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時空読本 / No.12

アダーズ・ナーシングホーム

  • 2002/06/01
  • 時空読本
  • No.12

アダーズ・ナーシングホームとは

アダーズ・ナーシングホームはオーストラリアの南東に位 置するタスマニア島ホバート市の郊外にあります。 痴呆高齢者を一般的な精神病院に入院させるのではなく、 安全で家庭的な施設で過ごしてもらおう、と介護や医学の 専門家たちが計画し、1990年9月に開設され、現在36 人の痴呆高齢者が暮らしています。この施設の理念は、「歩行可能な問題行動のある重度の痴呆高齢者が、施設の 拘束を受けず、ごく普通の家庭で暮らすような生活をおくること。誰でも、どこでも、何でも、できること。安全で幸せでストレスのない生活をおくること。」にあります。 その理念実現のために、建物の設計には様々な工夫が凝らされ、入居者が快適に安全に暮らせ、スタッフは少人数で 行き届いたお世話ができるように配慮されています。


アダーズ・ナーシングホームの形

アダーズ・ナーシングホームでは入居者が普通の生活を安全に暮らすための工夫として、昼の生活と夜の生活を完全 に建築的に分けています。夜の管理を最少人数のスタッフで行い、その分、昼間の介護を手厚くします。

 
昼の生活:9人のハウスが4つ 夜の生活:36人のハウスが1つ

アダーズ・ナーシングホームの建築的工夫

明るいリビング、料理の匂いのするキッチン、自分の部屋、 使い慣れた家具、犬や猫、穏やかな庭・・・ごく普通の暮らし・・・

●普通に暮らす●

▲料理中のキッチン。いい匂い!

▲女性の部屋。緑の椅子とぬいぐるみ

▲バルコニーの古い椅子とバーベキューセット

▲ホバートではごく普通のリビング

●デッド・エンド
(行き止まり)なし●
ストレスをなくす!いつでも、どこでも行けること。 庭にだって自由に出入り。
▲“行き止まり”なし。いつでも自由に出入り!
●カムフラージュ・ドア●
ドアがあると開けたくなる、開かないとストレスがたまる。 スタッフ専用のドアは壁のようにカムフラージュ。 取っ手のあるドアは入居者の出入自由に!
▲職員WC。壁のように見える。 ドアクローザーでわかるが、入所者は上を見ない ▲近づくと鍵穴が・・・。ドアと痴呆の人は気づかない

ジョン・トゥース医師との質疑応答
 

アダーズ・ナーシングホームの創設と運営に深くかかわってこられたジョン・トゥース医師から直接説明を受けるこ とができました。トゥース医師にアダーズ・ナーシングホームについて、日本の新型特養についてうかがいました。

ゆう設計:アダーズ・ナーシングホームでの医療はどのようなものですか?最小限の治療・投薬でやっておられると聞い ています。
トゥース医師:一般的な病気は、ホームドクターがここに 来て診てくれる。痴呆については、特に異常な行動にはトランキライザーも使用するが、重要なのは薬ではなく、環 境とスタッフとの交流で落ち着かせることです。過去11年間でトランキライザーを使用したのは11例です。
ゆう設計:敷地に対する建物の配置で重要なことは何ですか?
トゥース医師:周囲の生活環境を考慮することが重要です 。周囲からストレスを受けないこと。入居者は外部に触れたいが、逆に外部から危害を加えられたくない、と思っている。適度な距離感が必要。
ゆう設計:日本で特別養護老人ホームを建設しようとすると、 アダーズ・ナーシングホームの形は認められません。(1)リビングへの各部屋からの距離が不平等であり、(2)廊下の両側に個室が並ぶのは施設的である、というのが理由ですが、 どうお考えですか?
トゥース医師:なぜダメなのかが解からない。11年運営していて、何の問題もない。リビングへの距離が不平等とい うことについては、距離は重要な問題ではない。また、夜 はスタッフエリアがリビングになるのだから、結果は平等。施設的になる、という意味が理解できない。図面の上の形ではなく、実際に普通の家のように感じられるか、運営ができるか、ということが重要です。あくまでも徘徊のある痴呆高齢者にとって何が大切かを考えて欲しい。

アダーズ・ナーシングホームから学ぶもの

庭に突然現れたバス停。何故? 「以前夕方になると“バスに乗って行かなくちゃ”という 入居者が一人いた。ベスター施設長の発想で、バス停を作り バスを待つことに・・・。しばらく待つと、入居者は何処 かへ行こうとしてバスを待っていたことを忘れていた。今、 ここでバスを待つ人はいない。」一人の入居者のために心 を尽くして考える姿勢に感動。 オーストラリアでは“ダイバージョン・セラピー(「転換」の 意より、気分を変える・目先を変える接し方)”はごく一般的な言葉 のようです。今回も入居者に優しく穏やかに話し掛けるス タッフを目にしました。スタッフは、厳しい訓練を受けて おられ、人間的にも暖かく優れた人のみを採用するという システムを取っておられるようです。 直接入居者に接するスタッフだけでなく、設計に携わる私 たちも、一人一人の入居者の気持ちになり、建築でのダイ バージョン・セラピーを試みたいと思います。“これまで暮らしてき たように、ごく普通に暮らすこと”とても当たり前なこと ですが、とても難しいことです。しかし、私たちが今暮ら しているこの暮らし方を継続できるように、大袈 裟な建築ではなく、ごく身近な建築であるように心がけた いと思います。トゥース医師が何度も口にされた言葉、 「SAFETY、HAPPY、RELAX」これらを実践できる“普通の 家”を目指して、特別養護老人ホームの設計にあたりたい、 と実感し、アダーズ・ナーシングホーム視察を終えました。


アダーズ・ナーシングホーム視察についての詳しい報告書を作成しています。
興味をもたれた方は、ゆう設計までお問合せください。