。これはS社の計画によるもので60㎡から80㎡のマンションが400戸で構成されています。一般の分譲マンションと全く同じと考えてよいのですが、レストランや大浴場があり、生活をサポートするサービスがついているため、同じ六甲アイランドに建つ他の分譲マンションに比べて1戸あたり1、000万円ほど高いようです。マンションの内容はこれまでの有料老人ホームを想像していただければよいのですが、最大の違いは終身にわたる介護の費用がついているのではなく、むしろ譲渡や相続が可能なことを売り物にしていることです。これはアメリカのリタイアメントコミュニティーと全く同じ発想で、体が不自由になればその状況に応じて、マンションを売却し別の施設に移ればよいということです。ここにはゴルフ場はありませんが、高齢者に対しての住居の提供の仕方はよく似た発想から行われています。
アメリカの高齢者施設を調査していて印象的だったのはロサンジェルスの『ユダヤ人高齢者の家』で自立型ホームを見学したとき、手摺などが無いことに対して、担当の方の「そのようなものをつけるとむしろ入居する方が嫌って入りません」という言葉でした。この『ユダヤ人高齢者の家』は自立型ホーム、一部介助型ホーム、療養介護型の各施設から構成されていて、その体の状況に応じて、入居する施設の内容が変わり、移動していくことに特徴があります。日本も同じようになってきていますが、日本に欠けているのは、この自立した元気な方の住居をどのように考えるかということです。


デルウエッブのコンセプトで注目されるのは高齢者とか老人というコンセプトで事業を捉えているのでなく、ベビーブーマーを見据えて事業を展開しているということです。2001年はこのベビーブーマーが彼らのサンシティーに住み出す55歳を迎える年なのです。膨大な消費者がこれから誕生してくるのです。
つまり彼らは老人に対しての住宅事業をしているのではなく、ベビーブーマーの住居を提供する事業を展開しているのです。従って彼らは、ベビーブーマーがどのようなところに住みたがっているか調査し、それにあった住宅事業をしていくわけで、その一つがこのリタイアメントコミュニティーというスタイルです。
これまでこのベビーブーマー・団塊の世代は商品企画の対象とされてきて、その年代に応じて様々な商品が開発されてきました。日本でも60歳を定年の年齢とすると、これから5年後に多くの退職者を迎える時期が来ます。その時彼らはどのような生活を送るのでしょうか。もちろんすぐに介護される生活に突入するのではなく長い元気な退職後の生活を送ります。彼らも、商品を提供する側も、「退職即ち老人、老人即ち体が不自由になる」という想定の今の図式をもっと現実に即した図式に変え、多様化した商品を提供することが必要になります。
日本において、退職後数十年の間働くことなく生活する層が出現するのか、働くことを良しとする気風が変化するのか、など様々な問題があります。しかし、60代、70代の元気な20年間をどのように過ごし、それをサポートする住居や街がどのような形をとるのかが今後の興味あるテーマとなります。